第30話 懐かしい味。
……なんだか、体がだるい。
まさか、風邪か……?
心当たりがあり過ぎる。
清涼機 《ブリーズ》の効いた作業部屋で、冷凍庫の調整中に漏れ出した冷気を浴びながら、作業を続けていた......。
それに、凍った箱を抱えて庭まで運ぼうとしたし。
それで体調を崩さない方がおかしいか。
……でも、良かった。 冷凍庫が完成した後で。
もし中途半端なまま体調を崩していたら、魔導具のことで頭がいっぱいになって、ろくに眠ることもできなかっただろう。
……今日は一日ベッドの上だな。
コンコン――
「フィン様。朝食のお時間です」
「……」
「フィン様?失礼します」
扉が開き、ノアが部屋に入ってきた。
「顔色がお悪いですね……。体調が優れないのですか?」
「うん。ちょっと体がだるい……。朝食は部屋で取るから、軽く食べられる物持ってきて。……あ、料理長に氷菓子も出してって伝えて」
風邪を引いた時、前世ではアイスを食べてたんだよなぁ……。
まさか異世界で、自分で作ることになるとは思わなかったけど。
「かしこまりました」
しばらくすると、ノアが軽食と、アイスを持って戻ってきた。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
「では、何かありましたらお呼びください。失礼いたします」
……良かった。ちゃんとアイス出来たんだ。
溶ける前に、先に食べよう。
一口食べる。
……冷たい。
そして、甘い。
完全にアイスだ。
だるい体に、甘さが染み渡っていく感じがする……。
……あっという間に、食べてしまった。
もう一個くらい、食べられそうだな。
とりあえず軽食を食べてから、余裕があればまたアイスを……いや、一人一つ分くらいしか作ってないんだった……。
また料理長に、追加でお願いしておこう。
そんなことを考えていたら、軽食も全て食べ終わった。
だるくても食欲があるのは良いことだな。
とりあえず、もう少し寝ようかな……。
そう思った時、急に眠気が強くなった。
意識が沈んでいく……
――
「また熱が上がって来たわね。何か食べられそう?」
「……アイス」
「はい。どうぞ」
……美味しい。
風邪を引いた時だけ、いつもより少し高いアイスを買ってもらえた。
冷たくて、甘くて。
それだけで、少しだけ元気になった気がした。
「明日も熱が下がらなかったら、病院へ行こうね」
「……注射嫌い」
「それじゃあ、早く風邪を治さないとね」
「……うん」
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「お兄ちゃんはお熱があるから、――ちゃんは隣のお部屋で遊ぼうね」
「――ちゃん、元気になったら、お兄ちゃんとあそぼうね」
「うん! げんきになったらあそぶ!」
「お兄ちゃん、寝てる間に汗かいたね。お水飲める?」
「......うん」
お母さんがコップを口元まで運んでくれる。
「無理しないで、今日はちゃんと休むのよ」
「....分かってる」
「本当かな?」
そう言って笑うお母さんの声が、優しかった。
その後も、お母さんは何度も様子を見に来てくれた。
汗を拭いてくれて、水を飲ませてくれて。
眠っている間も、近くに誰かがいる気配がした。
――
そこで、目が覚めた。
「……懐かしい夢だったな」
前世で食べたアイス。
あのクオリティは再現できなかったな。
まあ、材料も違うし仕方ないか。
それでも、久しぶりに食べたアイスは美味しかった。
コンコン――
「フィン様。お加減はいかがでしょうか。昼食のお時間ですが、召し上がれそうですか?」
「……うん。また軽食を持ってきてもらっていい?」
「かしこまりました」
懐かしい夢を見たからか、朝より少しだけ体が軽く感じた。
第30話を読んでいただき、ありがとうございます!
今回は少し休憩回でした。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




