【1-3】二度目のメロディ・バベット・プレオベール:8
予想外の敵――私視点なら味方ではあるが――が現われ、ナタリアーナとジェラルドの顔色が変わる。
私の擁護者として出て来たのが、私の学生時代の友人や顔見知り程度の人物だったなら、どうとでも言えただろう。私に頼まれたのだろうとか、金を積まれたのだろうとか。私の父、またはプレオベール家に仕えるメイドや使用人だった場合は、身内やそれに等しい者だから、証言は信用ならない等。
しかし、リハルトは僅かな期間私の護衛を務めていただけで、それもジェラルドの指示によって。つまり、リハルトの主はジェラルドなのだから、私を庇う理由などないのだ。
――私が無実でない限りは。
「リハルト……お前……」
「殿下、誤解なきようお願いします。私はあくまで『メロディ嬢は犯人ではない』ことを知っているだけであり、ナタリアーナ様を狙った輩は別にいる可能性がある、と述べているのです」
ジェラルドが何か言おうとする前に、非礼を承知でリハルトが素早く言う。
私は事件自体がでっちあげだと知っているが、リハルトはそうではない。よしんばでっちあげを疑っていても、ここで言うことは出来ないだろう。
リハルトの最大限の配慮に気付いたらしく、ジェラルドは姿勢を正して咳払いをした。ナタリアーナと言えば、ジェラルドとリハルトの顔を交互に見、不安を面に浮かべている。
「……そうだな。私はメロディが犯人だと確信しているが、私の側近とも言える騎士に免じて、一つ一つ検証するとしようか」
ジェラルドはそう言うと、私を一瞬だけ睨み、それからリハルトに顔を向けた。
リハルトは私に一瞬だけ申し訳なさそうな顔をして、またジェラルドに向き直る。彼の表情の理由を私は理解していたが、何も言わなかった。
「殿下、まずプレオベール家の温室で見つかったという、毒草の種類を教えて頂けますか?」
「ああ」
リハルトの問いにジェラルドは頷き、後方に向けて手を挙げる。その指示に従って、一人の騎士が小さな木箱を恭しそうに持って来た。
騎士はジェラルドの脇を抜けてリハルトに向かい、彼の前で立ち止まると、一礼をしてから木箱の蓋をそっと開けた。
リハルトは箱の中の毒草を、白い手袋で包まれた指先で抓み上げ、しげしげと眺め――そして小さく息を吐いた。
「……確かに、殿下の仰る毒が抽出可能な毒草です。プレオベール家の温室で、私も見た覚えがございます」
「そうだろう?」
「ですが、殿下――」
リハルトの台詞に大仰に頷きかけたジェラルドが、リハルトの続けた言葉に動きを止めた。
奇しくも、過去に私が発した台詞とほぼ同じ内容に。
「この毒草があったのは、どこの温室でしょうか?」
「――――」
ぴたり、と一時停止したジェラルドが、青い瞳だけを揺らす。
彼の頭の中で何が巡っているのかは分からないが、回答を一つ誤れば良くないことが起きると、本能で察したのだろう。
しかし答えない選択はなく、ジェラルドはおずおずと声を発した。
「……プレオベールの館の庭園の東側にある、薬草用の温室だが」
「間違いありませんね?」
「ああ、ない」
リハルトの念押しにジェラルドが頷くと、彼のこめかみを汗が流れるのが見えた。
そんなジェラルドをじっと見つめてから、リハルトは未だ持ったままの毒草を木箱に戻す。
そして、先のジェラルドのように手振りで騎士を下がらせると、懐から革の表紙の手帳を取り出した。
リハルトはその手帳を広げ、あるページがジェラルドによく見えるよう、掲げる。
「殿下。これは私がメロディ嬢の護衛を務めている間、そしてプレオベール家の館に滞在している間に書き留めた、温室に植わっている薬草の種類です。先程ご提示頂いた毒草は、殿下が仰った温室にはございませんでした」
「なっ……! ――しかしお前は今……!!」
「はい。……ですが殿下、例の毒草が育てられていたのは、別の温室なのです」
ジェラルドが顔を赤くして発した台詞にリハルトは返し、更に続けて説明する。
プレオベール家には、本館側の温室と別館側の温室があること。
別館側の温室の存在は、限られた者しか知らないこと。
プレオベール家に毒草はあるにはあるが、別館側の温室にしかないこと。
「メロディ嬢が館にいる間は、比較的自由な時間がありましたので、図書室で借りた図鑑と照らし合わせながら、私が調べたのです。間違いはありません」
リハルトがはっきりと言うと、ジェラルドが青褪める。それを見て取ってから、リハルトは続けた。
「殿下。密かに育てられている毒草があるのに、わざわざ本館側の温室に植え替える者はいないでしょう。こと、毒を使って誰かに害を為そうとしているならば、尚更です」
「う……」
「殿下が見つけた毒草は、別館の温室の存在を知らない何者かが、メロディ嬢を陥れる為に本館側の温室に植えたのでしょう。それが何者かは分かりませんが――そのようなことをした第三者の存在が分かっただけでも、再調査の必要があるのでは?」
リハルトが訥々と言うと、リハルトは唇を噛みながら拳を握っている。
私達の周囲にいる貴族達からも、ちらほらとジェラルドの調査内容を疑う声が出始めた。




