20、誓いの証明
「な!」
さっきからナイフとフォークを持ちながら、まだ手付かずで話しこんでいた。
その料理に毒が?
殺すつもりだったというの?
そんなバカな。
「僕に命を捧げる覚悟なんでしょ? だったら証明して見せてよ」
なにを言ってるの、この人は?
この世界の貴族の男性ってこういうものなの?
軽い戯れのつもり?
「ご……ご冗談ですよね?」
そうだ。
冗談のつもりなんだ。
全然笑えないけど。
服のセンスは良くても笑いのセンスはクソ最低だけど。
「僕がそんなつまらない冗談を言うと思った?」
うそでしょ?
冗談じゃないなら、もっと最低なんだけど。
「ありえません。ここで私を毒殺してロイ様に何の利があるのですか?」
そうだ。
私がロイ様に感謝の言葉を告げる前から、この料理は私の前に置かれていた。
だとしたら、最初から殺すつもりだったってことじゃない。
なぜ一度助けた人間を今度はあっさり殺すのよ。
しかしロイ様は優雅に微笑んで答えた。
「利ならあるよ。君がここで死んでくれたら、僕の女性不信はきっと改善される。この先の人生で女性を愛せるようになるかもしれない。僕を領主として真っ当な道に導いたなら、君の人生はアルフォード領の人々に感謝をもって語り継がれることだろう」
はあああ?!
なにその俺様論法。
あんた中心に世界が回ってると思ってるの?
「貧民から貴族になって、命を懸けて領主の人生を幸せに導いた女性。うん。これほど誉れな人生はないと思うな。君にとっては最大の名誉だね」
いや……思ってるのか。
この封建世界の支配者なんて、元貧民の子供なんか虫けらと同じなんだ。
でも……。
そんな男に私とネロは命を救われたの?
助けられてからずっと、ネロと二人で感謝の気持ちを忘れたことはない。
その深い想いは、こんな人に捧げるためのものだったの?
そんなこと信じたくない。
「なぜ……なぜロイ様は私とネロを助けたのですか?」
「……」
お願い。
私とネロを失望させるようなことを答えないで。
しかしロイ様は最悪の答えを返した。
「退屈してたからかな……」
悪びれもせずに答えるロイ様に心の奥の何かが崩れたような気がした。
こんな人が領主になる世界。
こんな人に忠誠を誓う貴族。
私とネロはそんな世界に入り込んでしまったの?
こんな残酷な場所にネロを連れて来てしまったの?
私はどこで間違えてしまったんだろう。
「ねえ、早く食べてみせてよ。僕に君の忠誠を証明してみせてよ」
ロイ様はなんでもないことのように言う。
「食べないと言ったら?」
「うーん。どうしよっかなあ。それはそれでムカつくなあ。やっぱり殺しちゃうかもなあ」
どっちにしろ死ぬんじゃない。
なんて人なの?
このバカを止める人はいないの?
私は部屋の隅に立つ、執事と給仕を見た。
二人とも青ざめた表情でうつむいている。
そうか。
最初に部屋に入った時の違和感。
執事も給仕も異常なほど緊張していた。
何を言い出すか分からない主人への恐怖。
そんな緊張感で満たされていたから違和感を感じたんだ。
この人はやっぱり私が危惧してた通りの人だった。
みんなのロイ様への信頼を盲目的に信じず、自分の直感を信じればよかった。
でもそんな後悔ももう遅い。
逃げ道は……。
ない。
ここで暴れて何とか逃げ延びたところで、この人は腹を立てたらどこまでも追ってくるだろう。
ステラおばさまやネロにまで危害を及ぼすかもしれない。
そしてそんなことをしても何の咎めも受けない権力を持っている。
だとするならば。
私の進む道は一つしかない。
「分かりました。おっしゃる通りに致します」
私は静かに答えた。
次話タイトルは「最後の願い」です




