38、新たな申し出
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「どうしたんだ、ネロ! その怪我は」
翌朝スランの工房に行くと開口一番尋ねられた。
一夜明けて、腫れがひどくなって、目元の内出血が紫に色づいている。
「ヨハンにやられたの」
私は暗い表情で答えた。
「おいおい、どうしたんだよ、レイラ。昨日のアルフォード様の仕事はうまくいったって聞いたぜ。ゆうべケンが帰りに寄って報告してくれたんだ」
「うん。あなたに報酬を払わないとね。半分の15000ルッコラを渡すわね。それから借りてた990ルッコラも」
それだけ払っても手元には14010ルッコラ。
懐はずいぶん温かいのに。
「やっぱり工房でネロを預かればよかったな。ヨハンのやつ、ほんとにろくでもないな」
「うん。家を出ようと思ったんだけど……」
ネロを置いては、やっぱり行けない。
せっかくケンがいい話をくれたのに。
「あのさ、俺、このお金でついに平民昇格税が貯まったんだ」
「え? そうなの?」
「うん。平民になったら、自分でブリキの店を持とうと思う」
「すごいじゃない、スラン!」
「だからさ、レイラも手伝ってくれないか?」
スランは照れくさそうに頭を掻きながら真っ赤になっている。
「もちろんよ! 私が手伝ってもいいの?」
私は二つ返事で了承した。
「当たり前だよ。レイラがいてくれたらきっとうまくいく。それにネロも一緒に手伝ってくれたら助かる」
「僕も?」
ネロも顔を輝かせた。
ネロは私の手伝いをして下地を塗ってもらったが、とても上手だった。
ブリキもきっと売るよりも作る方が好きなんだと思っていた。
「それでさ、この街を出ようかと思うんだ」
「この街を?」
それは思ってもみなかった。
「同じアルフォード様の領地だけど、もう少し大きい街があるんだ。そこで勝負してみたいなと思って。そこならヨハンからも逃げられるだろ?」
それはケンの申し出よりもありがたかった。
この小さな街では、いずれヨハンに見つかる可能性が大きい。
どんなに見つからないように気をつけていても、人の噂が居所を教えてしまうだろう。
それならいっそ、違う街にいってやり直したい。
即答で快諾したいような話だったが……。
ネロは……。
しゅんと沈んだ顔で俯いている。
「最初は少し苦労をかけるかもしれないけど、俺、がんばるからさ。レイラとネロをきっと幸せにしてやる。だから……その……レイラにはいずれブリキ屋のおかみさんに……なってくれたら……いいかな……なんてさ……。いや、すぐじゃなくていいんだ。その……レイラがもう少し大人になって……俺のことを……す……好きになんて……なったりなんかして……それから……ずっと一緒にいたい……なんて思ったりして……」
スランがブツブツと何か言ってたが、私はネロの様子が気になって聞こえてなかった。
「僕はお父ちゃんのそばにいるよ」
「お前さんなんて言ったりなんかして……え?」
まだもごもご言ってたスランが驚いてネロを見つめた。
「僕はこの街に残る」
ネロは真っ直ぐスランを見つめてもう一度言った。
「そ、そうか。それなら仕方ないな。じゃあレイラだけでも俺は全然……」
「ごめんなさい。ネロを置いては行けないの」
「え?」
スランは私の返答にショックを受けたようで、しばらく口を開けたまま固まっていた。
それから自分に言い聞かせるように、またブツブツ呟いた。
「うん。いきなり街を離れるのは無謀だよな。そうだな。うん、そうだ。やっぱりこの街で店を開いてから、うまくいけば他の街に店を開こう。うん。それならレイラも通えるしな。それがいいな。うん。うん」
まだ何か言っているスランを残して、私とネロは工房を出た。
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※現在のレイラの所持金
前回残金 29010
スランの報酬 ―15000
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14010ルッコラ
次話タイトルは「アルフォード家についての考察」です




