第11話:祭りの前日
―アルエ第十一王女―
アグルスの祭りを明日に控えたこの日。
アルエは今日も他の王女にいじめられていた。
「アルエ、部屋の掃除しておいてー」
「アルエ、風呂の掃除しておいてー」
「アルエ、便所の掃除しておいてー」
「アルエ、庭の手入れしておいてー」
これらは本来、従者、いわゆるメイドの仕事なのだが王女たちはわざとアルエにやれせるのだ。
ジンに会った日からアルエは一度も逃げださずに耐えてきた。
しかし、アルエの心の限界は近づいて来ていた。
「はぁー。ターブに会いたいなぁ。ジン君たちに会いたいなぁ」
もう嫌だ、こんな生活・・・
「おい、アルエ!遅い!早く部屋の掃除して!」
「申し訳ございません。アダナーお姉さま」
アルエはすぐさま掃除を開始する。
埃1つ残さぬように丁寧に
アルエが一生懸命掃除をしているとき、顔に何かがかかった。
手で触れると真っ黒に染まった。
「あぁーごめん。インクこぼしちゃったー。綺麗に拭いておいてー」
アルエの顔にかかったのは真っ黒のインクだった。
顔にかかっただけではなく服にも染みつき、床にも零れ落ちていた。
「はい。畏まりました」
アルエはやっとの思いでアダナー第十王女の部屋の掃除を終えると次はアバナー第九王女の部屋の掃除、アロソ第七王女の部屋の掃除と3人分の部屋の掃除をする。
王女たちの部屋はとても広いため、1人分の掃除を終わらせるのにも苦労している。
それだけならまだしも、1人1人ちょっかいを出され、スムーズに終わることはまずない。
部屋の掃除を終えると風呂場、お手洗い、庭などなど、だいたいこの流れで一日が終わる。
「・・・お母様」
アルエはもう二度と会えないと分かっているもののつい口に出して思い出してしまう。
アルエは一通り言われた場所の掃除を終わらせた。
「あぁ、アルエ、次さぁ、廊下の掃除してくんない?」
「はい。畏まり・・・ました」
アルエは疲労感たっぷりの声で返事をした。
「え?あんた疲れてんの?だらしないわねぇ」
アバナー王女は嘲笑うようにケラケラ笑っている。
アルエに拒否権はない。
拒否すると他の王女まで話が伝わり、さらに酷い仕打ちが待っているからだ。
「申し訳ございません。わたくしが責任を持ってやらせてもらいます」
「当然よ」
アルエは気力を振り絞って言葉を発している。
体中の感覚が麻痺している。
目を開けているもののはっきりと視界に入ってこない。
重い石を頭の上に乗っけられているかのような感覚。
―もうダメ、やっぱり耐えられない、逃げよう―
この時、既に空は茜色に染まっていた。
―陣サイド―
祭りを前日に控えている日の昼過ぎ。
今、デガと戦っているのはヒナタだ。
ジンはヒカリ達と共に戦いを見守っている。
2対1ではジンとヒナタが勝つようになったからだ。
2対1で戦った時の勝率は約8割。
そして、ヒナタとデガが1対1で戦った時のヒナタの勝率は6割。
既にヒナタがデガを上回るようになっていた。
「すごいよ。ヒナタ」
「そうですね。こんなに早く強くなるなんて思いもしませんでした」
「そうだね」
みんながヒナタに感心している。
「やあぁ!!!」
「うおっ!」
またしてもヒナタの勝ちだ。
「いやー強いのう!あっぱれじゃ」
「これも師匠の教えのおかげです。ありがとうございます」
強くなったのは剣術だけではない。明らかにヒナタの心も強くなっている。
「次からお主もわしの味方に入るのじゃ」
デガはジンに向けてそう言った。
つまり、ヒナタが強すぎてヒナタ対デガ、ジンということだ。
これはさすがにヒナタにとってハードだと思うのだが・・・
ジンは言われた通りデガの方に入った。
「よし、いくぞ」
「はい!」
「はっ!」
「やぁ!」
この形で10戦やって5勝5敗に終わった。
ヒナタは経験を積めば積むほど強くなる。
「もうわしが教えることは何もない。免許皆伝じゃ」
「免許皆伝?」
ヒナタは良く分からなそうな顔をしていたのでジンが説明した。
「そう。師匠が自分の技のすべてを教え込んだってことだよ」
「まさか、これほどまでとはのう。たまげた」
「ありがとうございました」
ヒナタは改まってデガに誠心誠意お礼を言った。
「明日からお主らに何も教えぬ。よく頑張ったの」
「俺もですか?」
ジンにも教えることはないらしい。あまり自信は持てないがジンも強くなったということなのだ。
「ああ、お主もよく耐えたのう。大丈夫じゃ。自信を持ちなさい」
「わかりました」
「ありがとうございました」
「いつでも遊びに来るといいじゃろう」
「「はい!」」
こうしてデガとの特訓は幕を下ろした。
確かにジンも以前よりは強くなった。
ここでの経験はこの先を見てもいいものとなるだろう。




