第56話 避暑の準備。
「……はぁ。 まさかこんなに早く兄上の婚約が決まるとは思っていなかった。
一ヶ月後には、私の婚約者候補も決まると思うと……少し気が重いな」
「まぁ……お茶会には俺たちも参加するから!」
「どうせ二人は、食事目当てだろう? なるべく私の近くにいて欲しいのだが。一人で対応するのは難しい」
「……まぁ、近くにはいるよ。食事を楽しみながらな!」
……いや、俺は端の方の隅っこがいい。
できることなら、誰にも話しかけられることなく料理だけ食べて帰りたい。
「……俺は端の方で見守ることにするよ」
「……それでは私一人で対応するのと変わらないのだが。私の次は二人の番なのだから、むしろ積極的には参加すべきだと思うよ。素敵な令嬢から相手が決まっていくのだから」
「あぁ……俺はもっと自由でいたい」
「ガレスは次期伯爵なのだから、それこそ早めに婚約者を決めた方がいいんじゃないかい?」
……そうなると、お茶会の時は、二人から離れていた方が良さそうだな。
「フィンも魔導具師として成功しているのだから、令嬢達から声を掛けられると思うよ」
「……いや、だとしても俺は三男だし」
「フィンの場合、少し特殊だから婚約者選びは難航するんじゃないか?」
「……確かに。多少、父上の介入があるかもしれないね」
……え。
何で俺の婚約者選びに、わざわざ陛下が介入するんだ?
「……フィンは時々、抜けているよね」
「まさか自覚がないのか?」
「……え?」
「魔導具師として優秀なのはもちろんだけど、それ以上に、前世の記憶の事があるからだよ。それを利用しようと動く者が出てくることを懸念しているんだ」
「あぁ……それは大丈夫だと思う。俺は自分の快適な生活のために魔導具を作ってるだけだから」
「……余計に心配になってきた。フィンが変な女に引っ掛からないように、俺たちがしっかりしないと!」
「そうだね」
……この歳になって保護者が増えた。
その後もしばらく三人で話していたが、やがて夜会も終わりの時間が近づいてきた。
「じゃあ、次はフィンの屋敷で会おう」
「だな!」
「……あぁ。待ってるよ」
俺たちはそこで別れ、それぞれ家族のもとへ戻ることにした。
「フィン、ここにいたのね」
「母さん」
家族のところへ戻ると、みんな帰る準備をしているところだった。
「夜会は楽しめた?」
「まぁ、それなりに」
「それなり、ねぇ……」
母さんが少し呆れたように笑う。
「あ、避暑の期間にウィルフリード殿下とガレスが、うちに泊まりに来ることになった」
「まぁ、そうなの? ……私達はみんな避暑へ向かうけれど、フィン一人で大丈夫かしら?」
「大丈夫。あの二人の目的は料理だから」
「……フィン兄様、それは楽天的すぎよ」
……え?
「……そういうことなら、料理長には私からも伝えておくわね」
「うん、お願い」
「……本当に料理だけが目的ならいいのだけれど」
「二人とも学園を卒業してから忙しかったみたいで、ゆっくりしたいんだって」
……二人とも、何をそんなに心配しているんだ?
「そう……」
母さんとティアナが顔を見合わせる。
……なんだ?
「何か問題でもある?」
「いいえ。何もないわ」
……絶対に何かあるだろ。
「フィン、屋敷でお二人をもてなすのなら、しっかりやりなさい」
「分かってるよ」
ばぁちゃんまで……
「ほら、もう帰るわよ。馬車の準備もできているでしょうから」
「うん」
こうして俺たちは、王城を後にした。
それから数日、二人のためにリバーシやトランプを作ったり、前世で好きだった料理を料理長と再現したり……慌ただしくも充実した日々を送っていた。
そして――
「フィン様、お客様がお見えになりました」
「分かった。今行く」
玄関へ向かうと、そこにはガレスとウィルフリード殿下の姿があった。
「よう、フィン!今日から世話になるぞ!」
「数日ぶりだな、フィン。今日からしばらく世話になるよ」
「あぁ。二人とも、ゆっくりしていってくれ」
「それで、料理は?」
「……ガレス、まずそれか?」
「だって楽しみにしてたんだからな!」
「私も少し楽しみにしているよ」
「ウィルまで……」
……本当に、この二人は料理が目当てなんだな。
第56話を読んでいただき、ありがとうございます。
夜会を終えて、次回からは避暑編です。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




