第55話 昔のように。
ウィルフリード殿下とガレスが泊まるとなると、少しはおもてなしをするべきだよな……。
さて、どうしたものか。
「フィンの屋敷なら、静かに過ごせそうだ」
「あぁ。私も楽しみだ。避暑地は人が多いからな。それに、近くに貴族が泊まっていると分かれば、わざわざ挨拶に来てくれるから意外とゆっくりできないんだよ」
「あぁ……確かに。王家の方々が近くに避暑にいらしていると分かれば、挨拶に赴くな」
……なるほど。
避暑と言いながら、ゆっくり出来ない可能性もあるのか。
あまり気にしたことがなかったけど、確かに挨拶に行ったこともあったな。
そう考えると、他の貴族も同じように挨拶に行っていただろうし、避暑地に行ったところで案外ゆっくりする暇もないのかもしれない。
「それに、フィンが作業部屋にこもっていても気を遣わなくていいのが助かる」
「……二人とも、本当にそれでいいのか?」
「何がだ?」
「せっかく避暑に来るのに、俺が作業してる間は二人で過ごすんだろ?」
「それがいいんじゃないか」
「そうそう。俺たちは俺たちで好きに過ごすから、フィンも好きにすればいい」
……二人は本当に気楽だな。
でも、泊まりに来てもらう以上、何もしないというのもな……。
料理はどうするか。 王城ほど豪華なものを用意する必要はないだろうが、せっかくなら普段とは違うものを出すのもいい。
あ。
アイスはいつでも食べられるようにしておくのが良さそうだな。
一応、避暑に来るんだから、涼しく快適に過ごせるように整えておくのが第一か。
清涼機は各部屋に用意してあるからいいとして……他にも何か――
「フィン、何か考えてるのか?」
「あぁ……二人が来るなら何を用意しようかと思って」
「そこまで気を遣わなくてもいいぞ?」
「そうだな。俺たちはフィンの屋敷に泊まれるだけで十分だ」
「……そう言われてもな」
せっかく来てもらうんだから、少しくらい楽しんでもらいたい。
……これ多分、前世のクセだな。
「……あ。 では、私は前世でフィンが好きだった物を食べてみたい」
ウィルフリード殿下が、周囲には聞こえないよう声を落とした。
「それいいな! 俺も興味がある!」
ガレスも声を潜める。
「……分かった。ちゃんと再現できるかは分からないけど、料理長と相談してみる」
「よし!楽しみが増えたぞ!」
「フィンの屋敷に行く目的なんて、昔から食事だと言っても過言ではないからね」
「……二人は昔からそんなこと考えてたのか」
「当然だろ?」
「美味いものは大事だからな」
……。
ある意味、二人が心配になるな。
「と言うか、ずっと気になっていたんだが、なんでフィンはウィルに硬い話し方をしてるんだ?」
「そうなんだよ! 学園時代はもう少しフランクだったのに、手紙の返事が硬くて硬くて……」
「いや、もう大人だから。臣下として線引きをだな――」
「その前に、俺らは友達だろ。公式の場では改めるけど、今は友人として接する方がいいと思うぞ」
「……ガレスがフランク過ぎるだけだ。俺が普通の対応なの」
「まぁ、フィンの言うことも分かるが……私としては、数少ない友人だから少し寂しくもあるんだよ。だからせめて、避暑でフィンの屋敷にいる間は、昔みたいに話してくれることを期待するよ」
「……そこまで言うなら、避暑の間くらいは昔みたいにするよ」
「よし!」
……ガレスはともかく、ウィルまでこんなに嬉しそうにするとは思わなかった。
「やあ、三人とも。楽しんでいるかい?」
王太子殿下が、こちらへ歩いてきた。
「はい。楽しませていただいております」
ウィルフリード殿下が答えた。
「そうか。それならよかった」
「兄上、どうかしたのですか?」
「少し休憩していただけだよ。それにしても、相変わらず三人は仲がいいね」
「そうですね。今年の避暑は、フィンの屋敷へ行こうと話していたところでして」
「ローゼン家の料理は美味しいからね……また私も食べたいものだな」
そういえばローデリック殿下も、昔からうちで食べてたな。料理目的だったのか?
……あ。
「ローデリック殿下。この度はご婚約おめでとうございます」
「この度は、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう、二人とも。婚約式も予定しているから、その時はぜひ参加してくれ」
「はい。もちろん参加させていただきます」
「楽しみにしています!」
軽く会話をした後、ローデリック殿下は他の方たちの輪へ向かった。
……今日は色々と話が決まったな。
お茶会に、避暑に、婚約式。
……まぁ、なるようになるか。
第55話を読んでいただき、ありがとうございます。
フィン、ウィル、ガレスの三人が少し昔のように話す回でした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




