17、レナルドの思惑
「レナルド様、例のお嬢様が到着されたようでございます」
執事の報告を聞いて、レナルドは立ち上がった。
「ふん。バカな小娘が。ほいほいとエサにつられてやって来たか。部屋に通せ」
「はい。かしこまりました」
レイラを招き入れるのは、レナルドの私室の一室だった。
一人で朝食をとる時や、近しい者と食事をする時に使う丸テーブルがある部屋だ。
「さて、身の程知らずの小娘をどう料理してやろうか」
当初は一緒に食事をして、無作法なテーブルマナーを指摘して恥をかかせてやろうと思っていた。そして貧民には到底着こなせないドレスの不釣合いをあざ笑うつもりだった。
ユニコーンの乙女会で散々こきおろされ、トドメにここで身の程知らずを思い知らせて、もう立ち直れないほどの屈辱を味あわせてやろうと思っていた。
だが。
さっきサンドラと話した内容をもう一度頭の中で思い浮かべた。
「悔しい~!! 聞いて下さいなレナルド様。あの貧民女ったら思ったよりも大狸でしたの。どこで身につけたのか、貴族面が板についていて、やたらに口が巧いんですの。いいかげんなことばかり言って、クリスティナ様まで丸めこんだのよ」
レナルドは怪訝な顔で聞き直した。
「母上まで?」
「ええ。そうですわ。ちょっと肌が綺麗だからって、クリスティナ様の美白へのこだわりを刺激するようなことばかり言って。あー、ホントに腹が立つわ。なんなの、あの子」
「君は面白い余興を準備したと自信たっぷりに言ってたじゃないか」
「そ、それが……なぜだかあの子ったらパイナッポウを知ってたみたいですの。他の夫人方が悲鳴を上げる中で、ザクザクと切り分けておいしそうに食べてみせたんですの」
「あの変わった形の異国の食べ物を?」
「ええ。貧民のあの子がどこで見たのか分からないけど。迷いなく切ってたわ」
「……」
レナルドは考え込んだ。
十三の小娘と思っていたが、案外手強い娘かもしれない。
「ドレスやメイクは母上のお気にさわらなかったのか?」
わざとドレスを届けなかった。
催促してきたら、母と同じ色の紫のドレスを着て赤っ恥をかけばいいと思っていた。
あの貧乏な公爵家で用意したドレスなど、みんなに笑われて、母上にすぐに追い出されるに違いないと思っていたのに。
「確かにドレスは古臭かったんだけど、それを隠すように色あざやかな生花を飾っていて、目障りってほどではなかったの。私も見回してもどの子が貧民なのか分からなかったし」
「髪型やメイクは?」
「それが……遜色なくできてたのよ。クリスティナ様なんて紅の色が気に入られてるようだったし」
「バカな。貧民の娘がどうやってそんな物を用意したんだ」
「嘘かホントか分からないけど、自分で配合して作ったって言うの」
「自分で配合?」
レナルドはレイラがロリポップのブリキケースに不思議な絵付けをしていたのを思い出した。
(そういえば、どこで習ったのか分からないが妙な技術を持っていたな)
「ねえ~、レナルドさまあ~。このままじゃ私の腹の虫がおさまりませんわ。なんとかして下さいませ」
子供の頃のように腕にすがりついて甘えるサンドラに、レナルドは心の中で悪態をつく。
(もっと役に立つかと思ったが使えない女だ)
だが心とは裏腹に、優雅に微笑んだ。
「もちろんだよ。僕の可愛いサンドラがこんな侮辱を受けたんだ。僕がきっちり償わせてあげるよ。報告を楽しみに待っておいで」
「まあ、嬉しい! やっぱりレナルド様は頼りになるわ。大好き!」
レナルドは思い出してぎりりと歯噛みした。
(まずはどれほど貴族然とした振る舞いが出来るのか見てやろう。本当に乙女会で通用するようなものなのか)
レナルドは隣のディナー用の部屋に移動して、レイラが来るのを待った。
やがて執事がドアをノックして、レイラの到着を告げた。
「どうぞ」
(お手並み拝見だ。貧民の娘め)
レナルドは丸テーブルの椅子から立ち上がり、ドアの向こうに立つ紫のドレスの女を見つめた。
次話タイトルは「いよいよ対面」です




