第8話 冷気を持ち運ぶ。
今日も快適な睡眠だったなぁ……。
――そろそろ制作で使う魔導具とか、魔核を買い足さないといけないんだった。
……この暑い中、リリエン商会に行くのか……?
部屋で使ってる魔導具を持ち運んで……いや、それは面倒だ。
……そういえば、夏場に持ち歩く小型の扇風機があったな。
今使っている魔導具をもっと小型化して持ち歩くか……だとしても、持ち運びには微妙だな。
――扇子に冷却機能を付ける……それなら軽いし、コンパクトに持ち運びも出来る。
うん、いい気がしてきた。
早速、作業部屋へ向かい、制作に取り掛かった。
俺が持っている扇子は、黒のシンプルなもの、紺色のシンプルなもの、それから水色から紺色へと変わるグラデーションのものが三つある。
夏に使うなら、涼しげな色合いの方がいい。
そう考え、水色から紺色へグラデーションになっている扇子を使うことにした。
一番細く魔導回路を描ける魔導回路描画ペンを手に取り、扇子の骨組みに回路を描き込んでいく。
今回の魔導具に使う回路は、部屋や作業部屋に設置している冷却魔導具を小型化したものだ。
基本構造は同じだから、調整作業も思ったより早く進んだ。
持ち手部分には魔核を収める小さな台座を作り、その中心に魔核を配置した。周囲のつまみを回すことで魔力の流量を調整できる仕組みだ。
あとは、冷却機能と魔力制御のための魔法陣を描き込んでいく。
さらに、扇ぐ動きを感知して起動する簡単な魔法陣も組み込んだ。
使用時だけ魔力が流れるように調整すれば、無駄な魔力消費も抑えられる。
「……こんなもんかな」
試しに仰いでみると、優しい風と共にひんやりとした冷気が流れてきた。
つまみを回し、風量も確認したが、問題なさそうだ。
一度起動させれば、しばらくの間は風と冷気が出続ける。
大体十分に一度仰ぐだけで、快適な状態を維持できるように調整した。
これは普通の扇子より、かなり楽だな。
三十分に一度仰ぐだけでも十分かと思ったが、母さんやティアナに作ってやるなら、お茶会で使うこともあるだろう。
そうなると、風や冷気が長時間出続ける仕様では、かえって使いにくいかもしれない。
必要な時だけ涼めるように、適度な時間で切れるよう調整しておこう。
これなら母さんたちも使いやすいだろう。
細かな部分を調整し、動作確認を終える。
「……完成だ」
うん、風量も冷却具合もちょうどいい。 それに、思ったより軽く仕上がったのも良かった。
これなら外でも問題なく使えるだろう。
母さんやティアナには、お気に入りの扇子を選んでもらってから、冷却機能を組み込んであげよう。気に入ってくれるはずだ。
魔導時計に目を向けると、もうすぐ昼食の時間だった。
リリエン商会に行くのは食後だな。
昼食を終え、早速リリエン商会に向かう。
普段なら散歩がてら歩いて行くところだが、今日は暑い。素直に馬車を使うことにした。
もちろん、馬車の中には作業部屋に置いていた冷却用の魔導具も載せている。
さらに、試作品の確認も兼ねて、扇子型の冷却魔導具は御者に貸している。
俺が商会にいる間は、馬車の中で休んでもらう予定だ。その時に扇子型の冷却魔導具は返してもらう。
これなら暑さ対策は万全だ。
馬車の中では、出力を二割ほど抑えた冷却用の魔導具でも少し寒く感じるな。
この広さなら、元の冷却機能の六割程度でも十分に快適だろう。
それに合わせて少し小型化すれば、馬車内でも邪魔にならないはずだ――
そんなことを考えていると、あっという間にリリエン商会に着いた。
「いらっしゃいませ、フィン様」
「こんにちは。今日は小型の魔核を二十個と、薄い鉄板を五枚。それと、魔力制御魔法陣を十五枚ほどお願いしたい」
「かしこまりました。準備いたしますので、そちらに掛けてお待ち下さい」
「あ、アレク叔父さんいる?」
「アレクシス様は只今商談中ですが、もうすぐ終えられると思います」
「そっか、ありがとう」
「では、準備してまいります」
第8話を読んでいただきありがとうございます。
今回は持ち運べる冷却魔導具を制作するお話でした。
次回もよろしくお願いします。




