2、思いがけない人物
「じゃあサンドラはその事を恨んでたわけね?」
前世でも心の狭い直子は、ねちっこく恨むタイプだった。
自分は人のものを奪ってもなんとも思わないくせに、自分が奪われることは許せない子だった。
子供の頃は泣いてだだをこねるから、私は姉だからという理由ですべて譲らされたっけ。
その頃はまだ可愛いものだったが、彼氏ができる年になって浮気されたりすると、相手の女性にひどい仕返しをしてたな。
浮気した段階で相手への愛情は霧散するタイプだったが、それでチャラにできるほど寛大な心は持っていない。
「私を不幸にしたくせに、絶対幸せになんかさせてやらない」と言うのが口ぐせだった。
そして実際に自分より酷い不幸をお見舞いしてたっけ。
最初は靴を隠したり、悪口をSNSでばら撒いたり。
年を経るごとに陰湿で狡猾になっていってたなあ。
直子のせいで不登校になった子もいたという噂だ。
あの直子とそっくりなサンドラなら、何をするか分からない。
「円卓の乙女は、もともと大人の女性だけだったの」
「十歳前後の子供はいなかったの」
「それをサンドラ様がたくさん贈り物をして、異例の子供の一席を手に入れたんです」
「エミリアはサンドラ様が手に入れた異例の子供の一席を奪ってしまう形になったの」
なるほど。
それは前世の直子なら、階段から突き落とすぐらいのことはするわね。
「もともとサンドラ様は一方的にエミリアを嫌ってたみたいだしね」
四人の令嬢は頷き合った。
「嫌ってた? どうして?」
「エミリアはレース編みの才能で、他のご令嬢たちにも尊敬されてて信奉者がたくさんいたの」
「私達も月に一回レース編みを教えてもらうようになって仲良くなったの」
「他にもエミリアに教えて欲しいという令嬢はたくさんいたわ」
「どこの両親もエミリアのようなご令嬢とお付き合いなさいって言ってたものね」
「エミリアは、そんな風に尊敬されてても増長するわけでもなく、誰にでも平等にレース編みを教えてくれて、ますます人気は高まってたわ」
うんうん。エミリアってそういう子よね。
「対してサンドラ様は昔から身分の高さを鼻にかけた意地悪な人だったわ」
そうそう。直子も美人を鼻にかけた嫌なやつだったわ。
「だからエミリアの人気に嫉妬してたんじゃないかしら。それでもサンドラ様はサンドラ様でアルフォード家のご兄弟と幼少から仲がよくて、よくお会いになってらしたから、令嬢の中にはロイ様やレナルド様のお話を聞きたくて仲良くなさってる方も多かったのにね」
げ! 今一番聞きたくない名前が出て来たわ。
「サンドラはロイ様やレナルド様と仲がいいの?」
それは初耳だ。
「ええ。サンドラ様のお父様はアルフォード様の弟君のロックウェル様だから」
「アルフォード様の弟?」
うぬぬ。
そんな高い身分だったのか。サンドラめ。
一応私もアルフォード様の弟のスチュアート公爵令嬢ではあるけれど……。
肝心のスチュアート様が亡くなった、しかも元貧民の養子では太刀打ちできそうにない。
「それにサンドラ様のお兄様がロイ様と仲がよくて、だから四人でいつも遊んでいらしたと聞いたわ」
「アルフォード領の貴族女性が憧れる三人の貴公子と仲がいいんですもの」
「みんな羨ましがったわ」
「誰も近づけない雲の上のような存在ですものね」
前世のトップアイドルみたいなものかしら。
「サンドラ様が多少嫌な方でも、みんな三人の貴公子のお話を聞きたくて仲良くしてたの」
ふーん。
他の二人は分からないけど、とりあえずレナルド様ってクズ男だけどね。
ここであの男の本性をばらしてやりたいわ。
「その三人の貴公子ってそんなに素敵かしら? ちやほやされて育った人たちって、わがままで傲慢なんじゃないかしら? 憧れるほどでもないかもしれないわよ」
誰とは言わないけど言っておこう。
だが即座に四人の令嬢に反論された。
「いいえ、三人ともとても素敵な方ですわ」
「私も遠目に見ただけだけど、お美しい方々でしたわ」
「サンドラ様の話でも、みんなお優しくて才能溢れる方だとおっしゃってました」
「女性には紳士で、お姫様のように扱ってくれるって」
サンドラめ。
いいかげんなことを。
レナルド様のどこが優しいのよ。
それともサンドラにだけは優しいのかしら?
もしかしてレナルド様ってサンドラが好きなの?
うわっ! むっちゃお似合い。
性悪同士くっついてしまえ!
笑ってやるわ。ふっふっふっ。
黒い想像をしてほくそ笑む私だったが。
直後に意外な名前を聞くことになった。
「ロイ様とレナルド様も素敵だけど、アンソニー様も素敵だものね」
「アンソニー?」
あれ? 聞いたことがあるわよ、その名前。
ま、ま、まさか。
「サンドラ様のお兄様よ。アンソニー・ロックウェル様」
次話タイトルは「アンソニーの事情」です




