第27話 氷の箱と魔力の無駄遣い。
はぁ……母さんに言われた通り、殿下へ返事を書くとするか。
『ご無沙汰しております。
こちらは変わらず元気にしております。
殿下もご健勝のことと存じます。
やはり情報がお早いですね。
清涼機と扇涼につきましては、リリエン商会よりお贈りする運びとなっております。
今しばらくお待ちいただければ幸いです。
夜会につきましては、参加させていただく予定ですので、ご安心ください。
夜会にてお会いできますことを、心より楽しみにしております。』
……よし。これでいいな。
「ノア、誤字脱字のチェックをして欲しいんだけど」
「かしこまりました。それでは、お手紙を失礼いたします」
そう言うと、殿下へ宛てた手紙を読み始めた。
「問題ありません。……しかし、お手紙ではとても貴族らしい文章を書かれるのが、いつも不思議ですね」
「ん?」
まぁ、前世ではメールや文章を書く機会が多かったからな。それが貴族になった今でも、少しは役に立っている。
……もちろん、今世で受けた貴族教育のおかげでもあるが。
俺は手紙を封筒に入れ、封蝋で閉じた。
「これ、出しておいて」
「かしこまりました」
さて……冷凍庫作りの続きをしようかな。
作業部屋へ戻り、魔導回路の修正の続きから始める。
……修正作業って、めんどくさくていつになっても苦手だなぁ。
だからと言って、本体を一から作り直すのは魔力の無駄遣いになる。フィリップ兄さんくらい魔力があれば、本体ごと一から作り直した方が楽なのかもしれないけど。
なんとか魔導回路を消し終え、魔導回路描写ペンのペン先を(大)へ変更する。
先ほどよりも太くなったペン先を確認し、丁寧に魔導回路を描き始めた。
冷凍庫とはいっても、基本は冷蔵庫の魔導回路の応用だ。 何度も練習しているため、回路を描くこと自体に問題はない。
魔力を少しずつ流しながら、魔導回路の状態を確認していく。
……問題なさそうだ。
次は冷却機能の組み込みだ。
清涼機 《ブリーズ》で使用した冷却機能を基に、冷凍庫用へと調整していく。
それと同時に、一定の温度を維持し続けるため、水属性魔法を発動・制御する魔法陣も冷凍庫用に調整する必要がある。
だが、その調整が思ったより厄介だった。
少しの調整のズレで、一瞬にして箱全体が凍りついた。
……やっぱり、冷やすだけなら簡単でも、一定に保つというのは別の技術が必要みたいだ。
というか、これ……どうやって溶かせばいいんだ……。
清涼機を置いていない廊下に置いておくか?
……いや、ノアに見つかれば、何を言われるか……。
はぁ……魔力で溶かすか。
これこそ、魔力の無駄遣いだ……。
冷やすために作った魔導具を、溶かすために魔力を使うなんて……凄く意味が分からない工程だな。
非効率にも程がある……。
ふと、魔導時計が目に入った。 すでに日付は変わっていた。
……この凍った箱は、このまま作業部屋に置いておこう。 寝て起きれば、自然に溶けているはずだ。
……今日はここまでにしよう。
風呂にゆっくりと浸かり、疲れを癒す。
今日は殿下への返事を書き、冷凍庫作りに取り掛かった。
まさか、冷やすための魔導具で、作業部屋に氷の箱を作ることになるとは思わなかったが……。
ふと、前世の記憶が蘇る。
冬になると、氷で作られたホテルやバーがあったな。
この凍った箱をもっと大きくすれば、似たようなものも作れるんじゃないか……。
……いや、そんなものを作ったところで、この世界で利用する人がいるのか?
……こんな思考になるのは、疲れている証拠だな。
さっさと寝よう。
風呂を終え、部屋へ戻る。
今日はもう何も考えずに眠ることにした――
コンコン――
「フィン様。朝でございます」
ノアの声で目を覚ました。
「……もう朝か」
まだ寝ていたい気もするが、腹が減ったな。
昨日は頭を使い過ぎたようだ。
作業部屋の扉を開け、確認する。すると、凍った箱はまだ溶けている途中だった。
魔導断熱板の性能が高いせいか、思ったより時間がかかりそうだ。
昼には溶けるだろうか……。
いっそのこと、庭に出しておくか。
最近の暑さに加え、太陽が直接当たる分、早く溶けるだろう。
手が凍傷にならないよう手袋をはめ、凍った箱を持って部屋を出た。
「……なんですか? その大きな箱のような氷は」
「新しい魔導具の試作品。溶かしたいから、庭に持って行こうと思って」
「試作品……なるほど……?私が庭までお運びしますので、フィン様は食堂へ」
「そう?じゃあ、お願い」
手袋と凍った箱をノアに渡し、俺は食堂へ向かった。
食堂へ着くと、父さんたちはすでに席についていた。
「おはよう」
「おはよう、フィン」
「おはよう、フィン兄様」
「おはよう、フィン。昨日はあの後、ちゃんと、殿下にお返事を書いたのでしょうね?」
「もちろん。ノアに預けてあるから、朝のうちに手紙を出しに行ってくれるんじゃないかな」
「そう。……それならいいのだけれど。相手は殿下なのですから、今後はきをつけなさい」
「……はい」
朝から母さんに注意されるとは……。
……もう少し寝ていれば良かった。
第27話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は冷凍庫作りの試行錯誤回でした。
次回も楽しんでいただけると幸いです。




