そのお姿……どうされましたの?
「何が有ったのかしら?河内山、取り合えずこの辺りで車を止めて」
「承知致しました、お嬢様」
私達三人とマナちゃんは車を降り、野次馬に混じって様子を見に行く。
どうやら、警官や軍人さんは網乾屋百貨店を取り囲んでいる様ですわ。
あら?よく見ると、軍服の皆さんの腕に腕章が巻かれている。
憲兵さんですわね。
「はぁ~……せっかく、元気に成って久しぶりに、こまっちゃんと、しのちゃんとお買い物なのに……」
「小町さま、梨咲さま、私が何か有ったか聞いて参りますわ」
忍ちゃんはそう言うと躊躇う事無く、制服の警官達を指揮されている左腕を包帯で釣ったスーツ姿の男性の元へ。
大正時代の普通の十四歳の女の子だったら、警官なんて怖くて尻込みしてしまいますけれど、忍ちゃんのお父様は警視総監ですもの、強面の警官の方達に慣れてらっしゃるのね。
それに、万が一尋ねた警官が、忍ちゃんに無礼な物言いをすれば、寧ろその方が可哀想な事に成りますわ♪
そう言えば確か以前上村さんが、私に無礼な物言いをした警部補さんに、離島勤務とか仰ってましたけれど……忍ちゃんに無礼を働いた場合は、何方に飛ばされるのかしら……。
「あの~、失礼します。網乾屋百貨店で何か御座いましたのかしら?宜しければ、少々事情をお教え頂きたいのですけれど」
「なんだ、お嬢ちゃんは?そんな暇は無い!さっさと向こうに行け!邪魔だ!」
あら?
このお声聞き覚えが有りますわ……はぁ~、懲り無い方ですわ。
「警部補殿、忍ちゃんにその様な物言いをなさると、本当に地の果てで勤務なさる事に成りますわよ。忍ちゃんの苗字は鍋島と申しますのよ。心当たり御座いませんかしら。ウフフ♪」
「鍋島だと……って、まさか鍋島警視総監の!」
「父上がいつもお世話に成っております♪」
「こ、これは御無礼を……って、お嬢ちゃんじゃないか!」
私にお気付きに成ったよう。
警部補殿が青い顔をされていますわ。
でも、それは警視総監のお嬢様に無礼をしてしまったから、だけと言う分けでも無さそう。
「それにしても、警部補殿どうされましたのそのお姿?満身創痍では御座いませんの……」
左腕を包帯で釣っていらっしゃるわ。
骨折でもされたのかしら。
それに、両頬にガーゼを張り付けているけれど、血が滲んでいる。
「はぁ~、どうもこうも……昨夜から捕り物でな、手痛い目に合った挙句、網乾屋に立て籠もられて、御覧の有様さ……。で、お嬢ちゃんは何でまたこんな惨事のど真ん中に?……もしかして、手伝ってくれると言うなら心強いが!」
「手伝うも何も、私はお友達と、お買い物ですわ♪網乾屋さんの西洋物産展を見に来ましたの。でも、困りましたわ……お買い物どころでは無さそう」
「あれ?小町ちゃん」
腕章の付いた軍服姿の女性が歩み寄ってくる。
「諏訪さん、お早うございます、ですわ♪諏訪さんも、警部補殿と捕り物ですの?」
「ええ、そうなのよ。油断したわ……」
諏訪さんは、警部補殿と違って無傷の様ですけれど、目の下にクマ。
恐らく徹夜されたのね。
疲れが見て取れる。
後で、マナちゃんにリンゴを分けて貰って、差し入れしようかしら。
「諏訪さん、先日はどうも有難う御座いました」
「あら、梨咲ちゃんよね。事件以来、体調が芳しく無いって伺ってたけれど、お元気に成られたのね。良かったわ♪」
「はい、お陰様で」
「梨咲さま、小町さまお知り合いですの?」
「ああ、紹介知るね。諏訪さんはこの間の事件で、こまっちゃんと一緒に私を救出して下さった方よ。そちらの男性の方とは、私は面識無いけれど……」
「こちらは、山田警部補殿ですわ。年明けから、私がお手伝いしていた憲兵さんのお仕事で、お知り合いに成りましたの」
諏訪さんと警部補さんにも、梨咲ちゃん忍ちゃんを紹介したところで、見知らぬ方が声を掛けてくる。
「ところで、私のデパートはいつ解放されるのだね、中尉に警部補」
お召しになっているスーツは、かなり高級な物ですわ。
でも、青白いお顔、こけた頬、陰鬱としたお声、まるで死神……いいえ、どちらかと言えば貧乏神の様ですわね。




