31、レナルドの独り言
ロイがレイラを連れ去ったことは、レナルドにとって自分の秘蔵の作品を持ち去られたのと同じ屈辱を感じさせた。
「あれはもう私のものだ」
自分が見つけ、おびき寄せ、手に入れたものだ。
それなのに急に土足で乱入して、断りもなく持ち去った。
抵抗しようにも、腕力で勝てないのは分かっている。
芸術に関しては赤子同然の無能力者の兄は、その他のすべてに優れている。
無駄な抵抗をして痛い思いをしても仕方がない。
「だが、今までは僕がどれほどロイのものを奪っても、すんなり諦めていたのに」
なぜ今回だけは、あれほどムキになって取り返しにきたのか。
「ロイにはあの者の本当の美的価値など分からないだろうに」
芸術オンチのロイに、自分が感じたのと同じ感動など分かるわけがない。
それなのにどうしてあれほど必死になったのか。
「ロイにはただの女としてしか見えてないはずなのに」
作品は本当にその真価が分かる者が所有するべきだ。
だとすれば、レイラを所有するのは自分が一番ふさわしい。
身勝手な言い分で、レナルドは被害者意識を高めていく。
そして思い当たった。
「恋か……」
ロイはレイラを恋などというくだらない感情で欲しているのか。
そんな陳腐な感情でレイラを所有しようというのか。
「間違っている」
それがレナルドの結論だった。
レイラを女として見る時点で間違っている。
あれは作品として見てこそ真の価値を見出せる。
「二度と手を出すなだと? その言葉をそのまま返してやる」
ふふ。
とレナルドは笑いが込み上げた。
ふはは。
抑えきれずに声がもれる。
ははは、ははは。
いつの間にか大声をあげて笑っていた。
こんなに楽しいのは久しぶりだ。
退屈でたまらなかった世界が、急に色付いたようだ。
部屋中を最高級の芸術品で溢れさせても、少しも満たされない。
集めても集めても心が乾く。
欲しいものは何でも簡単に手に入る。
他人のものを奪っても誰も文句も言わない。
唯一遠慮が必要なロイでさえ、どれほど奪っても簡単に諦める。
すべてが簡単過ぎてつまらない。
だが彼女はどうだ。
初めてロイが抵抗した。
ようやく本気で戦う気になったようだ。
これを待っていた。
ロイが一番望むものを奪う。
奪われた苦悩でのたうち回る姿が見たい。
それを想像しただけで、心が浮き上がる。
「ようやく僕と本気で遊んでくれる気になったみたいだね、兄上」
レナルドは上機嫌に呟いた。
次話タイトルは「目覚めたレイラ」です




