第37話 家族の分。
「話を聞いていたら、私も扇涼が欲しくなってきたな」
「ならば、先ほどフィンが作った物をブルーノにあげるのはどうだ?」
「うん。じぃちゃんがそれでいいなら。はい、父さん」
俺はさっき作った扇涼を父さんに渡した。
「……おぉ! これはいいな。
騎士団にいる時は清涼機 《ブリーズ》があるから、扇涼は必要ないと思っていたが......」
父さんは扇涼 《ヴェント》を扇ぎながら、感心したように続ける。
「馬車での移動を考えると、これがあるだけで快適さは全く違うだろうな」
「……そうなると、持っていないのはエミール兄さんだけになるけど、作った方がいいのかな?」
「そうだな。エミールの分もあった方がいいだろう」
「だよね。……夕食まで時間あるから、エミール兄さんの分も今から作ろうかな。
とりあえず、エミール兄さんに聞いてくるよ」
そう言って俺は、兄さんの部屋へ向かった。
コンコン――
「エミール兄さん。俺だけど、ちょっといい?」
「フィンか?入れ」
扉を開けて入ると、兄さんは本を読んでいた。
「どうかしたか?」
「さっき、扇涼を作り終えて、父さんが欲しいって言ったからあげたんだけど、エミール兄さんの分も作ろうかと思って」
「あぁ、あの扇子型の魔導具か。騎士として動くことが多いから、扇子は持ち歩けないんだ」
「父さんは馬車の移動で使うのにちょうどいいって言ってたよ?」
「馬車か……確かに、暑いな」
「まぁ、みんな持ってるし、せっかくだし作るよ。
だから、扇涼にしてもいい扇子貸してくれないかなって思って取りに来た」
「作るのは決定事項なのだな」
エミール兄さんに苦笑いされた。
「エミール兄さんが使ってくれれば、男性にも人気が出て売れると思うんだよね。アレク叔父さんが喜びそう」
「それは……想像できるな」
エミール兄さんはそう言うと、紺色の扇子を渡してくれた。
それを受け取ると、俺はすぐに作業部屋へ向かった。
……扇涼を作るの、何本目だろう。 家族分はこれで最後だから、当分作ることはないかな……いや、じぃちゃんの量産に付き合わされるんだった……。
やっぱり女性物の扇子より、男性物の方が骨組みも少し大きくて、魔導回路の描き込みや魔法陣の組み込みがしやすいな。
それに、流行りなのかは分からないけど、女性物の扇子はレースや透け感のある扇面だったから、取り扱いにも気を遣ったし。
「……これなら、少し早く完成しそうだ」
つまみ部分を取り付け、魔核を設置する。
魔導回路と魔法陣を確認しながら、細かな調整を進めていった。
……よし。あとは試すだけだ。
扇子を開き、起動を確認する。
紺色の扇子から、涼しい風が流れ出した。
風量調整も問題なし。
……うん。
扇涼は問題ない。
完成した。
が……
作業部屋が、また元通りになってしまった……。
せっかく片付けたのに。
まぁ、今回は清涼機と扇涼を作っていると知っているから、多分ばぁちゃんは突撃してこないだろう。
……いや。ちょっとだけ片付けておこう。
そう思って片付け始めたところで――
コンコン――
「フィン。ちょっといいかしら?」
……え?
「ばぁちゃん、どうしたの?」
「もうエミールの分は作り終わったのかしら?」
「うん。ちょうど終わって、今片付けてるところ」
「まぁ、そうなの?
これから社交シーズンでしょう? 扇涼を持っていれば、きっと興味を持つ方もいるでしょうから。フィンがどんな想いで作っているのか、少し見ておきたかったのよ」
「どんな想い……?
扇涼に関しては、移動中も快適に過ごせないかなって思っただけだよ。清涼機を応用して作ったんだ。
最初は清涼機を持ち運べないかとも考えたんだけど……正直、面倒でしょう?
だから、普段から使っている扇子を魔導具にするのはどうかなと思って、作ってみたんだ。小型の魔核を付けたけど、重さもほとんど変わらないから、持ち運ぶにはちょうどいいと思って」
「……フィンらしい発想ね」
……怒られるのかと思った。
危なかった。片付け始めておいて正解だったな。
「もうすぐ夕食だから、早く片付けて食堂に来なさいね」
「……分かった」
第37話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は家族に広がる扇涼 《ヴェント》のお話でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




