梨咲ちゃんの商談
「タダ働きも何も、お手伝いするとは決めて無いですわ」
「フフン♪こまっちゃんが困ってる人を見捨てるとは思えないわ」
「買い被り過ぎよ梨咲ちゃん」
「まあ、良いから、良いから、私に任せて♪」
「ちょっと、梨咲ちゃん……。ハァ~」
こうなった梨咲ちゃんは、もう止められないわ……お任せするしか無いわ……。
「網乾社長、商談よ♪」
「な、何だね、いきなり」
「フフン♪今日、何で私達三人が、ここに居るかお分かり?」
「うん?どう言う事だね……今日と言えば、本来なら我がデパートで行われる西洋物産展の初日。確か、油小路家、蘆屋家、鍋島家、御三方の家にもパンフレットを送っている筈……ああ、成るほど、だから商談と」
「さすが網乾社長、感が良いわ♪」
「それで、御三方は何を所望ですかな?」
その問いに反応したのは忍ちゃん。
梨咲ちゃんの袖を引いて、小声でやり取り。
「梨咲さま、私までも何か戴く様な理由は……」
「良いの、良いの、戴けるものは戴いちゃいなさい♪良いよね、こまっちゃん♪」
はぁ~、こうなったら成る様に成れ、ですわね。
「ええ勿論ですわ♪梨咲ちゃんにお任せしますわ」
「そうね、じゃあ私はケーキを御所望よ♪フランスから呼び寄席に成った、パティシエさんのケーキ。とっても楽しみにしていましたの♪」
「で、次はしのちゃんね。しのちゃんは万年筆を御所望よ♪確か昨日、パンフレットの万年筆のページの右上に載っていたドイツ製の万年筆のイラストをうっとり見ていたわ♪」
「梨咲さま、あれはお高いですわ……」
「良いの、良いの♪」
「そして、こまっちゃんの御所望は、シノワズリの猫ちゃんのティーセットよ♪何が起こっているか知らないけれど、蘆屋家の御令嬢の手を煩わせるのだもの、五百円のティーセットなんてお安いわ♪そうはお思いに成りません♪」
「うむ、承知致しました。デパートの解放に少なからず御尽力願えるとあらば、手配いたしましょう」
あっさりと梨咲ちゃんの提案をお飲みに成ったわ。
多分梨咲ちゃんは、吹っ掛けて様子を見ようとしていたと思うのだけれど……。
一体何が起こっているのかしら?
ちょんちょんと梨咲ちゃんが袖を引いて、小声で話しかけてくる。
「こまっちゃん、ゴメンしくじったわ。もっと吹っ掛けても良かったみたい。今からでもティーセットを二セット所望してみる?」
首を横に振る。
「あまり欲をかくと、返って無理難題を押し付けられても困りますわ」
「まあ、それもそうね♪」
「ともかく、仕方有りませんわね。どこまでお力に成れるか分かりませんけれど、お手伝い致しますわ」
「小町ちゃん。本当に良いの?」
「ええ諏訪さん。どのみち、お困りに成っている諏訪さんや警部補殿を置いて何処かに遊びに行っても、気に成って楽しめませんもの。それにしても、一体何が起こっておりますの?」
「助かるよ、お嬢ちゃん。詳しくは俺から説明しよう。人前であまり詳しくは話せ無いし、お嬢ちゃんにはその必要も無いと思うが、例の降霊会の参加者と言えばわかるか?」
「サートゥル……」
そう言いかけた処で、警部補さんが口に人差し指を当てる。
人前で話してはいけない名称と言う事ですのね。
サートゥルヌスの密儀の名は。
「そう、それだ」
「では、もしかして眷属が……」
サートゥルヌスの密儀に参加し、トーテムに触れてウェンディゴに成った参加者。
彼らは、ウェンディゴの呪いを受け、芝浦の洋館の地下に居た土手瓦さんの様な姿、眷属へと変貌して、人の血肉を求める様に成る。
諏訪さんや警部補さんがデパートに追い詰めたその眷属が、立て籠もっていると云う事かしら……。
あら?
でもおかしいわ。
警部補さんはともかくとして、諏訪さんまで眷属如きに遅れをとるとは思えないのだけれど……。
確かに、洋館の地下に居たチヴィントンさんでしたかしら。
眷属で在りながら、ウェンディゴの様に触手を振るう個体もいたけれど、それでも、諏訪さんならタケミナカタを降ろせば瞬殺ですわ。
手をこまねく事は無い筈。
「いや、奴は眷属じゃ無い。帳簿の後ろ半分に名前が有った男だ」




