EX4:内藤陣と妹
これは内藤陣が異世界に行く少し前のお話である。
陣は1年の間に大切な人を5人も失い、心にとてつもなく大きな傷を負った。
今年で高校二年生となったのだが、6月になった今も登校できずに家に引きこもっていた。
陣は薄暗い自室へこもり、スマートフォンのアプリゲームを何も考えずに遊んでいた。
そんな時、扉をコンコンコンとノックされる音がした。
「お兄ちゃん?」
部屋の外から聞こえたのは妹の列の声だ。
陣はスマートフォン上で日付を確認してから目を外して部屋にあるカレンダーを見つめた。
「土曜日・・・」
陣はただそれだけを言うと再び黙り込んだ。
土曜日。母は仕事へ行っていて、列は部活動が休みなのだろうと思った。
大切な人を多く亡くし、陣は未だに立ち直れずにいた。
しかし、母は数カ月で気持ちを切り替え、何としても生活費を増やそうと仕事を増やし頑張っている。
妹はすぐに立ち直り、部活動に本気で勤しんでいる。
みんな頑張っているのに、陣は様々な恐怖から何もできずにいた。
「お兄ちゃん?大丈夫?朝ご飯作ったから食べて。ここに置いておくから」
列は現在、中学三年生へ進学し順調に中学生生活を送っている。
全く部屋から出てこない兄である陣を心配し、朝食を作ってくれたらしい。
陣は何も言うことなく再びスマートフォンをいじりだした。
しばらくしてお腹が空いた陣は何か食べようと部屋を見渡すと、山積みになっているカップラーメンが目に入った。
陣のいつもの食事である。大量に保管されたカップラーメンの山。総じて20ほどある。
しばらくの間ずっとカップラーメンしか食べていないのだが、飽きたと思うこともなかった。これが陣の普通となっていたからだ。
しかし、ここで先ほど列が朝食を作ってくれたことを思い出した。
陣はゆっくりと部屋の扉を開けると扉のすぐ横におぼんに乗った朝食が置いてあった。
おぼんを手に取り、扉をまたゆっくりと閉める。
陣はそのまま机に持って行き、部屋の電気を付けた。
おぼんには白米、目玉焼き、キャベツの千切り、味噌汁がそれぞれ綺麗な皿に盛りつけられ置かれていた。さらに、氷水、箸も用意されていた
陣は水を一口飲むとキャベツの千切りをはじめ、全て綺麗に食べ尽くした。
久しぶりにカップラーメン以外のものを食べた陣は家族の温かさを思い出した。
忘れかけていた家族の優しさ。
いつまでもこのままではいけないと陣は決心した。
陣はようやく部屋から出ることを決めた。
陣はおぼんを持って台所へ向かった。
何もかも少し懐かしく思う。廊下もリビングも台所の蛇口もこの風景すらも。
皿を丁寧に洗っていると列がリビングへ入ってきた。
久しぶりに妹の顔を見た。数か月見ない間に少し大人っぽくなった気がした。
列は兄が部屋から出てきたことに驚き、開いた口がふさがらないといった状態だ。
「お兄ちゃん・・・」
「列・・・」
列は涙こそこぼれていないが瞳がゆらゆらと揺れていた。
「列、ごめん。ありがと、ご馳走様」
陣は今まで迷惑をかけてきた申し訳なさに列を直視することができないまま、謝罪と朝食を作ってくれたお礼を言った。
「ううん、いいの。久しぶり、お兄ちゃん」
「久しぶり。ちょっと話があるんだけどいい?」
「うん」
陣と列はリビングのソファーに腰をかけた。
「列、今までたくさん迷惑をかけてごめん。俺、来週から高校行くよ」
「ううん、迷惑なんかじゃないよ。仕方ないよ。お兄ちゃんが悪いんじゃないし・・・無理しなくてもいいんだよ」
列は優しく包み込むように言ってくれる。
「いや、みんな頑張ってるから、俺も頑張るよ。今まで何もしてこなかった分、頑張るから」
「・・・わかった。応援してるからね!一緒に頑張ろう」
「ごめ・・・いや、ありがとう」
陣はごめんと言いかけたが、それよりも感謝の気持ちが上回った。
「今すぐには立ち直れないけど、少しずつ、少しずつ前に進むようにするから」
「うん。お兄ちゃんなら大丈夫だよ!だってお兄ちゃんだもん!」
列は笑顔でそう言った。陣も列につられるように笑った。
陣は久しぶりにほんの少しだけ笑うことができた。
「ありがとう」
最後までお読みいただいた方、誠にありがとうございました。
令和となっても皆様が幸せに過ごせますよう心よりお祈り申し上げます。




