第72話 好きだった時間。
……。
「……喉乾いた」
……サイドテーブルに水を置いておくの忘れてた。
しょうがない……作業部屋でお茶でも入れるか……。
作業部屋へ行き、いつものお茶を入れ、一口飲んだ。
……昨日は久しぶりに飲みすぎたな。
今日の午前中は何もせずゆっくりするかな……。
コンコン
「フィン様。朝食のお時間ですが、どうされますか?」
「……ん?」
「ガレス様とマティアス様は、あとで召し上がられるそうです」
「あ――……」
あの二人は、俺とウィルが先に部屋に戻った後も飲んでたからなぁ。
「俺は食堂に行くよ」
食堂へ行くとウィルが先にきていた。
「おはよう、フィン」
「おはよう。 あの二人、遅くまで飲んでたみたいだな」
「そうみたいだね。 リバーシで負けた方が飲むとか言ってたから、相当飲んだんじゃないかな?ガレスが」
「ありえる」
「マティは仕事の疲れもあるだろうね。 この3日間はゆっくり休んで欲しいよ。 さすがに心配になるしね」
「マティアスは、真面目なのが長所であり、短所でもあるからなぁ」
使用人が食事を運び終え、下がった。
スープを一口。
……いつもより薄味だ。
パンも柔らかいし、肉も脂が少ない。
……あ。
そういえば昨日飲んでたの、料理長も知ってるからか。
「……気が利くなぁ」
「何か言った?」
「あぁ。 俺たちが昨日、結構飲んでたのを料理長が知ってるから、今日の朝食は胃に優しい物なんだなって思って」
「確かに優しい味だね。 そういえば、昨日のつまみも美味しかった。 あれも前世のかい?」
「焼きチーズと、山芋鉄板はそうだな。あと唐揚げか。他は料理長が考えたやつだったり、アレンジ料理だったな」
「私は山芋鉄板が特に気に入ったよ。優しい味なのに、なぜか酒が進んだ」
「分かる。 前世で飲みに行った時は、よく注文してた」
「へぇ。そういったお店もあったんだね」
「あぁ。 食事も酒も美味しい店が多かった」
「やっぱりフィンは、食事が出来る店を出すべきだよ。 私もお忍びで行けるように、個室も作ってくれ!」
「……自分が行きたいからか」
「息抜きは大事だからね!」
「……まぁでも、ふらっと一人で気軽に入れる店があれば、俺も飲みに行くかも。 前世でもたまに一人で飲みに行ってたし」
「そうなのかい?」
「あぁ。 仕事帰りに、軽く食事と酒をな」
「そういう話、初めて聞いた。 そう考えると、フィンが『俺は大人だ!』って言っていたのも分かるね」
……もう、それは黒歴史だ。
「楽しみだなぁ。 フィンの食事処」
「……でも、自分の店に一人でふらっと飲みに行くのはどうなんだ?」
ちょっと気まずくないか……?
「いいじゃないか。自分の店なのだから」
……確かに?
ん――……
……ちょっと惹かれてきたな。
「まぁ、前向きに検討してよ!」
「……分かった」
そんな話をしながら食事を終えた。
「俺は午前中、部屋でゆっくり休むつもりだけど、ウィルはどうする?」
「私もそうするよ。昨日は結構飲んだからね」
俺たちはそれぞれの部屋へ戻った。
部屋へ戻ると、ベッドに寝転がった。
……。
――
……。
今日も暑かったし、疲れたなぁ。
「……ここにするか」
いつもの店に入って、カウンター席に座る。
「生ひとつ」
「はいよ」
キンキンに冷えたビールを喉に流し込んでいく。
……うまい。
料理をいくつか頼んで、スマホを眺めながら一息ついた。
誰かと話すわけでもない。
ただ、仕事が終わった後に好きなものを食べて、好きな酒を飲む。
それだけで十分だった。
……あぁ。
こういう時間、好きだったな。
――
……もう昼か。
第72話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はフィンの前世の一人飲みの夢でした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです!




