19、レイラの誓い
「あのっ! ロイ様にずっと言いたいことがあったんです」
私は話題をそらすように言い放った。
「僕に言いたいこと?」
そう。
前世の桐島くんに似ていたとしても。
ちょっと怖い感じの人だと思っていても。
ともかくこれだけは言っておかないと。
「おばさまはなぜかはっきりとロイ様が助けてくれたのだとは言ってくれませんが、なんとなく分かっていました。私と弟のネロを助けて下さり、スチュアート邸に預けて下さったのは、すべてロイ様でございますね?」
ロイ様は一瞬の間をあけたものの、案外あっさり認めた。
「あ、ああ。そうだけど……。なんだか恩を売るようだからね。内緒にしてたんだ」
「そうだったんですね」
私はフォークとナイフを置いて立ち上がり、ロイ様の足元にひざまずいた。
「?!」
ロイ様は驚いた顔をしていたが、そのまま両手を組んで深く頭を垂れる。
それはこの世界では神に捧げる最高級の礼だと聞いた。
ネロが絵に描いていた聖女の祈りの姿。
もう死ぬかもしれないと思ったあの日、ネロは私がそんな聖女に見えたのだと言う。
そうであるならば。
この聖女の礼は助けて下さったロイ様にすべて捧げるもの。
いつかきちんとした形で会えたならば、この感謝の想いを伝えたいと思っていた。
「あなた様のおかげで、私とネロは救われました。心より感謝致します」
ロイ様に助けてもらわなければ、あの時死んでた命だ。
あの絶望の瞬間、ネロを不幸なまま死なせてしまうことが切なかった。
こんな中途半端に終わらせてしまう自分が情けなかった。
あの瞬間を思い出すと、今でも涙が浮かぶ。
もう一度チャンスをくれたロイ様は、私にとっては神に匹敵する。
桐島くんに似てようが、ちょっと苦手な人だと思おうが、この感謝を忘れるべきではない。
「あなた様のためなら、この命を捧げる覚悟でございます」
心からの感謝を込めて、ロイ様を見上げた。
「!!!」
ロイ様はひどく驚いた顔をしていた。
珍しく狼狽しているようにも見えた。
ちょっと大げさ過ぎたかしら。
でも私とネロにとっては、もう一度生きるチャンスをくれた人なのだ。
これぐらいの感謝の気持ちは持っている。
この言葉に嘘はない。
「……」
ロイ様はしばらく無言で私を見つめた後、気まずい顔でふいっと顔をそむけた。
「?」
照れてらっしゃるの?
感謝されることに慣れてないのかしら?
アルフォード家の跡継ぎであれば、この程度の感謝の言葉など毎日のように受けていると思ったのに。
「気持ちは分かったから、席に戻るがいい」
やがて搾り出すような声でロイ様は命じた。
「はい。食事中に失礼致しました」
私は立ち上がり、再び席についた。
その私にロイ様が言う。
「僕はこういう生まれのせいか、人を信じることが出来なくてね」
「こういう生まれ?」
「君も乙女会で会っただろう? 母上をどう思った?」
「クリスティナ様ですか?」
「そう。あの人に母親を感じる瞬間があったか?」
母親……は感じなかった。
むしろこんな若く美しい人に、成人するような子供がいるのかとびっくりした。
「ロイ様は……血のつながりがないのですよね?」
「血のつながり以前の問題だ。むしろ血などどうでもいい。美しいかどうかだけが問題なんだ」
それは私も感じたけれど。
「ロイ様はお美しいので充分お認めになってるのでは?」
「そう。アルフォード家の後継には私がふさわしいと思ってるよ」
「ならば問題ないのでは?」
長男がふさわしいと思うなら、一番丸くおさまるはずだ。
「ふふ。そうだね。僕が母上の認める美を持ち続けている限りは、僕の味方だ。でも僕の美に翳りが出たなら、どうなるか分からないよ」
「そんなまさか……」
「そのまさかをためらいもなく出来るのが母上だ」
なんというか。
人の情みたいなものが欠如しているようには感じたけれど。
そんな母親に育てられたら、人を信じられなくなるのかもしれない。
「だからね。君の言葉も信じられない。特に女性の言葉は信用できないんだよ。行動で証明してくれないとね」
ロイ様はにっこりと微笑んだ。
「行動で証明?」
意味が分からないまま首を傾げる私に、ロイ様は信じられないことを言った。
「実はね、その前菜のテリーヌには毒が混ぜ込んであるんだ」
次話タイトルは「誓いの証明」です




