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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【1】 あなたが望んだ悪役令嬢(中編)
14/34

【1-3】二度目のメロディ・バベット・プレオベール:6


 翌日私は普段より早く起床し、メイドの手も借りずに一人で身支度を終わらせると、部屋を出た。

 今日の予定はリハルトに伝えていたので、廊下に出るとリハルトが私を待っているのが見える。


 やる気があるのは有り難いが、昨夜の夕食後、リハルトが図書室で数時間過ごしたこと、結果就寝は遅くなったことを知っているので、私は挨拶よりも先に言った。


「もし眠ければ、寝てても良いですよ。今日は繊細な作業をするので、後ろで舟を漕がれては困ります」

「……メロディ様、昨晩お休みになられたのは何時頃ですか」

「少なくとも、あなたが寝た後ですね」

「………………」


 リハルトはショックを受けた顔をしたが、自身の両手で自分の頬をピシャリと叩き、表情を引き締める。

 そんな彼を先導するように食堂に向かって歩きながら、私は簡単に説明した。


「昨日言った通り、今日は二ナ専用の薬を作ります。まずは温室で薬草を採取し、薬品庫で必要な物品を選び、調合室で薬を調合。慣れた作業なので私一人で出来ますし、昼過ぎには終わるでしょう」

「分かりました」


 リハルトは頷き、しかし数秒だけ思案する様子を見せてから、言って来る。


「あの、もし調合が極秘事項でないのであれば、少し勉強させて頂いてもよろしいでしょうか」

「というと」

「メロディ様の仕事ぶりを見ていましたら、俺も薬草の種類や効能に興味が湧きまして。図書室で見つけた薬効の本と照らし合わせながら、見学したいのです」


 頬を染めて髪を掻きながら言うリハルトに、私は頷いた。


「騎士の仕事をされている時にも、いつか役に立つかもしれませんものね。構いませんよ。ただし、薬をご自分で作ってみようなどとは思わないで下さいね」

「分かっています」


 私の言葉に笑うリハルトに、彼から言い出してくれて良かった、と顔には出さずに安堵する。

 そうでなければ、私から提案する所だった。




 調合し終えた薬は清潔な容器に入れて、念の為使用法を認めた紙片と一緒に箱に詰め、信頼出来る使用人に預けて皇宮へと届けさせた。

 それらはリハルトの目の前で行われ、全てが終わった時には当初の予定より遅い、夕方前になっていた。


「作業中にあれこれ聞いた俺のせいですね、済みません」

「気にしないで下さい。新しい助手に教えながらの調合だと思えば、手順を再確認出来て良かったですわ」


 申し訳なさそうなリハルトに笑うと、やっと彼の顔にも笑みが浮かぶ。

 一つの薬の作成を最初から最後までやり遂げた、という満足感まで浮かんでいる。そういった表情は、私がとうの昔に失ったものでもあるので、面映い気持ちにもなる。


「夕食まで少し時間がありますね。お茶でもどうですか?」


 私が言うと、リハルトは目を細め、大きく頷いた。


 * * *


 それから約一か月の間、私はリハルトとの時間を淡々と増やし、同時にリハルトの薬草の知識も増えて行く。よく使う薬草の採取や、調合までは行かなくとも準備程度なら、私の監修がなくとも出来るようになった頃。


「皇室からの招待状だ。……婚約発表パーティの」


 例によって私と父、リハルトが揃った夕食の席で発せられた台詞に、私は苦笑した。

 前の時よりは少し時期は早いが、聞き覚えのある台詞だ。

 視線を感じて顔を上げると、リハルトが気遣わし気に私を見ている。それに大丈夫だ、という意味の笑みを浮かべ、父に顔を向ける。


「私は大丈夫です。殿下の事は吹っ切れてますし。笑顔で祝福して来ますわ」


 言うと、父は微笑んだ。

 対してリハルトは眉尻を下げて私をしばし見つめ、おずおずと言う。


「あの……もし失礼でなければ俺……私にメロディ様をエスコートさせて頂けませんか?」

「え」


 予想外の提案だったので本気で呆気に取られていると、父が意外にも賛成する。

 諸手を挙げて、という程ではないが、名乗りを上げてくれたこと自体を喜ぶような。


「私は用事があって出られないからな……。メルも特に約束はないのだろう? 悪くない提案だと思うが?」

「ええ、まあ……」


 私が乗り気ではないことに気付いたらしい。リハルトが慌てて続ける。


「あの、断って下さっても大丈夫です。プレオベール家のご令嬢と俺では、釣り合いが取れませんし」

「いえ、そういうことでは。お気持ちは大変嬉しいですわ。ですが、私は一人で行った方が良いのではと……」


 私が苦笑しながら言うと、父とリハルトが両目を瞬かせた。その二人に、訥々と言う。


「婚約破棄を恙なく受け入れたとはいえ、ジェラルド殿下から見れば、私はニナに辛く当たった義姉です。ニナを案じる故に、殿下は私の動向が気になっているに違いありません。そこに殿下の信頼が厚いリハルト様が私をエスコートして現れれば、リハルト様が殿下の傍に戻られた時、心穏やかではいられないでしょう。……リハルト様の立場を慮ればこそ、エスコートは謹んでお断りいたします」

「メル……」


 悲し気に私を見る父に微笑み、そしてリハルトを見る。

 彼は名残惜し気に、しかしゆっくりと頷いた。


「お気遣いを有難うございます。浅慮な提案をして、困らせてしまいましたね。申し訳ありません」

「いいえ、嬉しかったですわ。今回は残念ですが、また機会があれば誘ってくださいませ」

「はい」


 やっと笑みを見せるリハルトに、胸中で告げる。


 私があなたに求めている役割は、それじゃないのよ。


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