第53話 ダンスの合間に。
「フィン」
王城の食事を楽しんでいると、声をかけられた。
「……アレク叔父さんか」
「兄上が探していたよ。ティアナのエスコートをサボって食事とは……」
「……ティアナがもういいと言ったんだ」
「それを真に受けるから兄上に怒られるんだろう」
「……母さんにも怒られた」
「だろうね。デビュタント前なんだから、今夜は踊れる相手も限られているだろう。フィンも一曲くらい踊ってあげなさい。私も兄上の後にティアナと踊る予定だから」
「うん。アレク叔父さんが踊り終わる頃には、食べ終わるようにするよ」
「……そうか。まぁ、食事を楽しんでもらうのも主催者側にとっては嬉しいことだからね」
この世界で良かったことの一つが、食事が結構美味しいことだ。
前世で異世界系の小説を読んだことがあるが、こういう世界では料理が不味いという話も多かった。
前世の記憶を思い出してから、そういえばこの世界の食事はどうなんだろうと思ったこともある。
だけど、それまで食べてきた料理を思い返してみても、特に不満はなかった。
むしろ、結構美味しい。
どうやら、俺のように前世の記憶を持つ人が、料理の知識を伝えたこともあったらしい。
そのおかげなのか、日本食に使われる調味料に似たものも結構ある。
……本当にありがたい!
「おぉ! 美味しいな。フィン、この肉食べたかい?とても柔らかいよ」
「……だよね。なんの肉だろう?」
そう言いながら、もう一口切り分ける。
……やっぱり美味しい。
「ホワイトブルだと思うよ」
「……さすが王城」
……高級なローストビーフか。
出来るだけ食べておこう。
「……そろそろ兄上が踊り終わりそうだな。私はもう行くよ。フィン、ちゃんとティアナを誘って踊るように」
「分かってる」
父さんと交代して、アレク叔父さんがティアナと踊る姿を眺めながら、俺は料理を食べ終えた。
……そろそろ俺の番か。
踊り終えたティアナに近づき、手を差し出した。
「……続けて踊ったから少し休憩したいのだけれど」
「……そうか」
俺はティアナを休憩スペースにエスコートし、飲み物を取って、ティアナに渡した。
「まだエミール兄様とお父様、それにアレク叔父様としか踊っていないのに、こんなに疲れるとは思わなかったわ」
「初めての夜会で緊張してたんじゃないか?それで、いつもより力が入ってたんだろう」
「そうね。……デビュタントまでには慣れないといけないわね」
「まぁ、ティアナなら大丈夫だろう。俺でもどうにかなってるんだから」
「……フィン兄様では参考にならないのだけど」
……いつも通りのティアナだ。これなら、本当に大丈夫だろう。
「二人ともここにいたのか」
「じぃちゃん」
「ティアナ、少し休んだなら私とも一曲どうだ?」
「もちろんです!フィン兄様と踊った後でもよろしいですか?」
「もちろんだ!」
「そろそろ次の曲に変わる頃だけど、ティアナ踊れそう?」
「えぇ。少し休んだからもう大丈夫よ」
「じゃあ、行こか」
差し出した手にティアナが手を添え、二人で踊りの輪へ向かった。
……久しぶりに踊るけど、身体に染み付いてるものだな。
まぁ、子供の頃から、ばぁちゃんの指導を受けていたし……。
「フィン兄様って意外とダンスは上手なのよね。とても踊りやすいわ」
……ダンスは?
「お父様とエミール兄様は背が高いから、フィン兄様くらいがちょうどいいわね」
「……俺も身長は高い方だけど」
一応、平均以上はあるはずだ。
「フィン兄様はこの後、誰か誘って踊るの?」
「いや。ティアナと踊れたし、もういいかなって」
「せっかくの夜会なのだから、誰か誘えばいいのに」
「もう十分だよ」
「……はぁ。そんなだから、彼女の一人もできないのよ」
曲が終わり、じぃちゃんがティアナを誘いに来た。
「ティアナ、私と踊ろうか」
「はい! じゃあフィン兄様、また後でね」
ティアナはそう言うと、じぃちゃんと一緒に行ってしまった。
……言いたいことだけ言って行ったな。
休憩スペースでお酒を飲んでいると、ダンスを終えたガレスがこちらへ戻ってきた。
「フィン、こんなところにいたのか」
「あぁ。休憩してた」
「俺も少し休むよ」
そう言うと、ガレスが隣に座った。
「ガレスも何か飲む?」
「あぁ……その前に何か食べようかな。おすすめはあるか?」
「この肉が美味しかったぞ」
俺が先ほど食べていたローストビーフを指差す。
「ホワイトブルらしい」
「へぇ。じゃあ俺もそれにするか」
ガレスが皿に取り分け、一口食べる。
「……おぉ、確かに美味いな」
「だよな。俺ももう少し食べるつもりだ」
「……お前、さっきからずっと食べてないか?」
「さっきティアナと踊ったし、王城の料理だからな」
「理由になってないぞ」
……でも、美味いものは美味い。
もう一枚、ローストビーフを皿に取った。
第53話を読んでいただき、ありがとうございます。
フィンとティアナのダンスの合間に、王城の料理もしっかり堪能したフィンでした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




