第64話 髭剃り、完成。
「いらっしゃいませ、フィン様」
「こんにちは」
「本日はどのようなご要件でしょうか?」
「柔軟樹脂を一袋と、刃鋼を一枚。あと、魔導回路描写ペンの一番細いペン先を五つ、お願いします」
「かしこまりました。お持ちいたしますので、そちらに掛けてお待ちください」
俺は近くのソファーに座った。
清涼と扇涼を置いてあるスペース、相変わらず人が多いな。
まだ予約販売が続いているのか?
もう落ち着いたと思ってたんだけど……。
まぁ、王侯貴族から順にって、アレク叔父さんが最初に言ってたし。
ふともう一箇所、人が集まっているところに目がいった。
あ。
艶髪と華髪。
あれは……お試し出来るように設置しているのか。
ということは、あの二つも予約を開始したのかな。
さすがアレク叔父さん。行動が早いというか。
「フィン様、お待たせいたしました」
「ありがとう」
支払いを済ませ、屋敷へ戻った。
さて、続きを再開するか。
刃鋼を小さくカットして、魔力を纏わせ、薄く加工していく。
……これでどうだろう。
……。
全然分厚いな。
最低でも、今の三分の一ほどの厚さに刃先をするべきだな。
薄く伸ばしていった刃鋼を、さらに細かくカットして、また魔力を纏わせ加工していく。
……よし、これくらいでいいだろう。
次は、刃先をより薄くし、鋭利になるように加工だな。
刃先にだけ魔力を纏わせ、より薄く、より鋭くしていく。
……ん?
研いでいくイメージで加工していたが、魔力を纏わせてないところとの段差が出来てしまった。
これだと、使用中に折れてしまいそうだな。
そうなると、刃先だけじゃなくて、全体に魔力を纏わせたまま加工した方が、刃先に向かって滑らかに鋭くできるか……。
最初から、そうすべきだったな……。
気を取り直して、今度は全体に魔力を纏わせて加工していく。
……よし。いい感じだ。
とは言え、切れ味を試したいな。
……腕の毛でいいか。
腕に対して、斜めに刃を持ち、ゆっくり滑らせていく。
……痛っ!
……。
……切れ味は大丈夫そうだ。
小さな切り傷ができた腕を押さえながら、同じように四枚の刃を作った。
次は、風属性と水属性を組み込んでいくか。
ヘッド部分に風属性を組み込み、魔力の流れを丁寧に調整していく。 次に、刃が肌に直接触れないように作った薄い保護板に、水属性を組み込んでいく。
属性同士が接触することもないから、この作業はいつもより楽に感じるな。
……よし。あとは起動と停止だな。
無属性を丁寧に組み込んで、調整しながら仕上げていく。
あ。
肝心のスイッチ部分を忘れてた……。
……とりあえず先に無属性の組み込みを終えよう。
魔力を流し、確認する。 よし。大丈夫そうだな。
スイッチ部分は持ち手同様、薄型鉄板でいいか。
小さくカットし、魔力を纏わせて、指で押しやすい形に形成した。
次に、スイッチ部分に無属性魔法を組み込んだ。
……持ち手部分につける方がいいよな?
そうなると、スイッチからヘッド部分へ魔力を送るための魔導回路も必要か。
持ち手部分に魔導回路を描きこんでいく。
まっすぐ描けばいいだけだから、すぐに終わった。
スイッチ部分を持ち手部分に取り付け、魔力の流れを確認する。
問題なさそうだな。
とりあえずヘッド部分を取り付けて、左右に振動するか、確認も必要だな。
小型の魔核をスイッチの上部にセットして、起動――
……。
……ヘッド部分は左右に振動した。
振動したが! 緩く揺れてるような……電池が切れかけてるみたいな……。
持ち手部分の魔導回路は描き直しだな。
魔導回路修正ペンで回路を修正し、今度は一段太いペン先に変えて描き直した。
……よし、今度はちゃんと振動してるな。
あとは、刃を取り付ければ……
……完成だ。
とりあえず……また腕の毛で試すか。
スイッチを押し、起動させる。
前世の髭剃りより、静かだな。
肌も傷つかない。
……試作にしては良いものが出来たんじゃないかな。
ん――……今この屋敷で髭が生えてるのは……料理長くらいか。
魔導時計を見る。
……この時間だと、ちょうど夕食を作ってるところだな。
そうなると……明日の朝、ウィルとガレスに試してもらう方がいいか。
第64話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、新たな魔導具として髭剃りを完成させる回でした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




