22、生還?
「うぐっ……!」
口を押さえた私は、思わずそばのワインを手にとってぐいっと飲み干した。
あ、あれ?
飲み込んじゃったけど……。
これってもしかして……。
「あははははは!」
今度はワインのアルコールにくらくらする私に、ロイ様の甲高い笑い声が聞こえた。
「な……」
ロイ様は腹をかかえて笑っている。
「あははは、あー、面白かった。楽しい余興を見せてもらったよ」
「なにを言って……」
私はまだピリピリする舌と、アルコールで焼けるような喉をおさえながらロイ様を睨んだ。
「嘘に決まってるでしょ? いくら僕だって仮にも貴族になった君を毒殺なんかしたら問題になるよ。腐ってもスチュアート公爵令嬢だしね」
「じゃあこれは……」
「唐辛子だよ。緑と赤の唐辛子ソース」
そう言って、ロイ様は自分の皿のテリーヌをおいしそうに頬張った。
「僕は辛いものが大好きでね。うーん、ちょうどいい辛さだな。絶品でしょ?」
ロイ様はパクパクと食べて、あっという間に完食した。
うそでしょ。
これ、相当辛かったわよ。
毒だと思ってたせいかもしれないけど、死ぬかと思ったもん。
「君にも僕の嗜好を分かっておいてもらいたいなと思ってね」
んなもん、分かりたくないわよ!
なんなの、この人。
冗談で済ませられる話?
「そんなに怒らないでよ。まさか本当に信じると思わなかったよ」
いや、信じるでしょ。
誰だって信じるでしょ!
「あー、でもおかしかった。本気で僕のために死ぬ気だったの? 嫌だなあ。こんなところで死なれたら、死体の始末に困るでしょ?」
いや、そこ?
あんたにとって問題なのは、そこ?
「それよりも水を下さい。喉がひりひりしてるんです」
さっきから言ってるのに、いつになったら持ってくるのよ。
「ああ、そうだね。それよりもスープがきたみたいだよ。スープは辛くないから、これで落ち着くと思うよ」
給仕がテリーヌを下げて、スープを置いてくれた。
「……」
なんか……。
赤いもんが浮いてるんだけど。
これ本当に辛くない?
「ふふ。大丈夫だって。ほら、僕が先に飲んでみるよ」
ロイ様はスプーンを手にスープをすすった。
「魚介のスープ、ブイヤーベース仕立てだよ。これがおいしいんだ」
「……」
私は怪しみながらもスプーンを手に一口すすった。
「んあっ!!!」
口に入れた瞬間、口の中に火がついたかと思った。
あわてて新たにつがれたワインを口に含む。
か、からっ!!
なにこのスープ。
よくもこんなものを平気な顔で飲めるわね。
「ふふ。同じものだよ。君だけ辛いものにしてるわけじゃない。僕がそんな意地悪な男に見える?」
見えるわよ!
超見えるわよ。
いまだかつて、こんな意地の悪い男なんて会ったことないわよ。
「……」
そう思って、ふと考え直した。
そういえば、もう一人いたっけ。
こんな意地悪な男が。
唐辛子の辛さで思い出したわ。
この人と同じ顔の男を。
前世の桐島くん。
あの人も辛いものが大好きだっけ。
いつも刺激に飢えてる人だった。
次話タイトルは「最悪の思い出」です




