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第32話 来訪に向けて。

挿絵(By みてみん)



リリエン商会から急いで帰ってきて、すぐに作業部屋の掃除に取り掛かった。


というのも、俺は昔から作業部屋にこもりがちだった。

そのため、ばぁちゃんは俺を外に連れ出そうと、ちょくちょく作業部屋へ突撃してきていた。

今はじぃちゃんと領地で暮らしているが、当主交代するまでは、この屋敷で二人とも暮らしていたんだ。


……俺が成人したからといって、作業部屋に突撃しなくなるとは思えないし。

なら、先手を打って、掃除すればいいだけだ。


このあと扇涼ヴェントを作るから、それに必要な魔導具と、材料だけ作業机に残して、他は片付けよう。



仕様書は用途ごとに分けて書類棚へ。

素材は収納ケースごとに整理し、今日使わない魔導具は棚へ戻す。


軽く掃除を済ませ、作業机の上には扇涼ヴェントの制作に必要な物だけを残した。


――よし。

扇涼ヴェントを作った後に、仕上げの掃除をすれば完璧だ。



さて、扇涼ヴェントを作るか。


作業机に残した材料と魔導具を確認する。

もう何度も作っている扇涼ヴェントだ。 今さら手順を間違えることもない。

まずは魔導具回路を丁寧に描いていく。

その後、魔法陣の調整を行い、魔核を組み込み、動作確認を済ませる。


しばらくして、三本の扇涼ヴェントが完成した。



とりあえず、最後に片付けておこう。



作業部屋を片付けていると――


コンコン――


「フィン様。昼食のお時間です」


「分かった。今行く」


……途中だが、仕方ない。

残りは食後に片付けよう。



食後へ向かうと、母さんもちょうど来たところだった。



席に着いて、食事が運ばれてきた。

今日のメニューは、ざるうどんと天ぷらだ。


「母さんがリクエストしたの?」


「えぇ。清涼機ブリーズで涼しく過ごせているとはいえ、さっぱりした物が食べたかったの。それに、貴方は一応、病み上がりでしょう?食べやすいと思って」


「ありがとう。作業部屋の掃除をしてたから、ちょうど暑かったんだ」


ちなみにざるうどんと、天ぷらを料理長に教えたのも俺だ。


「掃除?まだしていなかったの?お義母様が来られるの、明日よ?」


「明日来るって聞いたの、さっきアレク叔父さんのところへ行った時なんだよ……」


「あら?明日だと伝えてなかったかしら……」


「多分。それか、体調を崩して寝込んでたから、日付の感覚がずれてたのかも」


母さんは苦笑しながら、小さく息をついた。


「まぁ、お義母様が来られる前に、体調が戻ってよかったわ」


確かに。体調が悪いままだったら、作業部屋の掃除なんて出来なかっただろうし。


そんなことを話しながら食事を終え、作業部屋へ戻った。



作業部屋へ戻ってからは、掃除の続きだ。


基本的な掃除はメイドがしてくれているが、作業部屋だけは別だ。 魔導具の試作品や素材が置いてあるため、下手に触られると困るものも多い。 だから、この部屋だけは自分で管理している。


そうなると、やっぱり掃除機が欲しい……。


クリーン魔法は存在する。 しかし、掃除程度に魔力を使うのはもったいないという考えが、この世界では一般的だ。

実際、クリーン魔法は万能ではない。 綺麗にできる範囲も、汚れを落とせる確率も、使用する魔力量によって変化する。

そんな不安定な魔法を、わざわざ日常の掃除に使うのは非効率だ。 それが、この世界での一般的な認識だった。


……いつか作ろうかな。

あ、ロボット掃除機もいいなぁーー……



そんなことを考えながら掃除をしていると、いつの間にか作業部屋の片付けは終わっていた。


今日やるべきことは終わった。


あとは部屋でのんびり過ごし、気付けば夕食の時間になっていた。



コンコン――


「フィン様。夕食のお時間です」


「うん。今行く」


食堂に着くと、久しぶりにみんなが勢揃いしていた。


「エミール兄さんと、フィリップ兄さんも帰って来てたんだ」


「あぁ。明日、お祖父様とお祖母様がいらっしゃるからな」


「一応休みを取ったんだよ」


「じぃちゃんはリリエン商会に寄るなら、そのままリリエン伯爵家に泊まるのかと思ってた」


父さんが口を開いた。


「父上は商会に寄ってから、こちらへ来られる予定だよ」


それなら、外出する手間が省ける。


「そうなんだ。勘違いしてた」


なら、屋敷にいる間は、わざわざリリエン商会まで行かなくても、こっちでじぃちゃんと話せるな。


仕様書は書き直さなくても、じぃちゃんなら俺の汚い字でも読めるだろう。

……というか、販売用に清書した仕様書を見せる必要もないか。 じいちゃんなら、制作中に書いた殴り書きでも読めるだろう。



「あ、じぃちゃんの分の扇涼ヴェントは、作らなくていいよね。欲しかったら自分で作るだろうし」


父さんが苦笑いした。


「まぁ、フィンに作ってもらったら嬉しいとは思うが。一緒に作るのがいいんじゃないか?」


「……まぁ、明日聞いてみるか」



第32話を読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、祖父母を迎える準備のお話でした。

次回も楽しんでいただけると嬉しいです。

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