第52話 王子と幼なじみ。
ウィルフリード殿下が周囲にいた貴族子息たちに声をかけると、あっという間に人が集まってきた。
……俺まで一緒に来る必要、あったのだろうか。
「フィンじゃないか。久しぶりだな」
「……あぁ、久しぶり」
学園では毎日のように顔を合わせていたが、こうして夜会で会うのは、なんだか少し変な感じがするな。
「夜会で見かけなかったが、王家主催以外は出席しなかったのか?」
「あぁ。なんだかんだ忙しくて……」
「……フィン。俺に嘘は通じないぞ」
じっとこちらを見る友人。
「どうせ、大勢が集まるところに行きたくないとか、魔導具作りが楽しくて作業部屋から出たくなかったとか、そんなところだろう?」
「……」
……なんで分かるんだ。
「そりゃあな、昔から変わってないからだ」
「聞いてくれ、ガレス! フィンは私が手紙を送らなければ、王家主催の夜会へも出席する気はなかったはずだ」
「想像がつき過ぎる……。フィン、幼なじみだからってウィルに甘えすぎだぞ」
「……元々、王家主催の夜会には出席する予定だった」
……母さんやティアナに言われたし。
「イレーネ様やティアナ嬢に言われたからだろ」
なぜ分かった?!
「フィンは昔から顔に出やすいよな」
ガレスにまで表情を読まれていたとは……不覚だ。
「ガレスは他の夜会に出席していたのか?私は見かけなかったが」
「あぁ。何度か出席していた。ウィルとは参加した夜会が違ったみたいだな」
「そうだったか。しかし、ガレスと会うのも久しぶりだな。最近は忙しかったのか?」
「いや……父が早く当主を交代して、領地でゆっくり母と過ごしたいらしくてな。学園を卒業してから、領地経営を俺に叩き込もうとしていて……」
「あぁ……レイグレン伯爵は夫人をとても愛していると有名だったな」
「まぁな。母と二人で領地をのんびり回りたいんだとさ」
「それで息子に仕事を押しつけるのか……」
……ウィルとガレスが、父親の話で盛り上がっている。
俺には関係のない話だが、貴族家の当主になるというのも大変そうだ。
「フィン、お前はどうなんだ?」
「……え?」
「聞いていなかったのか?」
「いつものことだな」
「フィンは当主になることもないし、好きなことをしていればいいって話だ。私は兄上の補佐ができるように公務に励んでいるが、たまにフィンが羨ましくなるよ」
「王太子殿下の補佐となると重大な責務だもんなぁ。伯爵家の当主でさえ、重荷なのに」
「俺は魔導具作りで手一杯だな」
いつの間にか、周囲の貴族子息たちは少し離れていた。
……俺たち三人の会話に割って入るのは、さすがに遠慮しているらしい。
「あ、フィン!清涼機 《ブリーズ》を作ってくれて助かってるぞ!今、父上に領地経営を叩き込まれてるところだからな。蒸し暑い中じゃ、やってられなかった」
「分かる。私も執務室が快適になったおかげで、仕事の効率が上がったんだ」
……仕事をするために清涼機を作ったわけじゃないんだが、それは黙っておこう。
それより、腹が減った。
「そろそろダンスを踊った方がいいんじゃないか?」
遠巻きで様子を伺っている令嬢たちが、ソワソワしている。
「……そうだな。ガレスとフィンも、一緒に令嬢を誘いに行こう」
「俺は、何か食べてからにします。殿下とガレス、先に行ってて」
「それ、踊らないやつだろ」
「……そんなことはない」
「いや、絶対踊らないやつだ」
「……ティアナと踊る予定だったんだよ。でも今はエミール兄さんが付いてるから、その後に踊ろうと思って……」
「……はぁ。ガレス、私たちは先に行こう」
「だな」
俺は二人を見送り、食事が置いてあるスペースに移動した。
……やっとダイエットが終わったんだ。
せっかくなら王城の料理を食べて帰りたいからな。
……美味しい。
さすが王城の料理だ。
いい肉を使っているのだろう。すごく柔らかくてジューシーだ。
……こういう料理を食べられるなら、夜会も悪くないな。
「フィン様」
「.....え?」
声をかけられて顔を上げる。
そこには、エルーシア殿下が立っていた。
「お食事中にごめんなさい」
「いえ……」
……王女殿下が、なぜ俺のところに?
エスコートの者は……いない。
「ティアナ様から、新しい魔導具を作られたと聞きました」
「はい」
どれの事だろう?
「ティアナ様だけではなく、セレスティア様やアリシア様も、艶やかで華やかな髪になられていて、とても興味を持ちましたの」
……あぁ。
「艶髪と華髪ですね。お二人には試作品を使っていただき、使い心地や仕上がりについて意見をいただいたのです」
「そうだったのですね」
「販売開始前に王家へ献上予定ですので、エルーシア様もぜひ試してみてください」
「まぁ!楽しみだわ! 扇涼もとても気に入っていて、いつも持ち歩いていますの」
「そうでしたか」
「ドレスに合わせて、いくつか注文もさせていただきました」
……気に入ってもらえているなら、作った甲斐があったな。
「次はどんな魔導具を作られるのですか?」
「そうですね……まだ決めてはいませんが、いくつか構想はあります」
「そうなのですね!フィン様の魔導具は素敵なものばかりなので、楽しみです」
「……ありがとうございます」
「それでは、私はそろそろ失礼いたしますね。お話しできて嬉しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました」
エルーシア殿下は微笑むと、令嬢たちの輪へ戻っていった。
……そこまで期待されると、少し困るな。
まぁでも、次に何を作るか考えるのは楽しい。
さて、もう少し料理を食べよう。
第52話を読んでくださって、ありがとうございます。
王子と幼なじみ、そして王女様との一幕でした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




