第29話 夏の楽しみ。
ん――……温度制御か。
やっぱり、そこが一番の壁だ。
あ……そういえば。
以前、新しく売り出された魔法陣。 性能が良すぎて、清涼機を作るには少し扱いづらく、使わずに保管したままだった。
今回作る冷凍庫なら、消費する魔力や必要な魔核の大きさを考えても、ちょうどいいかもしれない。
試しに、保管していた魔法陣を魔導断熱板に組み込み、調整をしてみた。
……これかも。
水属性と火属性の均衡は取れている。魔導断熱板は冷たい。だが、 凍ってはいない。
つまり、あと一歩足りない。
清涼機では、決められた時間だけ魔力を流した。
でも冷凍庫に必要なのは、時間じゃない。
温度という状態を読み取り、必要な時だけ動かす制御だ。
ということは……闇属性の使い方を変えないといけない。
時間を基準にした制御ではなく、温度という状態を基準にした制御へ修正する。
この修正自体は難しくない。
問題は、冷却機能と火属性の排熱、それぞれが干渉しないように調整することだ。
細かく、微調整していく……
冷却の強さ。
火属性による熱の排出量。
そして、温度を感知して切り替える制御。
――出来た。
出来たが、今はまだ十センチ角に加工した魔導断熱板の、簡易的な箱型で試しただけだ。
実際の箱で成功するかは、試してみないと分からない。
俺は庭に置いたままの、溶けかけた箱を取りに向かった。
さすがにもう溶けていた。
安心した。
あれがまだ凍ったままだったら、せっかく魔導断熱板で成功した制御を、試せないところだった。
作業部屋へ戻り、今度は溶けた箱へ、先程魔導断熱板で試した新しい魔法陣を組み込んでいく。
火属性による熱の排出。
そして、温度を感知して切り替える制御。
冷却機能との干渉が起きないよう、慎重に調整していく。
冷却機能は問題ない。火属性による熱の排出も正常に動いている。
だがーー
温度が安定しない。
まだ切り替えのタイミングが合っていないようだ。
何度か調整を繰り返し、ようやく納得できる状態になった。
最後に魔核を取り付ける。
――。
……出来た。
その瞬間、全身から力が抜けた。
……疲れた。
それでも、今のところ温度は安定している。
試しに何か凍らせてみるか。
試しに水を入れた容器を中へ置く。
すぐに凍るわけではない。
表面に氷が張るくらいなら、数時間もあれば十分だろう。
温度が維持されているなら、時間をかけて凍るはずだ。
あとは、待つだけだ。
待っている間に、仕様書を書き進める。
……魔導断熱板に、中型の魔核。
それに、新しく売り出された魔法陣。
俺にしては、ずいぶん高価な魔導具になってしまったな。
他にやりようはなかったのか、次会った時じぃちゃんの意見を聞いてみよう。
売れる気はしないが、アレク叔父さんには一応見せるか。
コンコン――
「フィン様。夕食のお時間です」
「分かった。今行く」
冷凍庫のことが気になったが、結果はもう少し待つしかない。
夕食を終えると、俺はすぐに作業部屋へ戻った。
焦っても結果は変わらない。 そう思っていても、食事中は冷凍庫のことばかり考えてしまっていた。
そして――。
……凍ってる。
やっと出来た。
……早速、アイスを作るか?
今作っておけば、明日はいつでも食べられるし。
そうと決まればキッチンへ向かう。
「フィン様。何かありましたか?」
片付けをしていた料理長が、こちらに気付いて声をかけてきた。
「ちょっと氷菓子を作りたくて」
「おぉ!氷菓子とは珍しいですね」
「冷凍する魔導具を作ったから、作れるはずなんだよね」
「魔導具で、そのようなことも出来るのですね……。ぜひ、私もお手伝いさせていただきます」
「よろしく。確か……卵一つ、砂糖100g、牛乳500mlで、四人分だった気がする」
「……皆さまの分も作るのでしたら、その三倍くらいで作りましょうか」
「そうだね。作り方だけど……」
俺は前世で食べたアイスの作り方を思い出しながら説明する。
「最初に牛乳を少しだけ使って、卵と砂糖を混ぜる。そのあと、濾しながら鍋に入れて、残りの牛乳も加える。
弱火で焦がさないように混ぜて、とろみが出るまで加熱する。十分くらいだったかな。
最後に鍋底を氷水で冷やして粗熱を取る。金属製のトレイに入れて、あとは冷凍庫で冷やし固める。
……こんな感じだったと思う」
「承知しました。あとは私の方で調整いたします」
工程自体は、それほど複雑ではない。
料理長は手際よく材料を混ぜ合わせ、あっという間に準備を終えた。
あとは、魔導具に入れて冷やし固めるだけ。
明日が楽しみだ。
第29話を読んでいただき、ありがとうございます。
やっと冷凍庫、完成です。
次回も楽しんでいただけると嬉しいです。




