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悪役令嬢物語  作者: 東雲野乃
【1】 あなたが望んだ悪役令嬢(中編)
12/34

【1-3】二度目のメロディ・バベット・プレオベール:4


 リハルトを連れての案内が終わると、館に戻ってリハルトに用意した部屋へと連れて行った。

 護衛の騎士に対して広く豪華な部屋だと感じたらしく、彼は室内に足を踏み入れると、呆けた顔で数秒間天井まで見渡す。


 ジェラルドが私の護衛に寄越す位だから、騎士として優秀ではあるのだろうが、生まれや育ちが恵まれていたとは限らない。

 僅かに沸いた同情を顔には出さないようにして、私は言った。


「明日は貧民街(スラム)に同行して頂きますので、今日の所は休んで下さい。後ほど夕飯と、その後に湯浴みも用意します。それまでは、自由にして頂いても構いません。使用人にも話が通っているはずですから、必要なら館内を見回っても良いですし、暇を潰したければ図書室の本をご自由に。何か困ったことがあれば、ベルを鳴らして下さい。使用人が参ります」

「……はい。有難うございます」


 どうやら私の台詞の内容は、彼が想定していた以上の優遇だったらしい。リハルトの碧眼は、僅かに輝いていた。


 * * *


 翌日、朝早くから私とリハルトは馬車に乗っていた。私の助手もいるのだが、荷物が多いこともあるので、今日は馬車を二台用意し、分かれて乗った。


「よく眠れましたか」

「はい。朝食と……昨晩の夕飯もとても美味しかったです」

「それは良かった」


 笑顔で答えるリハルトに私は軽く笑い、しかし即座に、言い忘れていたと顔を引き締める。


「万一不調がある場合は、小さなことでも仰って下さい。私達が会うのは、弱っている傷病者です。私達にとっては軽い風邪でも、彼らに移りでもしたら命取りになることも珍しくありません。いいですね?」

「は、はい!」

「逆に、どこかが弱っていると患者から病が移ることだって有り得ます。治す側が感染拡大の手助けをしたとなると、色々な意味で終わりです」

「承知いたしました!」


 私が睨むように見つめたのが、効果覿面だったらしい。リハルトは背筋を伸ばして何度も頷いた。

 彼は、私の仕事を軽視していた訳ではない。ただ知らないだけだ。だから怒ってはいないのだが、親に叱られる悪戯小僧のような風情に、私は思わず噴き出した。


 * * *


 貧民街(スラム)の教会に到着したが、私達はすぐに病人が集められている部屋にはいかず、庭の隅に新た建てられた小屋へと向かった。助手が手分けして荷物を運び出す。


 リハルトは彼らを手伝うべきか迷ったようだが、私が促したので歩き出す。

 騎士の力仕事は助かるのだが、今は彼にここのルールを叩き込まなくてはならない。


 リハルトを連れて小屋に踏み入ると、リハルトが息を飲んだ。

 シンプルなただの広い部屋なのだが、薬品棚や仕切りによって区切られており、井戸まで行かなくとも水が使えるようになっているだけでなく、その内の一つには身体を洗えるよう桶が設えられている。


 仕切りの一つにリハルトを誘導すると、私はリハルトに言った。


「こちらの服に着替えて下さい。服を脱いでこれを着る前に、石鹸で丁寧に手を洗うように」


 私が真っ白な衣服を手渡すと、リハルトは戸惑いを見せた。

 無意識にだろうが、彼の手が腰の剣に触れたので、言う。


「帯剣は構いませんが、この場所では有事の際でも絶対に剣を抜かないようお願いします。危険ですので」

「有事ってのは危険な時でしょう」

「それでも、剣を抜けばその場にいた全員が危険に晒されます」


 彼の憂慮は分かっているが、私の硬い声になおも何か言おうとするリハルトに、私は声量を上げた。


「どうしても剣を振り回したいのでしたら、病室には入らずに外で待っていて下さい。『全員が危険に晒される』というのは、私と貴方を含めて、という意味です」

「しかし、それでは護衛の意味が……」

「リハルト様」


 これは説明が必要だろうと判断し、私はリハルトを睨みつけた。

 私がここまで要求する意味を、彼はちっともわかっていない。


「これから向かう病室にいる患者の中には、治療法も判明していない者もいます。つまり、私達が万一感染しても、治すことが出来ないのです。私が言っているのは、あらゆる感染の可能性から遠ざけるための措置です。手袋なしに患者には触れられません。マスクなしでの会話もしてはいけません。ましてや、患者の血に触れたらどうなるかも分かりません」

「血……」

「そうです。貴方が剣を抜き、病室中に血が撒かれでもしたら、そこにいた者全てが感染すると考えて下さい。これは決して、大袈裟に言っているのではないのです」

「………………」


 理解したのかやっと口を閉じ、更には青褪めるリハルトに、私はやや声色を和らげる。


「……やはり、病室の外でお待ちに――」

「……いえ、貴女の指示に従います。帯剣はしますが、何かあった時は鞘に収めたままで使います」


 やや暗くなった顔色でも、リハルトはそう言い、私はそれに頷いた。


 

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