第45話 夏の鍋。
あれから数日。
屋敷にも大型の清涼機を数台設置し、部屋や廊下、使用人たちが過ごす場所も快適になった。
そして、社交シーズンも始まった。
とはいえ、俺が参加するのは王家主催の夜会くらいだ。
それ以外は、いつも通り魔導具を作って過ごしていた。
……。
「……暇だな」
魔導具作りも一段落している。 暑い中、わざわざ街へ出る気にもならない。
かといって、部屋でずっと過ごすのも飽きてきた。
「何か、家でできること……」
そんな事を考えながらぼぉーっとしていた。
「……あ」
大型の清涼機が効いているおかげで、食堂は外の暑さが嘘みたいに涼しい。
「……そうだ」
冬に食べることの多い鍋も、これだけ涼しければ問題ないんじゃないか?
それに、今日はじぃちゃんとばぁちゃん、父さんと母さんは、それぞれ夜会に出席だ。
だから夕食はティアナと俺だけ。
簡単だし、野菜もたくさん食べられる。ダイエットにも、ちょうどいい。
コンコン――
「ティアナ」
「なに?」
「今日の夕食、鍋にしない?」
「……今、夏よ?」
「でも、食堂も涼しいだろ」
「……まぁ、そうね」
ティアナは少し考えてから、楽しそうに笑った。
「じゃあ、鍋にしましょう」
夕食のメニューを鍋にすることを料理長に伝えるため、俺は食堂へ向かった。
「鍋、でございますか?」
「うん。清涼機で涼しいから、鍋なんてどうかなって思って。それに俺、夜会に着ていく礼服がちょっとキツくて……。だから、鶏肉と野菜をたっぷり使った鍋がちょうどいいと思ったんだ」
「なるほど。では……本日の夕食は鶏鍋にいたしますね。
ちょうど、ロックバードの肉が入ったところですので、鍋にもぴったりかと」
「おぉ!ロックバードか。なら、鍋はシンプルな味付けで」
鶏肉より少し高価なロックバードは、旨味がしっかり出る。
シンプルな味付けでも、十分に美味い。
「かしこまりました」
夕食までは、のんびり本でも読んで過ごそうかな。
……。
本棚から一冊の本を取り出し、ページをめくる。
……この世界には、俺のように前世の記憶を持って生まれてくる者が、稀にいるらしい。
この国でも、これまでに五人いたと聞いている。
俺が前世の記憶を思い出した時には、五人目が亡くなった後だった。
今、手にしているのも、その五人のうちの一人が残した本だ。
同じ時代に一人しか現れないのか分からないが、今のところ同じ境遇の人に会ったことはない。
みんな何かしら功績を遺したみたいだが、俺は――……
コンコン――
「フィン様。夕食のお時間です」
「……もうそんな時間か。今行く」
本を閉じて、食堂へ向かった。
「おぉ……冬ぶりの鍋だ。……でも、これならもう少し清涼機の設定温度を下げてもいいな」
……いや、一番涼しい設定でいいか。
少し待っているとティアナが食堂へ入ってきた。
「……寒っ!
だれ?食堂の清涼機をこんな寒く設定したのは!」
「え、俺だけど」
確かに少し肌寒いが……
「鍋を食べるんだから、これくらいでいいだろ」
「よくないわよ!」
……ティアナに設定温度を上げられた。
「う〜ん!美味しい! ……もしかして、この鶏肉……」
「ちょうどロックバードの肉が入ったそうだ」
「……やっぱり。
鍋にロックバードのお肉は……ちょっと贅沢ね」
「……まぁ、野菜たっぷりだし。
それに俺、夜会までに少し痩せないといけないんだよ」
「それとロックバード、関係ないじゃない。……美味しいからいいけれど」
味付けは塩と出汁だけのシンプルなものだ。
ロックバードの旨味がしっかり出ていて、野菜の甘みも感じられる。
これで十分美味い。
「あ、フィン兄様に相談というか……艶髪のことなんだけれど」
「ん?艶髪に不具合か?」
「いいえ。とっても気に入ってるわ。今日も使ったもの。
艶髪を使って、私のウェーブした髪を整えてから、侍女が綺麗に仕上げてくれるのだけど、少し大変そうなのよね」
「あぁ……」
前世でも、ヘアアイロンで巻いたり、ウェーブを作ったりしている女性は多かった気がする。
「だから、巻き髪用があればいいなと思ったの」
そういえば、カールアイロンも作ろうかと一瞬考えていたな。
忘れてた。
ティアナは元々、ゆるいウェーブ髪だから、それを活かすにはカールアイロンの方が確かに良さそうだな。
「艶髪の応用でいけそうだし、試しに作ってみるよ」
「本当?!ありがとう、フィン兄様!」
第45話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はのんびり日常回でした。
次回も楽しんでもらえると嬉しいです。




