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第10話:凡人と天才

デガから指導を初めて受けた翌日、ジンとヒナタの手は真っ赤に腫れていた。

2人の痛々しい掌を見て心配そうな表情を浮かべているヒカリ、ケデア、ハナ。


「ジン、ヒナタ、大丈夫ですか?」


声をかけたのはヒカリだった。

蛍の光のように美しい緑色の瞳が陣とヒナタに向けられる。


「うん。大丈夫だよ」

「平気だよ」


2人はそういうもヒカリはジンとヒナタの手に布を巻いてくれた。


今日も昨日に引き続き、デガの指導を受けることを決めている。

2人はそれぞれここで引く訳にはいかないと強い意志を持っている。

こんなチャンスを逃すわけにはいかない。


「ありがとう。ヒカリ」


「いえ、無理はしないでくださいね」


「うん、大丈夫」


ヒカリは知っている。ジンはいつだって無理をすることを。

ヒカリはいつだって誰よりもジンの側にいて支えてあげたいと思っている。



「さて、行きますか!」


ジンは大きく息を吸うと覇気のある声を放って立ち上がった。


そうして昨日同様デガの家にやってきた。


「おはようございます!」


「ああ来たか。さて、早速始めようとするかのう」


6人はデガの家の裏にやってきた。

昨日、一度も攻撃を当てることが出来ず、木刀を振る度飛ばされた場所だ。

少し休憩をした後もことごとく木刀を飛ばされた。稽古の最後の方は手に力が入らず少しの衝撃で木刀を落としてしまっていた。

今日は案の定2人共身体中が筋肉痛になっていた。少し動いただけで衝撃が走る。


「昨日同様、わしにかかってきなさい。ただし、今日はわしも攻めるのでな」


「「!?」」


言葉にならない声が思わず二人の口から漏れ出た。


「安心せい。お主らに当てはせぬ」


「「はい!」」


ジンとヒナタは力一杯返事をした。


「お主、名は何と言ったかのう?」


「え?・・・内藤陣です」


「そうだったのう。では、これを」


デガはそう言うとジンに木刀を差し出してきたので、ジンは木刀を受け取ったが戸惑っていた。

名前を憶えられていないからだ。覚えられないのか、覚えようとしないのか、または覚える価値すらないのか気になった。しかし、気になっても答えは出ないので考えるのをやめた。


「お主、名は何と言ったかのう?」


「ヒ、ヒナタです」


「そうだったのう。では、これを」


デガはそう言うとヒナタにも木刀を差し出してきた。

ヒナタも少し困惑気味だ。

しかし、あまり気にしてはいないようだった。


「何処からでもかかってきなさい」


「わかりました」

「はい!」


2人は勢いよく駆け出した。

昨日とは違う自分を証明するために。


「はああ!!!」

「やああ!!!」


ヒナタは真正面からデガの脳天目がけ木刀を振る。

しかし、ヒナタの木刀はデガの木刀と衝突し大きく軌道を変えた。

それと同時にジンはデガの真後ろから背を突きにかかった。

デガはジンを見ることなく、ただ一歩右に出て左を向き、木刀を真下から振り上げた。

すると、2本の木刀が同時に宙を舞った。


「昨日より少し動きが良くなっているのう。もう一度じゃ」


昨日、ジンとヒナタは家で策を練り、実際にやってみたがデガには通用しなかった。

この後も家で考えた策はすべて失敗に終わった。


正直悔しかった。

おそらく悔しいのはジンだけではない。

ヒナタも悔しいだろう。

ヒカリ、ケデア、ハナも自分のことの様に悔しがっているのが分かった。


「よく考えたのじゃなぁ。いいじゃろう。次からわしも攻めるぞ。それではいくぞ」


デガはそう言うと木刀を拾ったばかりのヒナタに襲いかかった。


「うわああ!!」


一瞬で詰め寄ったと思いきや気付いた時にはデガは分かりやすく真上から振りかざしてきた。

ヒナタは思わず声をあげ、間一髪のところでデガの木刀を受け止めた。

ただし、ヒナタは左手を木刀の先に添えている形でだ。


ジンはすぐさまにヒナタの助けに入る。


「はっ!!」


しかし、ジンの木刀は一瞬にして投げ飛ばされた。


ヒナタはすぐに体勢を整え、デガに攻め入る。

しかし、これも失敗に終わり投げ飛ばさせる。

完敗した。

焦ったことで冷静に物事を判断できなくなってしまっていた。


「始めはこんなものじゃぞ?気にせんでよい。もう一度じゃ」


「「はい!」」



この後もジンとヒナタは何度も木刀を投げ飛ばされ続けた。


それからしばらくして進展があった。


「やぁ!!!」


「おっと」


ヒナタの木刀がデガの胴をかすめたのだ。

ヒナタは見違えるほどに強くなっている。

それは誰が見てもわかった。

それはまるでデガの動きを完全にコピーしている様に思えた。

ヒナタはデガの攻撃を受ける度、強くなっている。

デガの攻撃を自分の物にしている。

それに加え、同じ攻撃を一度も受けていない。間一髪のところで交わしているのだ。

今、ジンとヒナタが戦ったら間違いなくヒナタが勝つだろう。

それほどヒナタは急激に進化していった。


ジンは自分が劣っているのだとわかった。

ヒナタとは違い同じ攻撃を受け、一度も良かったと言える攻撃はできていない。


「少し、休むとしようかのう」


デガは少し汗をかき、家に戻って行った。


「すごいです!ヒナタ」

「見違えたよ」

「ヒナタ、強くなったね」


ヒカリ、ケデア、ハナはヒナタに声をかけた。



―なぜ、俺は強くなれないんだ―



「これでみんな役に立てるかな?ジンの役に立てるかな?」


「う、うん、そうだね。すごいなぁヒナタは・・・俺は全然ダメだ」


「そんなことないよ!」


「いいや、駄目駄目だ」


ジンはデガの後を追って1人で家へ向かった。


「ジン・・・」



デガの家に入るとすぐに声をかけられた。


「お主、気にしてはならぬぞ。彼は天才だ。わしも驚いたわい」


「どうして俺は強くなれないんですか?」


「いいや、お主は少しじゃが強くなっているぞ?彼が特別なのじゃ。お主が普通なのじゃ。気にしてはならん。なに、2日で強くなるとでも思っとるんか?思っとるんなら、それは間違っとる」


「・・・はい」


俺は普通か、今までは白い剣に助けられていただけで何の才能もない凡人。


少し休んだところでデガが声をかける。


「さて、始めるかの」


「ちょっと待ってください」


「なんじゃ?」


「俺に時間を使うよりヒナタに時間を使った方がいいんじゃないですか?」


「何を言っておる。1人も2人も変わらんよ。心を強く持つのじゃ。ここでやめてはならぬ」


ジンは今、弱気になってしまっていた。心の中に存在する弱い気持ちが表に出てきてしまった。




「・・・ヒカリ」


―俺には守らなければならない人がいる―

―ヒカリ、ケデア、ヒナタ、ハナ―

―絶対に俺が守るんだ―


「わかりました。これからも剣術を教えて下さい」


「もちろんじゃ」



それから数日が経過し、ヒナタはいつの間にかデガと同等の強さを手に入れた。

ジンでは手も足も出ない。

それでもジンの心は折れていなかった。


ジンもそれなりに強くなっているが、ヒナタとはかなりの差が出来ていた。


天才が努力すると凡人は大きく離されてしまうのだと実感した。

しかし、だからといって諦める訳にはいかない。

一度見た動きを完璧に記憶するヒナタをいつか越えて見せる。

勝てない相手はいない。

心の中に住む悪魔にだって勝てることができるはずだ。

強くなる。みんなを失わないために。


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