16、ロイ様のもとへ
「うわあ……。すごいドレスだね、お姉ちゃん」
鏡の前に座って化粧する私をネロが覗き込んで嬉しそうにしている。
おばさまとシモンヌは、ドレスに合うアクセサリーを探しにどこかに行ってしまった。
メイドたちもスカートを膨らませるパニエを見繕っている。
みんな乙女会の時よりもうきうきと準備している。
それは会いにいくのがロイ様という男性だから?
みんなのこの歓迎ぶりをみると、ロイ様はとても信頼されてるらしい。
おばさまの話ではずいぶん奥手の方のようだし。
でも、どうも私のロイ様への印象と合わない気がする。
(あの方は奥手な感じだったかしら?)
女性の扱いにとても慣れているように思えたけれど。
「お姉ちゃん。ロイ様ってお優しい方だね。お姉ちゃんにこんなすごいドレスをプレゼントしてくださるなんて」
ネロは無邪気に言う。
「そうね。確かにお優しい方なんだけど……」
「なにか気になるの?」
「紫のドレスってね、もし乙女会に間に合って着ていってたとしたら、真っ先に追い出されていたドレスの色なの。あの気のまわりそうな方が、そんな事にも気付かずにドレスを贈ったりするかしら?」
どうしても引っかかる。
間に合っても間に合わなくてもドボンじゃない。
「うーん。僕はお会いしたこともないから分からないけど……」
ネロは少し考えた後で「そうだ!」と言ってどこかに行ってしまった。
そして息を切らせて戻ってきた手には画用紙と鉛筆が握られていた。
「これにロイ様の似顔絵を描いてみて。お姉ちゃんならそっくりに描けるでしょ?」
「ロイ様の似顔絵? そうね、いいわ。描いてみる」
私は画用紙を手にサラサラと湖で会ったロイ様の絵を描いた。
前世の桐島くんの印象も残っているから、思いのほか上手に描けた。
「うん、そっくりだわ。こんな感じの人よ」
ネロは絵を見て首を傾げた。
「うーん、とても美しい人だけど、ホントだね。なんだかあまり好きな雰囲気じゃないや。僕はザックの方が好きだな」
「そうね。ザックなら……」
こんなに不安にならなかったのに。
このドレスを着て会いにいくのがザックなら……。
そう想像すると、胸の奥が違うざわめきでドキドキする。
「でもこの方が僕達の命を救って下さったんだよね。だったら僕はロイ様に忠誠を誓うよ」
そうだったわ。
何を考えてるのよ、私ったら。
私の好みなんて関係ないのよ。
ロイ様には命を助けて頂いたご恩もあるのに、疑うなんて失礼よね。
このチャンスに、会ってきちんと今までのお礼を言わなきゃ。
やがておばさまの秘蔵(?)のアクセサリーをつけて、メイクで最後の仕上げをした頃、手紙の通りに迎えの馬車がやってきた。
おばさまのボロ馬車と違って、今まで乗ったことのない豪華な白い馬車だ。
きちんとした身なりの執事がついていて、馬車まで誘導してくれる。
まるでおとぎの国のお姫様みたい。
「では行ってまいります、おばさま、シモンヌ、ネロ」
「ええ、ロイによろしくね」
「お気をつけてレイラ様」
「お姉ちゃん行ってらっしゃい」
私はみんなに見送られ、今日二回目の馬車でのお出かけとなった。
そして馬車が出た後で、ふとステラ夫人はつぶやいた。
「そういえばロイはもう正体を明かしたのかしらねえ。ではもう隠しておかなくてよくなったのかしら。いつの間に? そんなこと言ってたかしら」
「どうかなさいましたか、奥様?」
「あら、いいえ。なんでもないわ。ともかくロイとレイラが仲良くなるのはいいことだわね」
「ええ。そうでございますわね。さあ奥様もお腹がおすきになったでしょう。すぐに夕食の準備を致しましょう。今日は良い魚が釣れたようでございますわよ」
「まあ、それは楽しみだこと」
ステラ夫人は何を心配してたのかも忘れ、屋敷の中へと戻っていった。
次話タイトルは「レナルドの思惑」です




