39、アルフォード家についての考察
私はケンの店に行く前にエミリアの洋服店に行くことにした。
あまりいい返事を出来そうにない今、ロリポップに行くのは気が重かった。
「レイラさん! 心配してたの。どうでしたか?」
「うん。うまくいったわ。品物を気に入って頂いて、アルフォード家御用達のプレートも頂いたの」
「すごいですわ! 滅多に頂けるものではありませんわ。この数年は古くからの老舗ばかりが幅をきかせて、新規で入り込める店が少ないと聞いていましたもの」
アルフォード家御用達プレートは相当の威力があるようだ。
「いま話していて大丈夫? 店主は?」
「今日は生地の仕入れに行っていて留守です。どうぞこちらに座って下さい」
私はカウンターに立つエミリアの前の椅子に腰掛け、ネロは見本用の服を見て回っている。
ネロは物を作るということに興味があって、どこに行っても飽きもせずに商品を眺めているのが常だった。
「今日は手ぶらでごめんね。試作品のケースの飴をエミリアにもおすそ分けしようと思ってたんだけど、いろいろあってあのケースも納めることになってしまったの」
「いろいろあって?」
私はエミリアに昨日の出来事を詳しく話した。
「まあ、なんてことを。そのセリーヌという人はとんでもないことをしましたね。それは立派な窃盗ですわ。アルフォード家御用達の一流店となったロリポップの店主が申し立てれば、牢屋に入れられるか、場合によっては鞭打ちで実質死刑になることもあります」
「し、し、死刑っっ??」
たかが飴を盗んだだけで?
前世では考えられない。
「盗んだ物が問題なのです。ロリポップの店内の飴を盗んだのではありません。アルフォード様に納めるはずの飴を盗んだのです。それはつまりアルフォード様のものを盗んだと同じ。それは死刑に値する罪なのです。私の父も……」
エミリアは何かを言いかけて口を閉ざした。
「まさかエミリアのお父様はアルフォード様の何かを盗んだの?」
「いいえ。いいえ。父はそんな人ではありません。私は信じています。誰かに陥れられたのです。誰がそんなことをしたのか分からないままに……父は……」
牢屋に入ってるって言ってたっけ。
「ひ、ひどい……。冤罪じゃないの! アルフォード様はちゃんと調べなかったの?」
「貴族たちは水面下で足の引っ張り合いをしています。結局、正しいのは力のあるもの。権力のある人が黒だと言えば、すべては黒なのです」
お、恐ろしい。
じゃあ何もしてなくても明日いきなり罪人になってるかもしれないってこと?
「でも父は穏やかで実直で、人に恨まれるタイプではありません。何が引き金になってしまったのか……父にもいまだに分からないのです」
エミリアは悲しげに目を伏せた。
気の毒なエミリアにどう声をかけていいか分からない。
何か明るい話題を……。
「そ、そういえば、アンソニー様に会ったわ」
「え? アンソニー様に?」
エミリアはぱあっと顔を輝かせた。
「ど、どのようなご様子でしたか? お元気でしたか?」
その様子だけで、今でも好きなのが分かる。
「アンソニー様のおかげで検品を通してもらえたの。お優しくて、とても素敵な方だったわ」
エミリアは嬉しそうに頷いた。
「ええ、ええ。そうなんです。とてもお優しくて弱い者への気遣いのできる、立派な方なんです。高い地位をお持ちなのに、少しも威張ったところがなく女性や子供にも親切な方でした」
「うん。そんな感じだった。私達もアンソニー様に救われたわ」
でも……そのせいでアルフォード様の息子に怒られるところだったけど。
「ねえ、エミリア。アルフォード様には息子が二人いるって言ってたわね?」
「はい。長男がロイ様。次男がレナルド様です」
アルフォード様と一緒にいたのはどちらだろう?
ずいぶん信頼されてる感じだったから長男のロイ様のほう?
「ロイ様って、ちょっと腹黒い感じ?」
「え? ど、どうでしょう。私などは滅多にお目にかかることも出来ないようなお方ですから分かりませんが。でもずいぶん頭の切れる方だとは聞いたことがあります」
やっぱりあれがロイ様なのね。
「でもレナルド様はお会いしたことがあります。私の父のことでもずいぶん尽力して下さって、アルフォード様にも恩赦を願い出てくださったようです」
「ふーん」
そこまで聞いてもしやと思った。
「ねえ、もしかして二人には妹がいるかしら?」
「はい。少し年の離れた妹君がいらっしゃいます」
やっぱり!
「妹の名前はソフィーね?」
「は、はい。ご存知なのですか?」
「うん。ソフィー様にもレナルド様にも会ったわ」
倉庫で会ったあの二人がソフィーとレナルドだ。
「ロイ様とレナルド様は母君が違うのですが、ソフィー様はレナルド様と同じ母君からお生まれになっています」
ビンゴ!
ずいぶん仲のよさそうな兄妹だった。
ロイ様だけが異母兄妹なのね。
アルフォード家の人間関係が分かってきた。
「そういえば、レイラさんが描いていたサインのことで思い出したことがあるのですが」
「サイン?」
エミリアが神妙な顔でこくりと頷いた。
次話タイトルは「ウェッジウッドブルー」です




