第57話 久しぶりの三人。
二人の荷物を使用人にまかせて、俺たちは応接室に向かった。
「そういえば、フィンの屋敷には一年ぶりくらいに来た気がする」
「私もそれくらいぶりだ」
「フィンが男だけで集まる会を主催するようなやつじゃないしな。まぁ、俺もだけど」
「そう考えると、私たちが卒業してから会うことがなかったのも頷ける話だね。仕事もそれぞれ違うし」
「だな」
お茶を飲みながらゆっくり話すのなんて、本当に久しぶりだ。
……いや、お茶を飲みながらゆっくりした事なんてあったか……?
「ところで、フィン。今日は何をして過ごすんだ?」
「……これを作ってみた」
俺はテーブルの上にリバーシを置いた。
「なんだこれ?」
「チェス……とは違うみたいだ。ゲームなのは分かるけど……」
「リバーシっていうゲームだよ。ルールは簡単だから、二人ともやってみる?」
「ほう」
「どうやって遊ぶんだ?」
「まず、この駒を盤の上に置くんだけど――」
俺は二人に簡単にルールを説明した。
「なるほど。つまり、相手の駒を挟めばいいんだな?」
「そう」
「よし、やってみようぜ!」
ウィルとガレスがリバーシを始めた。
「よし!とりあえずここだな!」
「……では、私はここに置こう」
「あ、ここも挟めるよ」
「あぶねぇ! 取り忘れるところだった」
二人とも初めてにしては、なかなか飲み込みが早い。
ガレスは勢い任せに置いているように見えて、意外と先のことも考えているらしい。
ウィルは逆に、毎回じっくり盤面を見てから置いている。
……二人とも真面目にやってるな。
俺はルールを知っているから、当分は勝負にならないだろうけど。
「……ここに置くと、こっちも取れるんじゃないか?」
「本当だ!」
「……」
思ったより二人とも真剣だな。
「……あ」
「どうした、フィン?」
「ガレス、そこに置くと――」
「え?」
「……いや、何でもない」
「なんだよ、気になるだろ!」
「片方に味方するのもどうかと思って」
「初めてなんだからそれくらい、いいだろ! あ……負けた」
「よし!」
「もう一回だ!」
相変わらず、ガレスは負けず嫌いだな。
「失礼いたします。 昼食の準備ができましたので、みなさま食堂へお越しください」
「今かよ!」
「仕方ないだろ。昼食なんだから」
「午後に続きな!」
俺たちは食堂へ移動した。
料理を運び終えた使用人たちは下がり、食堂には俺たち三人だけが残った。
「おぉ! これは何だ? 初めて見る料理だな」
「ブラックボアの冷しゃぶサラダだよ」
「冷しゃぶ? サラダということは、この肉は冷やしてあるのかい?」
「あぁ。暑い日にさっぱり食べられると思って、再現してもらったんだ」
「へぇ。美味そうだな!」
二人はさっそく一口食べた。
「……! 美味しい」
「本当だ! すげぇ美味い!」
「口に合ったようでなにより」
うん、美味い。
肉の臭みもなくて、食べやすいな。
ごまの風味もちゃんと出ている。
料理長が頑張ってくれたんだろう。
「この冷製ポタージュも美味しい」
「昔、ここで初めてポタージュを飲んでから、俺の好きなスープになったんだよなぁ。最初は、冷たいスープって聞いて戸惑ったけど」
「それ、私も覚えてるよ。二人して、恐る恐る飲んだよね。でも飲んでびっくり、美味しすぎたんだ」
「そうそう!おかわりまでしてさ」
……そんな事もあったような、なかったような?
「……フィンは覚えて無さそうだね」
「あぁ。 いつも飲んでるから、その時は印象に残ってないんだろうな」
なぜか、二人に呆れた顔をされた。
「そういえば……」
ガレスが何かを思い出したように口を開いた。
「昔もフィンの話には驚かされたよな」
「……何の話だ?」
「ほら、フィンが前世の話をした時だよ」
……あ。
「あれは……確か、十歳くらいだったよな」
「そうそう。フィンが突然、自分は前にも別の世界で生きていたとか言い出して」
「俺たちも最初は何を言ってるのか分からなかったな」
「なんで二人に前世の話をしたのか、もう覚えてないな……」
「フィンとガレスが言い合いになって、フィンが『俺は大人だ!』みたいな事を言い出したような……」
……前世の記憶はあっても、心が体に引っ張られるような感覚があって、どうしても子供っぽくなってしまっていた。
「……俺は子供相手に言い合いをしていたのか。 なんかごめんな、ガレス」
「それは謝ってるのか?」
三人とも笑った。
「そういえば、食後のデザートも用意してあるよ」
あらかじめ料理長に頼んでおいたアイスが運ばれてくる。
使用人が下がると、ウィルとガレスが興味深そうにそれを見つめた。
「これは……氷菓子かい? 珍しいね」
「氷菓子……? 初めて見たかも」
「冷たくて甘いものだよ」
「また前世の料理か?」
「まぁ、そんなところ」
二人はさっそく一口食べた。
「……!」
「これ、美味いな!」
「冷たくて甘い……暑い日に食べると最高だね」
……やっぱり、避暑にアイスは必要だな。
第57話を読んでいただき、ありがとうございます。
久しぶりに三人で過ごす時間でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




