41、ドレスが届かない
ユニコーンの乙女会が翌日に迫っていたが、ロイ様と約束したドレスが届かない。
そんな約束をしたことを言えないままに、ステラ夫人とシモンヌは古いドレスをメイドたちに仕立て直させていた。
おばさまはピンクが好きらしく、薄いピンクのふわふわしたドレスだ。
当時は最新の可愛いドレスだったのだろうが、数十年の時を経て、色はくすみ生地は張りを無くし、野暮ったい感じだ。
リボンやレースをつけて今風にしようとしているが、なんか違う。
こんな時、エミリアがいればと思った。
彼女ならどんな素材でも斬新で品のあるドレスに仕立ててくれるのに。
「ロイ様はまさか忘れてるってことはないわよね。まだですかって催促するわけにもいかないし。どうしよう」
自分から用意してくれると言ったのに忘れるってあるだろうか?
すっかりアテにしていただけに、計画が崩れてしまった。
ロイ様の贈るドレスなら流行遅れではないだろうし、なによりクリスティナ様も息子の選んだものにケチをつけたりしないだろう。
他のご婦人にしたって、ロイ様に頂いたドレスならば文句の言いようがない。
そんな甘い計算があったのに。
全部全部崩れてしまう。
こんなことならザックの申し出を受けておけば良かった。
ザックのセンスは不安だが、ザックがドレスを仕立てるわけじゃないんだから、それなりの物を用意してもらえたかもしれないのに。
「レイラ様、ドレスが仕立てあがりましたわ。ご試着いただけますか?」
あれこれ悩んでいるうちにシモンヌが呼びにきた。
「え、ええ。分かりました」
ステラおばさまの部屋で、メイドに手伝ってもらいながらピンクのドレスに着替える。
ついでに髪もセットしてみることにした。
「まあまあ! なんて可愛いらしいのかしら!」
「レイラ様はもともとの素材がいいから何でも似合いますわね」
「お姉ちゃん、お姫様みたい」
親バカと侍女バカと弟バカだ。
待って待って、これ正解?
確かに子供らしくて可愛いけど、ユニコーンの乙女会はこんな幼いドレスで大丈夫?
貴族の令嬢の戦場なんじゃないの?
「あの……髪はこんなボリュームのないツインテールで大丈夫でしょうか? ザックの絵ではクリスティナ様はずいぶん大きなカツラをつけてたみたいですけど」
ザックの絵は過大に表現しすぎとしても、なんのボリュームもないツインテールにリボンだけってどうなんだろう。
「カツラをつけるのは既婚のご婦人が多いのよ。未婚のご令嬢は、あまり華美に飾ってなかったわ。十数年前の話だけど」
そうなのよ。
十数年前の情報ばかりなの。
ファッションの流行はどんどん変わるのに。
いろいろ教えてもらおうと思っていたソフィーも、あれから来ないままだし。
なんだか嫌な予感しかしない。
これ大丈夫だろうか?
「あの……おばさま。髪型はもう少し大人っぽくアレンジしてもいいでしょうか?」
「あらあら、レイラは自分でアレンジなんて出来るの?」
「はい。髪とメイクは自分でやってみます」
こうなったら前世の中世貴族のイメージでやってみるしかないわ。
化粧道具も、この数日で少し改良を加えて私の肌に合うように作り変えた。
色粉は細かくすってチーク用と口紅用に私に合う色合いに配合した。
蜂蜜はグロス代わりになるようほどよい濃度にして小さなケースに詰めた。
アイラインとアイブロウは鉛筆を細く削って代用する。
幸いにもこの世界の鉛筆の芯は柔らかくて前世でいうと6Bぐらいだと思う。
主に絵を描くための鉛筆なので柔らかくて濃く、ぼかしやすい。
成分が少し心配だが、一日ぐらいなら大丈夫だろう。
髪はアップにして高く結おう。
使いやすい髪ゴムや整髪スプレーがないから巧く出来るか分からないけど、画用紙を重ねた厚紙を髪に挟んでから紐とリボンを駆使してボリュームを作るしかない。
あとは庭に咲き誇る花を摘んで髪に飾る。
古くさい帽子やアクセサリーより引き立つはずだ。
それにしてもロイ様のドレスが届かなかったのが痛い。
痛すぎる誤算だった。
次話タイトルは「ユニコーンの乙女会当日」です




