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ブス女ですけど転生して美少女になりましたの。ほほほ。  作者: 夢見るライオン
第四章 レイラ、ユニコーンの乙女会を捜査する

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30、レナルドの乱心

 ロイとレイラが立ち去った部屋で、レナルドはしばらく床に座り込んだままだった。


 ロイが立ち去ったドアをしばらく黙ったまま見つめてから、ゆっくりと立ち上がる。


 隣の部屋にはすでにロイの姿はなく、執事と給仕がレナルドを見て蒼白になっていた。

 

「も、申し訳ございません、レナルド様。突然ロイ様が現れて、ウッズ様に腕を掴まれて、お止めすることが出来ませんでした。申し訳ございません。どうかお許しを」


 執事が必死の形相でぺこぺこと頭を下げて謝った。


 こんな時は数発殴られることも覚悟している。

 一度半殺しの目にあったこともある。


 それでも、この地位と給金のために耐え忍んできた苦労人の執事だ。


「そうだね。仕方がないよ。お前が悪いわけじゃない」


「レ、レナルド様……」


 珍しく優しいことを言う主人に、執事は目を見開いた。


「喉が渇いた。ワインを入れてくれる?」


 レナルドは、まだ丸テーブルに残っていたワイングラスを一つ手に持った。


 給仕はあわててサイドテーブルのワインを持ってきて、レナルドのグラスに注いだ。


 こくりと一口ワインを飲むレナルドに、執事は小さく安堵(あんど)の息を洩らした。


 このどうしようもない主人も、兄上に怒られて多少反省したのか。


 そう安心した瞬間。



「うあっ?!!」



 バシャっと赤い液体が目の前を覆った。


 続いて胸に激しい衝撃と、頬にチリっとした痛み。


 そして全身が濡れていた。


「レ、レナルドさま……」


 一瞬自分の血しぶきをかぶったのかと思ったが、飲み残したワインをグラスごと投げつけられたらしい。


 執事服の中に着ている白いシャツは真っ赤に染まっていた。


 グラスは砕け散り、その破片が頬を切りつけたようだ。

 頬にかすかな痛みがある。


「どいつもこいつもっ! 役立たずめっ!! 簡単に主人の部屋に入られやがって!」


 それは護衛の従者が先日行方知れずになったからだ。

 後任がなかなか決まらず、日替わりで派遣されてくるだけになっている。


 ただの執事と給仕がウッズのような切れ者に勝てるわけがない。


 だがこの主人にはそんな言い訳など通用しない。


 青ざめる執事と給仕を前に、レナルドは丸テーブルに残っていた食器類をなぎ倒すようにテーブルから根こそぎ床に落とした。


 ガシャンガシャンと食器が激しく割れる音が響く。


「レ、レナルド様……」


 さらに荒れ狂うようにテーブルを倒し、椅子を投げつけてくる。


「全員死罪だ! いや、この場で殺してやるっっ!」


 執事も給仕も死を覚悟した。


(いよいよ殺される。ここまでだったか)


 五人の子供たちのために耐え忍んできた仕事だったが。

 もっと早くに見切りをつけて、家族と共に他の領地に逃げておけばよかった。


 投げつけられる家具を避けながら、後悔する執事だったが。


「出て行けっ!! 目障りだっ!! 全員出て行けっ!!」


 荒れ狂う主人の命令に命拾いして、あわてて部屋の外に飛び出した。


 廊下には怯えた顔で様子を見守っていた他の給仕やメイドがいた。


「ご、ご無事ですか、執事様」


 ここまでの乱心を初めて目にした給仕とメイドは怯え震えて、執事に尋ねた。


「と、ともかく、今は部屋に入らない方がいい。しずまった頃を見計らって部屋を片付けましょう」


 なんとか命拾いしたようだ。


「私は服を着替えてきます」


 足早に立ち去る執事だったが……。


 それっきり二度と戻っては来なかった。




 そして部屋の中では。


 荒れ果てた部屋に(たたず)むレナルドがいた。


「くそっ! なんなんだ、いったいっ!!」


 さっき。


 レイラをベッドに寝かし、胸の宝石をはずした。


 そのままドレスに手をかけようとした、その時。


 雲の切れ間から現れた月が、レイラの姿を照らし出した。


 そしてレナルドは激しく動揺した。


 ――そこには聖女がいた――


 『ロイ様』に命を捧げると誓った、あの聖女が。


 それはレナルドにとって人間の女ではなく、(とうと)い『作品』だった。


 アルフォード邸のあちこちに飾られた聖女や聖母の肖像画。

 そのどれよりも心打たれる『作品』だった。


 そう感じた瞬間、レナルドはレイラの肌に触れることも出来なくなった。


 ドス黒く汚れた自分が触れることは、極上の絵画を黒筆で汚すのに等しい。


 戸惑いながら絵画を愛でるように眺めた。


 もっと完璧な『作品』にしたい衝動が湧き出る。


 レイラの金の髪をそっとほどき、リネンに広げる。

 ドレスの裾を直し、慎重にフリルのひだを整える。

 

 そして最後に両手をそっと胸の上で組ませた。


 そこには身を震わすほど完璧な理想の聖女が横たわっていた。


 レナルドは飽きることなく、その聖女を眺めていた。

 見る角度を変えるたびに、新たな感動が湧き上がる。


 それは超一流の絵画と同じだった。


 極上の絵画は、どの角度から見ても別の感動がある。

 レイラもまた、稀に見るほどの超一級の『作品』だった。



次話タイトルは「レナルドの独り言」です

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