35、ピンクダイヤモンド
「そういえばピンクダイヤモンドのネックレスが無いの」
私が目を覚まして元気なことを確認すると、おばさまはすっかり安心してクッキーを焼き始めた。
そしてお茶の時間に顔を合わせた時にポツリと言った。
「ピンクダイヤモンド?」
私はハッと自分の首元を手で探った。
そういえば紫のドレスは着替えさせられていて、目覚めた時には夜着になっていたので忘れていたけれど。
「ゆうべレイラ様のドレスを着替えさせて頂いた時にはイヤリングしかありませんでした」
シモンヌがお茶を淹れながら答えた。
「え? じゃあ私がレナルド様のところで落としたの?」
途中で気を失うまでは、確かに首にかかっていたはずだ。
まさかその後……。
「お姉ちゃんがザックに抱っこされてた時にはなかったよ」
記憶力のいいネロが言った。
「ザックの馬車に落ちてないかしら」
そうであって欲しい。
でなければ、レナルド様に尋ねなければならなくなる。
もう関わりたくないのに。
「そうね。今度ザックが来たら聞いてみましょう」
「す、すみません。おばさまの大事なネックレスなのに」
とても大切なものだって言ってたよね。
「あらあら、そんなに落ち込まないで、レイラ。あなたが無事に帰ってきたんだもの。ネックレスよりもあなたの命の方がずっと大切よ。だから気にしないで。あなたが元気ならそれでいいのよ。ピンクダイヤモンドなんて……ちょっと珍しいぐらいで……亡き夫が婚約した時に指輪とイヤリングと三点セットでくれたものだけど……別にもういいのよ。主人ももう亡くなったことだし、私だっていつまで生きてるか分からないし。ピンクのネックレスをつけるような年でもないしね。毎日眺めてるだけだから別にね……」
いやいや、めちゃくちゃ大事なものでしょ。
毎日眺めてたって。
亡きスチュアート様の婚約の贈り物って。
三点セットの一つが無くなったらダメでしょ。
物に執着しなさそうなおばさまが、これほど言うぐらいだもの。
もしもレナルド様の部屋に落としてたなら。
取り戻しに行かなきゃダメ?
ダメよね?
おばさまの婚約の贈り物よ。
なにがなんでも見つけなきゃ。
どうしよう。
レナルド様には二度と会いたくないって思ってたのに。
「レイラ様、ご自分で探しに行こうなどと思わないで下さいましね」
シモンヌが私の心を読んだように言った。
「ザック様に探していただくよう頼んでみますから」
「で、でもザックはこれ以上レナルド様に関わっては危険なんじゃないかしら。ゆうべのこともあるし、ひどい目に遭わされるんじゃ……」
「いくらレナルド様でもザック様に表立ってひどいことなど出来ませんよ」
「そうなの?」
影武者ってそんなに強い立場なのかしら。
まあ、いざという時はロイ様に成り代わって公の場に出たりする立場だものね。
アルフォード家にとっては貴重な人材よね。
「ともかくザック様にお任せしましょう」
「そうね。ザックに任せておけば安心よ」
シモンヌもステラ夫人もずいぶん信頼しているようだ。
私もね。
ザックの名前を聞くとホッとする。
いつの間にか心の支えになってるのよね。
私が甘えていい理由なんて何もないのに。
勝手に頼りにしてしまってる。
ザックにとっては厄介ごとばかり増えて迷惑だろうにね。
もっと強くならなきゃ、私。
なんたって私、美少女だものね。
怖いものなんて無いわ。
よし!
まずは目の前にある問題から。
そしてその二日後にはエミリアの友人たちとのお茶会の席が用意された。
ここで章を変えます。
次話は第五章 レイラ、アルフォード邸に潜入する
タイトルは「エミリアの友人とのお茶会」です




