第28話 小さな変化。
凍った箱は、庭に置いてから一時間も経っていない。
溶けるまでまだ時間がかかるだろう。
その間に、冷凍庫用に調整した魔法陣の確認を進めることにした。
昨日の失敗で分かったことがある。
冷却するだけなら、清涼機に使った技術で問題ない。
だが、問題は一定の温度を維持することだ。
そこで、十センチ角に加工した魔導断熱板を使い、冷却機能と水属性魔法を発動・制御する魔法陣の調整を行う。
それらを組み合わせ、簡易的な箱型の魔導具として試作した。
しかし、微調整を繰返しても、何度も凍ってしまう……。
何か一つ、見落としている気がするんだけどな……。 いまいちピンと来ない。
そもそも、魔導断熱板が合わないのか?
……いや、さすがにそれはないか。魔導断熱板を使っているからこそ、あの箱は今も溶けきっていない。
……。
……闇属性の制御。
清涼機に時間指定機能を付ける時に使った、あの制御を応用すれば……?
でも、あれは必要な時だけ魔力を流すように制御しただけだ。
……いや。
フィリップ兄さんは、魔導師団ではそれが基本的な考え方だと言っていた。
ということは、その先には、さらに応用した制御方法があるはずだ。
そう考えると、少し可能性が見えてきた。
魔導師団のように、魔力量が豊富でなくても、闇属性を使って冷却機能を細かく制御するには……
……そういえば、前世の冷蔵庫は、ただ冷気を作っているわけじゃなかったはずだ。 庫内の熱を外へ逃がすことで、冷却していた。
ならば……。
冷やすだけではなく、熱を逃がす仕組みを組み込めばいい。
試してみる価値はありそうだ。
火属性を組み込んで、熱を奪い、外へ排出する。
だが、そこで新たな問題が出てくる。
冷却機能と水属性魔法で冷却を行っているところに、火属性を組み込む必要がある。
本来、相反する性質を持つ二つの属性だ。 互いに干渉しないよう制御するには、魔法陣の調整がさらに難しくなる。
……細かく加工した魔力絶縁板を、それぞれの魔法陣の間に組み込むとか。
力技すぎるか。
でも、相反する属性を扱うなら、それが一番確実かもしれない。
――え。
難し過ぎるんだけど。
確かに、干渉しないように制御することは出来た。
だが……いや、これは出来すぎていると言うか……。
凍らないどころか、常温を維持するだけの魔導具になってしまった。
そう。
ただの箱になっただけだ。
………まぁ、凍らなくなっただけマシか。
でも、ここまで来られたなら、あと少しだ。残る問題は、温度を一定に保つ制御だけ。
常温になってしまうということは、水属性と火属性の均衡が取れすぎているということ。
必要なのは、均衡を崩すことではなく、一定の温度になるよう細かく制御することだ。
……やはり、問題は温度制御か。
もう少し考える必要がありそうだ。
その時――
コンコン――
「フィン様。昼食のお時間でございます」
ノアの声が聞こえてきた。
もうそんな時間か。
どうやら、考え込んでいる間に時間が過ぎていたらしい。
「分かった。今行く」
食堂に着くと、ちょうど母さんもやって来た。
食事が並べられていくと――
「母さんだけ、またカツサンドなんだ?」
「えぇ。昨日の夕食でいただいたけれど、少しだったでしょう?だから、お昼にカツサンドを作ってもらったの」
「そうなんだ。それなら俺もカツサンドで良かったのに、わざわざ別のものを作ってくれたのか」
「あなたは開発のことばかり考えて、食事まで簡単に済ませようとするでしょう? だから、軽食で済ませる時以外は、ちゃんとした食事を出すように言ってあるのよ」
「え?そうなの?!」
全然気づいてなかった……。
なんだろう。地味に恥ずかしい。
「気にすることはないわ。あなたが夢中になれるものがあるのは、良いことですから。……ところで、庭に置いてある大きな箱も、魔導具なのでしょう?」
「うん。試作品。今回はちょっと難航してる」
「そうなの?珍しいわね。どんなものを作っているの?」
「箱に入れると、物を凍らせられる魔導具。簡単に言えば、冷蔵庫の凍らせられるバージョンだね」
「……なるほど。その魔導具を作って、何を凍らせるつもりなの?」
「氷菓子を作ろうと思って」
「まぁ!氷菓子!それは是非食べてみたいわね」
「清涼機と扇涼で、暑さを気にせず過ごせるようになったけど、せっかくなら夏らしい美味しい物も楽しみたいなって思ったんだよ」
「とっても素敵な発明だと思うわ」
「……ありがとう」
母さんも、アイスを楽しみにしてくれているみたいだし、気合いを入れ直そう。
午後は調整をしっかりしないとな。
第28話をお読みいただきありがとうございます。
冷凍庫作りは、まだまだ試行錯誤が続きそうです。
次回もよろしくお願いいたします。




