23、最悪の思い出
なんだっけ?
早く思い出さないと。
桐島くんに何をされたんだっけ?
そうだ。
中二の時。
桐島くんに憧れてた頃も通り過ぎ、直子の彼氏になって少しずつ桐島くんへの印象が変わってきて、いつしか憧れるどころか、一番会いたくない人になっていた。
桐島くんに会うと、いつも嫌な思いをする。
本人はそんな気はないのかもしれないけど、いっつも周りに誤解されてひどい目に遭う。
でもそんな時助けてくれる男子がいた。
顔は忘れてしまったけど、クラス委員の優等生だった。
メガネをかけた真面目な人で、いつも私の誤解をといてくれた。
彼はただ正義感から間違ったことが許せなかっただけだろうけど、優しさに飢えていた私はあっさり彼に恋をした。
でも別に告白しようとか、付き合いたいとか思ってたわけじゃない。
そりゃあ、そんなことがあれば嬉しかったかもしれないけど。
私は救いようのない絶世のブス女だったからね。
自分にそんな幸せがあるなんて思いもしなかった。
それなのに。
ある日、私にラブレターが届いた。
差し出し人は優等生の彼だった。
まさかと思いながらも、真面目で真摯な文面に、もしかしてそんな奇跡があるかもしれないと淡い希望を抱いてしまった。
校舎裏に呼び出され、半信半疑ながらもドキドキして向かった。
でも。
そこに待っていたのは。
桐島くんだった。
「え? 早乙女さんだったの? 差し出し人の名前がなかったから誰かと思ったんだけど」
「ち、ちが……私……呼び出したりなんか……」
あわてて否定しようとした私だったけれど、二人でいるところに優等生の彼まで現れた。
「すごい熱烈なラブレターだから誰か見てみたくて来ちゃったけど、僕、君の妹と付き合ってるの知ってるはずだよね。え? それを分かっててこんな手紙を僕に出してきたの?」
「ち、ちが……。私じゃない……」
優等生の彼が驚いた顔で私達二人の話を聞いている。
「うわあ、ショックだなあ。早乙女さんってそういうことする人だとは思わなかったなあ」
桐島くんは心底がっかりしたように言った。
そして優等生の彼もムッとした顔で言った。
「僕も……早乙女さんってもっと誠実な人だと思ってたよ。僕にもこんなラブレター渡して、二股するつもりだったの?」
え? 二人とも私が呼び出したことになってるの?
私はショックでパニックになっていた。
どう説明していいかも分からず、ブルブルと首を振ることしかできなかった。
「今まで直子ちゃんの姉だから庇ってきたけど……なんか裏切られた気分だよ」
「僕も、早乙女さんを信じてたから庇ってたのに」
二人からなじられて、私は青ざめたまま何も言えなくなってしまった。
「もう僕は君を庇わないよ」
「僕も……悪いけどもう話しかけないで」
そしてその噂は一気に学校中に広がって、壮絶ないじめへとつながっていった。
『いじめられて当然の性悪ブス』
いじめるのは正義の鉄槌。
イジメが正当化された時、人がどれほど残酷になれるのかを知った。
辛すぎて、苦しすぎて、記憶から追い出していた。
あの頃、どうやって学校に通ってたのかよく覚えていない。
中二のあいだ中、クラス全員から無視されてたと思う。
あの頃は十四で若く、ブスの自分に自信がなくて。
束になって非難するみんなが怖くて。
冷静な判断が出来なかった。
でも思い出してみると……。
いろいろおかしいよね。
誰かが三人に呼び出す手紙を出した。
なんのために?
そんなことして喜ぶ人なんて……。
一人だけいる。
いつも退屈していた人。
刺激を求めて陰で暗躍していた人。
ねえ、あなたよね。
桐島くん。
ううん、ロイ様。
あなたは退屈を紛らわすためなら、どんな非道なことも平気で出来る人だった。
ねえ、何かがおかしくない?
私はもしかして大きな間違いをおかしてない?
すごくすごく根本的なこと。
おばさまもシモンヌも、この人をあれほど信頼しているの?
いくらうっかりのおばさまでも、この人を見誤る?
この人は……。
本物のロイ様なの?
次話タイトルは「本物のロイ様はその頃……」です




