第31話 三本の扇子。
冷凍庫が完成した安心感もあったのか、一日ゆっくり休んだだけで、翌日には体調も回復していた。
今度から、冷たい物に関わる魔導具を作る時は、清涼機の設定を弱めてから作業しよう。
コンコン――
「フィン様。おはようございます。お加減はいかがでしょうか」
「おはよう。もう大丈夫だ。今日は食堂で食べるよ」
「それは良かったです。では、参りましょうか」
食堂へ向かうと、ほどなくして父さんと母さん、ティアナがやって来た。
「フィン。もう体調はよくなったのか?」
「うん。一日寝てたら治った」
「やはり、もう少し運動をすべきだと思うぞ。作業部屋にこもっているから、風邪を引きやすくなるんだ」
「……否定はできない」
「いつも体調管理はしっかりしなさいと、あれほど言っていたのに。一日で治る風邪で良かったけれど……」
「フィン兄様は昔から、自分のことになると無頓着よね」
「……そうか?」
「無自覚なところが、すでに無頓着よ」
そんなことないと思うけど。
清涼機や扇涼を自分で作るくらい、自分が快適に過ごせるものを作ろうとしているし……
……?
もしかして、こういうところが無自覚って言われているのか……?
……なるほど。
「あ、そう言えば、氷菓子食べてくれた?」
「おぉ!昨日の朝食で食べたぞ。とても美味しかった」
「私も、すごく気に入ったわ。毎日でも食べたい!」
「えぇ。本当に美味しかったわ。この時期のお茶会で出したら、喜ばれると思うのよね」
「俺もそれを考えてたんだ。ばぁちゃんが来るなら、叔母さん達も会いに来るだろうし。その時に母さんがお茶会を開くなら、氷菓子を出せばいいんじゃないかって」
「そうね。お義母様と義妹たちに、お出ししたいわ」
「凍らせる魔導具は、料理長に預けてあるから、お茶会の前日くらいに言っておけば、氷菓子が出来るよ」
母さんに向けて話したつもりだったが、隣にいたティアナが先に反応した。
「そうなの?それなら、毎食出して欲しいわ!」
「毎食食べたら太るぞ?」
「……フィン兄様。そんなだから、彼女の一人もできないのよ!」
「……」
.....なぜ今、彼女の話になるんだ?
「そんなことより、ばぁちゃんと叔母さんたちに扇涼を作ろうかと思ってるんだけど、もう持ってたりするのかな?」
「叔母様たちは持ってるかも。学園に従姉妹たちが通ってるから、情報は入ってると思うし」
「お義母様は、領地からいらっしゃるから、まだ持ってないんじゃないかしら」
「フィンが自ら作ってくれたとなると、母上は喜ばれると思うぞ」
「そっか。まぁ、せっかくだし、三人に贈ろうかな」
……作るのはいいけど、肝心なことを忘れていた。
「本体の扇子どうしよう」
「アレク叔父様が言っていたけど、小物職人と提携して、扇子の制作も始めているらしいわよ」
「それなら、リリエン商会に買いにいくのが一番いいか」
冷凍庫の仕様書も、アレク叔父さんに見てもらう予定だったし。
それにしても最近は、リリエン商会に行く頻度が高すぎるな。
そんな話をしながら朝食を終えると、仕様書を手に取り、朝のうちにリリエン商会へ向かった。
「いらっしゃい。フィン。今日は随分と早いんだね」
「うん。これ、新作魔導具の仕様書。売るかは微妙なんだけど、一応アレク叔父さんに見てもらおうと思って」
「……なるほど。冷蔵庫の仕組みを応用するのか。凍らせる魔導具……何を凍らせるんだい?」
「氷菓子。試しに作ってみたら、美味しくできた」
「氷菓子……?」
アレク叔父さんは一瞬考えるようにしてから、仕様書へ視線を落とした。
「……なるほど。つまり、食べ物を凍らせるための魔導具か」
「それより、扇子を見たいんだけど」
「……え? 扇涼なら、まだ予約受付をしている所だから、店頭には並べていないよ」
「そうじゃなくて、扇子本体。ティアナから聞いたんだけど、職人と提携して、扇子の取り扱いも始めたんでしょう?」
「あぁ。扇子ならこっちだ」
一番目立つ所に、五十本近くの扇子が並べられていた。
「また扇涼を作るのかい?」
「うん。ばぁちゃんがもうすぐ来るから、贈ろうと思って。叔母さんたちも来るだろうから、その二人にも」
「フィンが作ってくれるなら、母上も姉上たちも喜ぶだろうね」
「どんな扇子がいいか、一緒に選んでほしいんだよね……俺、こういう贈り物の選び方は苦手みたいだから」
「そんなことないと思うけど……。そうだなぁ……母上には、この落ち着いた深紅の扇子はどうだろう。繊細な細工が施されていて、上品な一品だよ。濃い緑色のドレスを着られることが多いから、深紅の色味がアクセントカラーにもなると思う」
「確かに。ばぁちゃんのドレスに似合いそう」
「姉上たちは、エメラルドグリーンと、レモンイエロー辺りがいいんじゃないかな。二人とも爽やかな色味の小物を使うことが多いよ」
「爽やかな色味だけど、上品さもあって、叔母さんたちに似合いそう。
――よし。この三本にする」
アレク叔父さんが店員に声をかけ、購入手続きを進めてくれた。
「それにしても、ぎりぎりに作り始めるんだね」
「……え?」
「母上が王都に来るのは、明日だろう?父上も一緒で、リリエン商会にも寄るみたいだけど」
「……明日?」
「ん?知らなかったのかい?」
「二、三日後だと思ってた……。急いで帰らないと!じゃあ、また来るね」
お会計を済ませ、すぐに屋敷へ戻った。
明日、ばあちゃんが来るなら、あの散らかった作業部屋を見せるわけにはいかない……。
早く作業部屋を片付けないと!
第31話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はフィンが家族への贈り物を選ぶ回でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




