18、いよいよ対面
部屋の中のロイ様はいつもよりくだけた服装だった。
くだけたと言っても胸元に幾重ものフリルのついた質のいいブラウスだ。
膝下までのズボンは裾の部分を折り返してさりげなく繊細な刺繍がされている。
華美ではないのに手の込んだ高級な服だと分かった。
(相変わらずセンスのいい人だわ)
高級感を丸出しにするとむしろ下品に感じるけれど、この人はその辺の按配が絶妙だ。
「レイラ。待っていたよ」
微笑む顔はとても優しげなのに。
なぜか部屋には緊張感が漂っている。
「今日はお招き頂きありがとうございます」
私は部屋の中に進み出て、ゆっくりと腰を下げて挨拶した。
「……」
沈黙を不審に思い顔を上げると、顎先に右手を添えてじっと私を見ていた。
その視線はクリスティナ様のものとよく似ている。
さすが親子だけあって瞳のブルーの深さもそっくりだった。
「あの……?」
「ふーん、なるほどね。確かに申し分ない挨拶だね」
「え?」
「いや、なんでもない。今日はドレスが間に合わなかったお詫びに呼んだんだ。勘違いをしていて役に立てず申し訳なかったね」
「いいえ。このようにお心をかけて頂き感謝致します」
「さあ、座って。今日は君のために最高級のディナーを用意させたんだ」
「はい。失礼致します」
ロイ様が手で合図を送ると、給仕がグラスにワインを注いだ。
え? ワイン?
私十三歳だけど。
前世では二十歳だったけど、この体は十三歳なのよ。
ヨハンの家でもステラおばさまの家でもお酒を出されたことはないんだけど。
まあヨハンはお酒があれば全部自分で飲みきるような男だったからだけど。
「あの……私はお水を頂けますか?」
「貴族の令嬢は子供の頃からワインを嗜んでるよ。君もこの機会に少し免疫をつけておくといい」
「で、でも……」
「じゃあ乾杯だけでも」
「では……乾杯だけなら……」
ロイ様は真っ赤なワインの入ったグラスを楽しげに掲げた。
仕方なく私も同じようにワインを掲げる。
「美しい貴族女性の誕生に乾杯」
キ、キザ……。
これホントに奥手って言う?
奥手な人、こんなキザなセリフ言える?
怪しみながらもロイ様に倣って、ワインを一口飲んだ。
のあっ!
濃っ!!
これテキーラ混じってんじゃないの?
「こほっ、こほっ……。し、失礼致しました」
この世界のお酒ってこんなにアルコール度数が高いのかしら。
思わずむせてしまうほどなんだけど。
「ふふ。お酒はどうやら初めてみたいだね」
前世ではお酒は嫌いじゃなかったけど、この体では初めてだ。
ほんの一口だけど、体が熱くなってる。
気をつけなきゃ。
「あの……水を……」
「ああ、そうだね。すぐに用意させよう」
ロイ様は給仕に命じたものの、先に前菜が運ばれてきた。
三層に分かれたテリーヌのようなものだ。
そこに赤と緑のソースが美しく彩られている。
料理まで芸術的だ。
作法通りナイフとフォークを手にとった私をロイ様はジッと見ていた。
な、なに?
この親子って人のことジッと見るのがクセなの?
「あの……なにかついてますか?」
「いや……僕の贈ったドレスがよく似合ってると思ってね」
真顔で言われるとドキっとしてしまう。
「そ、それはありがとうございます」
「でも、そのアクセサリーはよくないね。ピンクダイヤモンド? 品は悪くなさそうだけど、紫のドレスに薄いピンクの宝石は合わないな」
私の胸と耳にはステラおばさまの秘蔵のピンクの宝石が光っていた。
それは……ロイ様の言う通りだと思う。
私もそう思ったけれど、おばさまが嬉しそうに「一番大切な宝物なのよ」と言いながらつけてくれたので断れなかった。
「そのドレスに合うアクセサリーを持ってこさせよう」
ロイ様が執事を呼ぼうとするのを、私はあわてて止めた。
「いえ! 大丈夫です。これがいいんです!」
ロイ様は首を傾げた。
「なぜ? それに合う宝石をプレゼントしようと言ってるんだよ?」
「いえ、プレゼントなど、なおさらいりません」
「僕のプレゼントを断ると言うの?」
一瞬ロイ様の視線が険しくなったような気がした。
まずいことを言ってしまったの?
しかしすぐに元の優しい笑顔に戻った。
「ショックだなあ。僕の贈り物を断った令嬢は初めてだよ」
笑ってるけど……。
笑ってるけど、目の奥が笑ってないよ~。
前世の桐島くんを思い出してきた。
あの人もよくこんな笑い方してたっけ。
こういう時は必ず後でひどい目に遭ってたんだけど。
まさか、桐島くんとは違うよね。
次話タイトルは「レイラの誓い」です




