物騒なお名前まで、受け継いだ積りは御座いませんわ!
「フン、さあな。立て籠もってる津案に聞いてくれ」
いつに無く不機嫌な警部補さんのお顔がさらに不機嫌に。
変わって諏訪さんがお答えに成る。
「網乾社長、先ほどから何隊か部隊を内部に送ったが戻ってこない。詳しい状況が分から無い以上、策の立て様も無い状況です。申し訳ないが、今暫くお待ち頂きたい」
「まったく……迷惑な話ですな。あなた方の不手際で、凶悪犯を取り逃がし、あまつさえ、私のデパートに追い込んだ挙句籠城されるとは……しかも、これだけの雁首を並べて、その犯人一人、未だに確保出来んとは、まったく呆れるばかりですな。店内は荒らされ、営業再開の目途も立たず、この責任は何方がお取りに成るのでしょうな。損害賠償の請求はどちらに出せば宜しいかな?憲兵ですかな。それとも警視庁ですかな」
この方が網乾屋さんの社長さんね。
まあ、仰っている事はズレてはいませんけれど……大分性格がアレな方ですわね。
梨咲ちゃんのお父様が、人格的には見習う所は皆無と仰っていたらしいけれど……納得ですわ。
「とにかく、この様な所で暇を潰すくらいなら、さっさと全員で突入する成り何なりされてはどうですかな。フッ、私には警視庁の上層部にも、憲兵の上層部にもコネが有りましてね。あなた方の処遇など、どうとでも出来るのですよ」
「なんだと、貴様!」
と、頭に血が上った警部補さんを制したのは、意外にも忍ちゃん。
何だか珍しく目が座っていますわ。
「網乾社長、失礼ですけれど、どの様なコネをお持ちで、今何が起こっているのかは存じ上げませんけれど、父上は無体なコネとやらに屈して部下の処遇をお決めになる方では御座いませんわ」
成るほど、忍ちゃんのお父様は警視総監ですもの。
網乾社長の言い分だと、忍ちゃんのお父様がコネで動かされる人物だと称した事にも成るわ。
それで、忍ちゃんはカチンときたのね。
「何だね、お嬢さんは?大人の話に入ってくるものでは無い。子供は向こうに行き給え」
「網乾社長、聞かなかった?しのちゃんは父上と言ったのよ♪」
「うん?お嬢さんは確か、油小路家の……。ん、父上だと?」
「そうよ、しのちゃん苗字は鍋島よ♪」
「で、ではまさか、此方のお嬢さんは警視総監閣下の……」
「網乾社長の話ようだと、しのちゃんのお父様が、まるでコネで動く様な軽率な方だと称している様よ。大変失礼に当たると思うのだけれど♪」
「くっ……」
網乾社長、返す言葉を無くしてる。
フフ♪梨咲ちゃんも良い性格しているわ。
昨日まで、ベッドで寝込んでたとは思えない程、生き生きしている。
せっかくですもの、私も♪
「それは、私の叔父様も同様ですわ♪」
「お、お嬢さんは……?」
「ふふふ♪特別に紹介して差し上げるわ。こまっちゃんの苗字は蘆屋よ。で、叔父様の苗字は西と言うの♪」
「蘆屋……西……ま、まさか蘆屋伯爵に西男爵……」
「ええ、お初にお目にかかりますわ。蘆屋久弥の娘、蘆屋小町と申します。叔父様は憲兵司令官をされていますの。叔父様は質実剛健で、見かけに寄らず温厚な人格者でも在るのだけれど……相手をお選びに成って、その人格者の仮面をお脱ぎ棄てに成るお方でも有りますわ。特に侮られるのはお嫌いの様。お言葉はお選びに成られた方が宜しいわ♪」
「だ、そうよ♪網乾社長」
と、なぜか勝ち誇ったドヤ顔の梨咲ちゃん。
網乾社長は、と言うと……少々言葉が過ぎたかしら、絶句されてますわ。
「くっ……。ん?今、蘆屋伯爵の御令嬢と仰ったが、もしかして、昨年お亡くなりに成られた御隠居様の後継者とは、お嬢様のことでは?」
言葉を失っていた網乾社長の目の色が変わりましたわ。
なんか、面倒な事に成りそうな予感。
「蘆屋家の後継者と言う事でしたら、当然お父様ですわ。その次は、長男の弟が居りますから、あの子が」
すっとぼけてみる。
「いいえ、そうで無く。帝都の魔人の……」
「私はその様な物騒なお名前まで、受け継いだ積りは御座いませんわ!フンッ!」
何やら、梨咲ちゃんや忍ちゃんだけで無く、諏訪さんや警部補さん迄くすくすと……。
失礼ですわ、まったく!
「こ、これは失敬した。しかし、お噂は兼ねがねお伺いしております。どうか、そのお力をお貸しください。彼らを信用しないわけでは有りませんが、このままでは営業再開もままならず、私のみならず従業員一同、路頭に迷う事に成るやも知れません。先ほどの皆さんに対する非礼はお詫びいたします。どうか……」
急に態度が変わって、深々と頭を下げてらっしゃる。
弱りましたわ……力を貸すも何も、何が起こっているか状況さえ分かりませんのに……。
「そう言う事なら、俺からもお願いする。お嬢ちゃんが力を貸してくれれば、この膠着した事態を何とか出来るかもしれん」
「警部補殿、そうそう小町ちゃんに頼るわけにも……」
「それは承知している、だが……」
諏訪さんも警部補さんもお困りの様。
ちょんちょんと誰かが私の袖を引く。
梨咲ちゃんだわ、何かしら?
そっと、耳元に近付いてきて囁く。
「こまっちゃん、チャンスよ!タダ働きさせられ無い様に、私が商談して上げる♪」




