第6話:いじめ
「あれ?ない!」
「どうしたの?アル」
「お母様からもらった大切なロケットがないの」
古びた家で何かを探している赤い髪に赤い瞳の少女がいた。
そう彼女は世にも珍しい赤の双色者だ。
そこにもう一人の少女がその様子を見つめていた。
「アルがいつも大切にしてるあのロケット?」
「ちょっと探しに行ってくる!」
「ちょ、待って!」
赤の双色者の少女は今にも家を飛び出しそうだったが、もう一人の少女に止められた。
「何よ」
「今から探しに行っても暗くて見つからないわ。明日、私も一緒に探してあげるから。ね?」
「・・・うん」
赤の双色者の表情はとても暗かった。
「みんな、おはよう!」
ジンはみんなに元気よく朝の挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよう」
「おはよう」
いつも通りみんなもそれに応えてくれる。
「今日は・・・」
「第六区に行くんでしょ」
「そう。ごめんね。付き合わせちゃって」
「気にしないでください。きっと彼女も困っているでしょう」
「ありがとね」
ケデアが今日の目的を言ってくれた。
それにヒカリも優しく背中を押してくれた。
「じゃあ行こう」
こうして5人は第六区へむかった。
その頃、すでにロケットを探している少女が2名。
「どこで落としたんだろ?」
「思い当たる節はないの?」
「えっと・・・あ!そうだ!昨日、この近くの小道で男の子とぶつかったの。もしかしたら、その時に落としちゃったのかも」
「じゃあ、そこへ行きましょう」
可能性がある場所はすべて探す。
それだけ彼女にとって特別なロケット(もの)なのだ。
そんな時、女性に声をかけられた。
「あら?アルエじゃない」
「・・・!?」
振り向くとそこには顔なじみのある人物らが立っていた。
「こんな埃だらけの第六区で何をしているの?」
「・・・お姉さまたちこそ、なぜ?」
赤の双色者、アルエに声をかけてきたのはアバナー・二スニラ・ノヴ・アグルス。この国の第九王女だった。
「アルエったら、アバナーお姉様の質問に質問で返すの?駄目ね~」
「アダナーお姉様」
そこにはアバナーの妹であるアダナー・二スニラ・ノヴ・アグルス第十王女もいた。
「いつもいつも城から逃げては第六区へ行くなんて、そんなに汚れるのが好きなの?」
「ち、違います。アダナーお姉様」
「おまえもアルエをこの国の王女と知ってよく一緒にいられるわね。汚らわしい」
「アバナーお姉様。私を侮辱するのは構いません。しかし、親友であるターブを侮辱しないでください」
「侮辱なんてしてないわよ」
「・・・アルエ」
「アルエ、一緒に来なさい。おまえは城から抜け出し、みんなに迷惑をかけた。罰として今週ずっと私たちの雑用係よ~オーホッホッホ」
雑用、その言葉の本当の意味はいじめだとアルエ・二スニラ・ノヴ・アグルス第十一王女は理解していた。
アグルス家の末っ子であるアルエは姉たちにいいように使われている。
「そ、そんな」
「来いって言ってんのよ!」
「い、いや!離してください!うっ!」
また、いじめられると知っているため、アルエの体は拒絶する。
しかし、姉たちがそれを許してくれない。
腕を掴まれ、首を掴まれ、どこにも逃げられはしない。
ジンたち5人は昨日彼女とぶつかった場所で待ち続けていた。
「彼女、来ないわね」
「そうだね。大切なものかもしれないから、ここで待ってよう」
「わかりました」
それから数時間経っても彼女は来なかった。
ついにケデアが諦めの言葉を口にする。
「ジン。そろそろ諦めない?」
「うーん・・・そうだね。みんなに迷惑かけちゃってるし、このロケットは第六区区役所に届けてあげよう」
「本当にいいんですか?」
「本当は直接本人に聞きたかった・・・あ!そうだ!赤の双色者の情報を得ればいいんだ!」
「情報を得る?」
「そう!双色者じゃ有名なはず」
「しかし、彼女は自分が双色者であることを隠している可能性もあります」
「あー確かに」
ヒカリの言ったことがあっている可能性もある。
しかし、それはあくまで可能性。
「でも、聞くだけ聞いてみようよ」
「そうだね」
ジンは近くに歩いていた男性に声をかけた。
「すみません!赤の双色者って知ってますか?」
「知ってるも何も赤の双色者はこの国の第十一王女だよ」
『!?』
第十一王女?王女ってことはお姫様だったのか。
何でお姫様が第六区にいたのだろうか?
何かあったんじゃないか?
『アバナー王女様!アダナー王女様!』
「お!噂をすれば」
人々の視線の先には豪華な黄色のドレスを着た女性と青色のドレスを着た女性と昨日の赤の双色者がいた。
「い、いや!離してください!」
赤の双色者である女の子は豪華な黄色のドレスを着た1人の女性に手を引かれていた。
思わずジンは隣の男性に声をかけた。
「彼女、嫌がってますが」
「あー、いつものことさ」
男性はこれが当たり前と言わんばかりな口調だった。
これが当たり前?
「そうなんですか?それは何故ですか?」
「理由は3つある。1つ、赤の双色者、アルエ様は国王と庶民の女性のと間に生まれた子だから。2つ、双色者だと期待されていたが、特別な能力など持っていないため。最後にアグルス家で一番年下だからさ」
ジンは怒りが込み上げてきていた。
なぜなら、今聞かさせた理由は全て自分では選ぶことができないからだ。
自分ではどうすることもできない宿命なのだ。
「離してください!」
赤の双色者は手を払い、逃げ出した。
「は!あの子、また逃げたわよ」
「惨めねぇ~」
「次に会うのが楽しみだわ」
ドレスを着た女性たちはケラケラ笑っていた。
ジンはすぐさま赤の双色者の後を追った。
「ちょ、ジン!」
「ジン!待ってください!」
ジンは赤の双色者を必死に追っていた。
徐々に赤の双色者の背中に近づいている。
あと少し!
ジンは手を伸ばす。
“届いた!”
ジンは赤の双色者の肩をつかんだ。
「待って!」
赤の双色者の動きが止まった。
「な、何ですか?」
赤の双色者は不審な目をジンに向けていた。
「昨日、これ、落としましたよね?」
「え!?これって!?」
「君のロケットですよね?」
「あなたが拾ってくれたんですか?」
「はい。そうです。昨日、ぶつかったときに落としたのを拾って声かけたんだけど・・・」
「ごめんなさい。急いでたものですから・・・あ、あの、ありがとうございました」
「どういたしまして。もう落とさないように気を付けてくださいね」
「はい。本当にありがとうございました」
彼女はジンの手を握るようにしてロケットを受け取った。よほど大切なものなのだろうと思った。
ジンはやっと目的を果たすことができたと安堵するとヒカリたちがここまでやってきた。
「ちょっとジン!おいてかないでよ!」
「やっと見つけました」
「あ!ごめん」
「もう気を付けてくださいね」
「はい。すみません」
そして、ヒカリたちとは別の少女が走ってやってきた。
「アル!」
「ターブ!」
「アル!大丈夫?」
「大丈夫」
「ところで彼らは?」
「聞いてターブ!この人たちがロケットを拾ってくれていたの!」
「そうなんだ。それはよかった」
「あ、そうだ!彼たちをターブの家に連れてってもいい?」
「え?彼たちを?もしかしたらアルの命を狙う悪い奴等かもしれない」
「ちょっとターブ。それは彼らに失礼だわ」
「そうかな?アルは怪しいとか思わないの?」
「思わないわ」
「なぜ?」
「こんな親切な人、いないからよ」
「親切だから、怪しいんじゃない」
そんな会話を目の前で聞いていたヒカリ、ケデア、ヒナタ、ハナは反論した。
「ジンは悪い方ではありませんよ」
「ジンは怪しくなんかない!」
「「ジンに謝って!」」
「ヒナタ、ハナ!」
「ほら見なさい。彼はいい人よ」
「しかし・・・」
「ターブ、謝って」
「・・・はい。申し訳ない」
こうしてアルエに強く言われたターブは頭を下げて謝った。
「私からも謝罪します。ごめんない」
「いえ、あなたは何も」
「私はアルエ・二スニラ・ノヴ・アグルスと申します。あなたたちの名前は?」
「内藤陣です」
「ヒカリです」
「ケデアです」
「ヒナタです」
「ハナです」
「私の大切なロケットを拾ってくれてありがとうございます。何かお礼をしたいのですが、ごめんないさい。私には何もできないの」
「いえ、お礼なんて」
「だから、ターブ。お願い!」
「ア、アル!頭をあげて!あげてってば!わ、わかった!いいよ!招待するから、アル!」
「ありがとう。ターブ」
ジンたち5人はターブという少女の家に招待された。
「改めまして、私の名はアルエ・二スニラ・ノヴ・アグルス。17歳です。気軽にアルと呼んでください。こっちが親友のターブ」
「ターブです。14歳です。よろしく」
「俺の名前は内藤陣。アルと同じ17歳です」
「改めてお礼を言います。大切なロケットを拾ってくれてありがとうございました。このロケットがあればどんなに辛いことでも耐えることができます」
「強い思いがそのロケットに入っているんですね」
「はい。このロケットには私のお母様の写真が入っているの」
「写真ですか?すごいですね」
ジンは率直に写真があることに驚いた。ということはカメラが存在するということだ。
アルエはみんなにロケットを見せてくれた。
確かにそこには美しい女性の写真が入っていた。
「知っていると思うけど、私みんなからいじめられているの」
「今日知りました」
「本当ですか?」
「はい。昨日引っ越して来たんで」
「そうでしたか。どちらからですか?」
「滅びましたけどアドゥータムという国です」
「ごめんなさい。嫌なことを思い出させてしまって」
「いいえ」
場の雰囲気が一気に悪くなってしまった。
「それにしても酷いですね。自分ではどうすることもできないことでいじめられるなんて」
「・・・こうなることは生まれる前から決まっていたんでしょうね」
「それは違うと思う」
「え?」
「それは違いますよ。人生とは自分で切り開くものです」
「あなたに私の苦しみがわかるんですか?」
「わかりますよ。ここにいる4人もわかっているはずです」
「なぜ、言い切れるのですか?」
「だって俺も・・・双色者なんですから」
「「え!?」」
「双色者?」
ジンはそういうと頭に巻いている布を取った。
「「黒の・・・双色者!?」」
「俺も少しくらい貴女の気持ち、わかります。きっとあなたより酷いのでしょう?黒の双色者とは」
「きれい」
『え?』
黒の双色者だと知ったら、同じ苦しみ、悩みを抱えていると思ってもらいたかっただけなのだが、アルエから想定外の言葉が返ってきた。
「私、私以外の双色者を初めて見ました!とっても美しいのですね!」
「貴女も軽蔑の目は向けないんですね。安心しました」
「双色者の苦しみを知っている人が他にもいたなんて思いもしませんでした」
「王女様は優しいですね。その心のままでいてください」
「貴方に比べれば私の、赤の双色者の悩みなんて小さいものなんでしょうね。なんだか、勇気をもらいました。貴方の言葉を聞いてると不思議と乗り越えられる気がします」
「そ、そうですか?」
「はい。私、城へ戻ります。これからも嫌な事がたくさんあると思いますが、私、耐え続けます!」
「そうですか。頑張ってください。影ながら応援してます」
「ありがとうございます」
「辛いことがあったらいつでも会いに来てください。第一区に住んでるので」
「わかりました」
「いつもどうやって城から抜け出し、ここへ来て、帰るんですか?」
「抜け出すのは簡単です。しかし、帰るときはどこかの橋で兵士にばれてしまい護衛をつけられます。そして、強く叱られます」
「そっか。今日は俺たちがお城まで送るよ」
「え?でも、どうやって」
「なんとかなるでしょ」
「あはは」
その後、本当になんとかなったのだった。
「じゃあターブ。いつもありがとう。ごめんね。またすぐ来るかもしれないけど、その時はまた、よろしくね」
「辛くなったらいつでも来てね。待ってるから。気を付けてね」
「うん!ありがと」
「じゃあナイトウジン。アルを頼みました」
「わかった。あと、俺のことはジンでいいからね。アルも」
「わかった。ジン。私のこともターブでいいですよ」
「俺たちもまたここに来ていい?」
「え、え!?まあいいですよ」
「よかった。じゃあね」
「ターブ。体調には気を付けてね」
「うん。アルも・・・ね。頑張って」
「ええ」
こうして6人はターブの家を後にした。
第六区のある店でジンと同じような色をした藍色の布を購入するとアルエに頭に巻くように言った。
橋を渡る際、ジンが第一区の家に帰りますと言って証明書を提示すると簡単に通してくれた。
第一区の人間だと知るとあまり時間をかけずに通してもらえた。アルエの正体が気付かれることもなかった。
そんなこんなで第一区に来るとジンは自分達の家の場所をアルエに教えた。
「ここが俺たちの家です。何かあったらいつでも来てください」
「ありがとうございます」
そして、アグルス城手前の橋に到着した。
「今日はありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
「ロケットを拾ってくれていてありがとうございました。もう二度と手放しません。本当にありがとうございました。私、頑張ります!では、失礼します」
「頑張ってください」
アルエはお城に続く橋を上っていった。
そのあとアルエがみっちり怒られるのは考えなくてもわかった。
しかし、アルエは聞き流していることだろう。




