立て籠もり事件のあらまし
帳簿の後ろ半分……一件の後、参事官が使っていた倉庫で見つけた、帳簿の後半の部分の事だわ。
帳簿の前半は公使の隠し金庫で見つかった物。
前半は、必然的に眷属の名簿にも成っていた。
けれど後半は、未だ儀式でウェンディゴに成った事の無い参加者の名簿。
「だとすると……何故この様な事態に?」
「ヤツの名は津案正辰。人形町で古書店を経営して生計を立ててる男だ……まあ、表向きはな。だが、裏では違法な魔道具の密輸と販売で荒稼ぎしていた小悪党だ」
「小町ちゃん、覚えてるかしら。梨咲ちゃんの誘拐事件で使われた、祭壇とか黒川が持っていた儀式用の短剣。あれを黒川を騙して、売りつけた張本人よ」
あの出来の悪い祭壇。
アレのお陰で、梨咲ちゃんは昨日まで寝込む羽目に。
それに、そもそも、人を生き返らせる術と称して、ネクロマンシーの魔道具なんかを黒川さんに売り渡すことが無ければ、黒川さんも罪を犯す様な事は無かったかもしれない。
ホントに諸悪の根源ね!
「津案は、商売相手を見つける為に例の降霊会に参加していた様なんだが、お嬢ちゃんも知っての通り、あの降霊会の参加者は皆罪人だ」
当然ね。
何の罪もない人を贄にして、そして……思い出したくも有りませんわ。
「それで、昨夜ヤツの身柄拘束に、警視庁と魔取が合同で追い詰めたんだが……してやられた。橋の上で挟み撃ちにした処で奴は、妙な物を召喚しやがった」
「妙な物ですの?」
「ああ、その……何だ……」
なんか言い辛そう。
「雪だるまだ」
「は?今なんと?」
「だから、雪だるまだ。と言ってもタダの雪だるまじゃ無い。お嬢ちゃんみたいに氷柱を飛ばして来やがった。それも、何発も連射でな。お陰で、部下の一人は重傷で、今も生死を彷徨っている。他にもケガ人が大勢出たし、俺もこのざまだ」
相対したわけでは無いし、お爺様から聞いた事が有る程度で、氷柱を飛ばすかは分からないけれど、狂暴な雪だるま……心当たりが無いわけでは無いわ。
「それで、その津案と言う方はお逃げに成ったと?」
「ああ、不甲斐ない話だがな。それで、どうやらこのデパートの中に逃げ込んだのは直ぐに突き止めたんだが。どうも中の様子がおかしいらしい」
「此処からは、私が話すわ」
諏訪さんが代わって話し始める。
「デパートに逃げ込んだとの報を受けて、直ぐに合流したんだけど、その時には既に異様な状況だったわ。デパートの裏口のドアが破壊され、そこから侵入した事は直ぐに判る状況だったんだけど、中から異常なほどの冷気。入り口付近は既に凍り付いた状態だったわ。それで、突入する前に温度を測ったんだけど……マイナス40度、とても通常の装備で中に入るのは危険と判断したの。それで、防寒着とか装備を整え、私の部下三人と警部補殿の部下三人が中に突入したんだけど……彼らは戻ってこなかったわ。そして更に人数を増やして十人の部隊を送ったんだけど……彼らもまた……」
「送り込んだ部下達の安否が心配だし、助けにも行きたいが……」
「ミイラ取りがミイラにと」
「そう言う事だ、お嬢ちゃん。せめて内部の状況がどうなっているか分かれば対処のし様も有るんだがな」
「それでは、私のお仕事はデパート内部の偵察と、突入された皆さんの安否確認と言う事で宜しいかしら?」
「ああ、十分だ」
「そうですわ、出来れば少しでも相手の情報を知って置きたいのですけれど、何か手掛かりに成る様なモノは御座いますかしら?」
「そう言えば、ヤツが雪だるまを召喚した所に、コイツが落ちてた。何か分かるか、お嬢ちゃん」
警部補さんが部下の方に命じて、布の様な証拠品を目の前に。
羊皮紙ですわね。
茶色く変色しているけれど、魔法陣が描かれている。
この魔法陣で召喚したのね……でも、これって……。
「おかしいですわね。お話を聴いて、てっきりジャックフロストを召喚する魔法陣かと思いましたのに……これは、ミルメコレオの召喚陣ですわね。以前の祭壇同様、すこぶる出来の悪さですけれど」
「ジャック……なんだって?」
「ジャックフロストですわ。雪と氷で出来た妖精ですの。妖精と言っても、とても狂暴な妖精ですわ。お爺様のお話しでは、笑いながら人を氷漬けにするんだとか。でも、この魔法陣で召喚されるモノは、ミルメコレオと言う化け物ですわ。頭がライオンで胴体が蟻の姿をしていますの。悪魔とまでは行きませんけれど、その眷属の様なモノですわね。常に飢えて狂暴な魔物だと、お爺様は仰っていたわ」
「はぁ~、つまりは、どっちも狂暴なヤツって事か……」
「フフ、そうですわね……あら?これは」
この魔法陣、単に出来が悪いだけでは無いわ。




