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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第三章 レイラ、貴族になる

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6、ザック

 レナルドの出て行った執務室には、入れ替わるようにウッズが入ってきた。


「ロイ様、スチュアート邸から報告が来ました。二人とも目を覚まし、ステラ夫人と話したようです。少年の方の怪我も大したことはなく、元気に過ごしているようでございます」


「そうか。良かった。だがレナルドが嗅ぎ付けたようだ」


「レナルド様が?」


「ああ。だからと言って、さすがのレナルドも叔母の公爵邸を家捜(やさが)しなどは出来ないだろう。二人が人目につかぬよう、屋敷の外に出ないように言っておかねば」


「ではそのように連絡させましょうか?」


「いや、私が直接言おう。絵師の少女には聞きたいことがある」


「あの絵の具のことを問い詰めるのでございますか?」


「……」


 ウッズの言葉にロイは少し考え込んだ。

 銀のケースは今のところロイの部屋に隠してある。


「問い詰める……か……。アルフォード家の息子ロイとして話せば、尋問のようにならざるを得ないだろうな」


「それが何か問題ですか?」


 ウッズは首を傾げた。


「あの絵師の少女とはロイとしてでなく話してみたい。少し気になることがあるんだ」


「気になること? 一応ステラ夫人にはロイ様のことはまだ明かさないように言ってはありますが、あのご婦人がどこまで黙っておけるかは分かりませんよ」


 悪い人ではないが、それゆえに嘘や隠し事のできる人ではない。


「ザックとして会おう。それなら叔母上も誤魔化すこともないだろう」


「ザック様としてですか……」


 ザックというのはスチュアート邸にいる間のロイの呼び名だった。


 ロイは幼い頃に母を亡くし、アルフォード家の嫡男として堅苦しい執事たちに厳しくしつけられながら育った。乳母もいたが、身分の低い乳母たちはロイを庇えるはずもなく、執事の命じるがままに秒刻みのスケジュールをこなすことを課せられた。


 さらには後妻となったレナルドの母クリスティナは、ありがちな事だがレナルドばかりを可愛がり、ロイが少しでも粗相をすると激しく非難して時には叩かれることもあった。


 そんな日々が続くうちに、幼いロイは心を閉ざししゃべらなくなった。


 さすがにこれはまずいと気付いた執事たちは、母親の愛情が必要なのだろうという結論に達し、子供のいないスチュアート邸でしばらく静養させることにした。


 スチュアート公爵には、まったく子供が生まれなかったわけではない。

 男子が一人だけ生まれたのだが、一才になる前に病気で死んでしまった。


 その息子の名がザックだった。


 夫妻はロイのことをザックの生まれ変わりであるかのように歓迎した。


 そしてスチュアート邸にいる間だけは、ストレスの元となっているアルフォード家嫡男のロイという肩書きを捨て、ただのザックとなって過ごすことになった。


 大らかで温かい夫妻の元で過ごすうちに、すぐにロイは元の明るく快活な子供に戻った。


 元気になったと知ると、執事たちはすぐにアルフォード邸に戻そうとしたが、そこはアルフォードの弟公爵でもあるスチュアートが守ってくれた。


 そうしてロイはスチュアート夫妻を第二の両親のように慕いながら育ったのだ。


 もしスチュアート夫妻がいなければ、自分はどんな風に育っていたのだろうかと思う。


 きっと執事たちに知識ばかりを詰め込まれ、継母(ままはは)のクリスティナに心を壊されていたことだろう。

 

 ロイは夫妻を自分の人生を温かなものにしてくれた大切な恩人だと思っている。


 だが恩返しをする間もなく、スチュアート公爵は五年前に亡くなってしまった。

 未亡人となったステラ叔母上は、すっかり(ふさ)ぎこみ出かけることもなくなった。

 毎日のように焼いていたクッキーもすっかり焼かなくなってしまった。


 出来る限り屋敷に顔を出すようにはしているものの、成人となったロイにはすでに多くの執務がある。アルフォード家の後継の一人として、すべき事が山のようにあった。


 なんとか叔母を元気にする方法はないかといつも考えていた。


 そうしてミリセント教会で哀れな姉弟の姿を見た瞬間に、ロイの頭の中に二つの考えが浮かんだ。


 この清らかな姉弟をどうしても幸せにしてやりたいという気持ちと。

 ステラ叔母上を元気づける存在が欲しいという気持ちと。


 慈悲深いステラ叔母上ならば、庶民の子供であってもきっと大切に育ててくれるはずだ。


 一方でソフィーが魔法使いと慕う快活な少女。マッチのケースを買った時もウッズを手こずらせるほど自分に挨拶をすると言って聞かなかった威勢のよさ。


 不思議なことだが、この少女ならばスチュアート公爵の亡き後、暗く沈んでいたあの屋敷さえも明るく華やかにしてくれるような気がした。


 そしてロイの思惑は当たっていた。


 ゆうべ二人を預けに行くと、ステラ夫人はしばらく痛ましい姿に心を痛めていたのだが、すぐにしゃきしゃきと動き始めた。


 メイドたちにベッドメイクを命じ、しばらく焼いてなかったクッキーを焼くと言い出した。


「この気の毒な子供達がクッキーの甘い香りで目覚めて欲しいの」


 そう言って生き生きと厨房に入っていくステラ夫人の姿に、ロイはじんと心が温まった。


 あの元気のいい少女は、今頃ステラ夫人のクッキーを嬉しそうに頬張(ほおば)っているだろうか。

 そう想像するだけでロイの顔に笑みがこぼれた。


「よし、出かけるとしよう、ウッズ」


 立ち上がるロイに、ウッズはもう一つ告げねばならない用件を思い出した。


「それが……サンドラ嬢がお見えになっています」


次話タイトルは「ロイとサンドラの関係」です

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