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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【1】 あなたが望んだ悪役令嬢(中編)
19/34

【1-4】三度目のメロディ・バベット・プレオベール:2


 デタラメを言うな。

 頭がおかしくなったのか。

 あたしをそこまで馬鹿にしてるのか。


 予想はしていたが、私の物語を聞いたナタリアーナは、そういった言葉を叫んで来た。

 ちらりと背後を見ると、リハルトもナタリアーナと同感らしく、彼の視線は完全に頭のおかしい女を見るものだった。

 別に構わない。


 私は立ち上がり、ドレスに着いた埃と砂を払う。

 そして、にこやかに言った。


「私の話がデタラメなら、何故あなたの行動を先読み出来たの? あなたと殿下の企みを失敗させられたの? あなたが動き出す前から、私は準備していたのよ。……まあ、万一あなたの気が変わった時に備えてはいたけれど、その必要はなかったわね」

「く……!」

「私も一度は思ったのよ――自分は気が狂ったんだろうかって。何かの病気に罹って頭がおかしくなって、架空の物語に侵食されたんだろうかって。でも違ったわ。あなたは、私の記憶通りに動いてくれた。笑っちゃうほどに」


 私が失笑すると、ナタリアーナは何かを怒鳴ろうとした。だが、口を大きく開いた途端、口蓋からは鮮血が溢れ出す。


「がっ……! かは……!!」


 苦し気に肩を上下させ、激しく咳き込むナタリアーナを見て、私はまた笑う。


「下手に動き回らず、安静にしてなさい。そうしたら、少しは死が遠ざかるかもしれないわよ。――尤も、内臓まで病に侵されているから、治ることはないけれど」


 言って、身を翻す。

 リハルトを視線で促し、鉄格子から離れる為に歩を進めると、聞こえたのが奇跡のような小さな掠れ声が、耳に届いた。


「……ごめ……ん、なさい……おねえ……」


 振り返らなかった。



 * * *


 明るい日差しの下に戻ると、私は大きく深呼吸をした。

 塔の前の庭園を進んで行くと、私に続いて外に出て来たリハルトが、声を上げる。


「メロディ嬢。先程言っていたことは……」

「事実よ。信じなくてもいいけど」

「……嘘を言っているようには見えませんでした。でも……」

「でも?」


 私が足を止めて振り返ると、先程の恐れを含んだものとは違う瞳が見えた。


「――すべては語ってないですよね」

「………………」


 やはり頭のいい男だ。

 だけど、促されるままホイホイと教える内容ではないので、質問を返す。


「何故そう思うの?」

「……正直にお答え頂けますか? ここでの会話は、俺の名に懸けて他言しません。だから……」

「――いいわ」


 振り向いた姿勢から完全に向き直り、リハルトを見る。

 彼はそれでも数秒迷う素振りを見せ、その後に口を開く。


「……ナタリアーナ様の病は、あなたが意図的に感染させた。そうですね」

「ええ」

「だとすると、おかしな部分があるのです」

「何かしら」

「ナタリアーナ様が病に感染した段階で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる」

「………………」


 相槌さえせずに私が黙り込むと、リハルトは続けた。


「あなたが先程おっしゃられた、ナタリアーナ様が気が変わった時の備えとは、ナタリアーナ様を治療して病を完治させる方法しかありません。『気が変わった』の意味は、ナタリアーナ様と殿下があなたを陥れようとしないこと、ですから」

「そうね。でも、だとしたら何がおかしいの? ――ああ、あの恐ろしい病の治療法を知っていながら、大勢の患者を放置していたことになるから?」


 患者を増やしたことだけでなく、私のしたことは医者としてあるまじき行いだ。

 それを非難されるかと思ったのだが、リハルトは首を振った。予想外の仕草に、私は思わず目を瞠る。

 そんな私をリハルトは睨むように見据え、続けた。


「違います。あなたがどんなに優秀だろうと、ナタリアーナ様が感染した時点で治療法を見つけていることなど、到底無理なのです」

「………………」

「ナタリアーナ様の症状の進み具合から見て、ナタリアーナ様が感染した――させられたのは、少なくとも2年以上前。かなり早い段階から、あなたの計画は始まっていたことになりますが、あの病の潜伏期間と症状が落ち着く期間を利用すれば、ナタリアーナ様ご本人を欺くことなど容易いでしょう。特に、肌のことを相談されていたあなたなら、何を聞かれても誤魔化し放題だ」

「……よく、そこまで……」


 素直に感嘆し、苦笑する。

 彼なりに調べたのだろう。短い期間でも私に同行し、患者の症状を直に見たことで抱いた違和感。

 あとは、勘だろうか。


「……この時間のずれは、何故なのですか。有り得ない」

「先ほどナタリアーナに言いましたが、二度目の人生だから、では納得出来ませんか」

「あなたが一度目の生で命を落としたのは、今のあなたとさほど変わりない年齢の時でしょう。そして、この国で例の病の感染者が最初に見つかったのは、そう昔ではありません。未知の病の研究には、ただのデータではなく生身の感染者がどうしたって必要になる。治療法を見つけるには、時間が足りない。もしかしたら、感染経路さえも」

「………………」

「あなたは、一体何者なのですか」


 リハルトからすれば、それ以外の質問の内容が思い付かなかったのだろう。

 だが、奇しくもそれは、正しい質問だった。

 私は微笑み、リハルトに返す。


「これが二度目の人生。それは嘘ではありません。――ですが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の話で、私はこれで三度目の生を迎えているのです」

「え……」


 一瞬理解出来なかったらしい。が、即座に気付き、何かを言おうとし、失敗した。

 だから、私が代わりに言ってあげた。


「一度目のメロディ・バベット・プレオベールの人生を終えた後、二度目の――別の人間としての一生が始まりました。その人生でも死を迎えてから、私はここに戻って来たのです。三度目の人生、二度目のメロディ・バベット・プレオベールとして」




 

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