第16話 兄弟で作る魔導具。
「もうそこまで出来たんだ?」
作業台を見ると、フィリップ兄さんは冷却魔導具の本体となる、薄型鉄板を、すでに形にしていた。
「あぁ。だか、ちょっと歪みが気になる。薄型鉄板に纏わせる魔力量の調整は、相変わらず難しいな」
「フィリップ兄さんは魔力量が多いからね」
フィリップ兄さんが魔導具作りより魔法の道へ進んだ理由の一つは、魔力量の多さだった。
魔導具作りでは、込める魔力の量を細かく調整する必要がある。 少しでも魔力が多すぎれば魔導回路が耐えられず、逆に少なければ本来の性能を発揮できない。
魔力量が多い人ほど、繊細な調整は難しくなる。
だから、兄さんのような膨大な魔力量を持つ人間は、魔法の方が才能を活かしやすかった。
そう考えると、じいちゃんは特殊だ。
なんせ、フィリップ兄さんに並ぶ魔力量を持っているにもかかわらず、魔導具師として成功しているのだから。
それどころか、若い頃には魔導師団からスカウトされていたという話も聞いたことがある。
それでもじいちゃんは、魔法ではなく魔導具を選んだ。
そうしてくれて、俺は助かってるけど。
「...... やはり」
フィリップ兄さんは薄型鉄板を見つめながら、少し困ったように息を吐いた。
「これ以上、私では歪みが直せそうにない。フィン、本体の仕上げを頼む」
「あぁ、分かった」
俺は、さっと本体の歪みを直し、再びフィリップ兄さんに渡した。
「ありがとう。次は魔導回路だな。いつもより細いか?」
「うん。魔導回路描写ペンの細いやつで描いてる。そうしないと、回路同士が接触しそうだったから」
「なるほど」
そう言うと、フィリップ兄さんは丁寧に魔導回路を描き始めた。
さて、俺も操作盤の改良を始めるか。
まずは、操作盤の内部に追加する薄型鉄板を、既存のものと同じ大きさに加工する。
次に、その薄型鉄板へ魔導回路を描く。今回は魔導時計の回路を応用する。
昔、練習として一から魔導時計を作らされたことがある。じいちゃんに何度も修正させられたおかげで、この回路を描くこと自体は難しくない。
ただ……相変わらず、魔導時計の回路は細かい。
丁寧に回路を描き進めていると、隣から声が聞こえた。
「これでどうだろう」
顔を上げると、フィリップ兄さんが早々に回路を描き終え、見せてきた。
「いいと思う。……あ、ここは直した方がいい。今は問題ないけど、使っているうちに回路同士が接触するかもしれない」
「なるほど。そこまで考えているのか」
フィリップ兄さんは素直に頷き、指摘した部分を修正していく。
「よし、今度はどうだ?」
「うん、これで進めていいと思うよ」
「では、次に魔法陣へ冷却の術式を組み込めばいいんだな」
魔法陣や術式の構築は、フィリップ兄さんが最も得意とする分野だ。
好きが高じて、仕事にまでしているのだから、さすがとしか言いようがない。
……魔導師団に入り浸っているところは、どうかと思うけど。
まぁ、作業部屋に入り浸っている俺が言うのもどうかと思うが。
そんなことを考えながら、薄型鉄板に魔導回路を描き終えた。
次は、時間になった時、魔導時計の回路から送られる魔力を感知して、魔法陣を起動させる術式が必要だな。
これは光属性と無属性を用いて……交互に配置する。
いや、交互に配置すると、魔力の流れが不安定になる可能性がある。
……魔力の流れを考えるなら、交互じゃなくて並列に配置するべきか――
「その方が魔力の干渉も少なくなるだろうな」
「うわっ!びっくりした……。フィリップ兄さんがいるの忘れてた」
「それだけ集中していたってことだろう」
フィリップ兄さんは、くすりと笑った。
..... 笑われた。
「兄さんは魔法陣への組み込み、終わったの?」
「いや、もう少しかかりそうだ。これも意外と細かいんだな。仕様書を見た時は、そこまでとは思わなかった。こういう細かいところまでこだわるのは、いかにもフィンらしい」
「これくらい細かくしないと、魔力の流れが安定しないんだよね」
コンコン――
「フィリップ様、フィン様。お茶と軽食をお持ちしました」
「入って」
そう言うと、ノアがサイドテーブルにお茶とサンドイッチ、それから一口サイズの焼き菓子を置いた。
「遅くまでありがとう。今日はもう休んで」
「かしこまりました。それでは、失礼いたします」
一礼すると、ノアは作業部屋を後にした。
フィリップ兄さんは、ちょうど区切りがついたのか、お茶を飲み始めた。
俺はもう少し進めてから、お茶にしよう。
操作盤の方は一応出来たから、次は本体だ。
時間になった時、魔導時計の回路から送られる魔力を感知する必要がある。
その魔力を合図に、魔法陣を起動させる術式が必要だな。
光属性と無属性を用いて……こちらも並列に配置するべきか。
……いや、待て。 これでは冷却の術式と魔力が干渉する。
「術式同士を近づけすぎているんじゃないか?」
「え?」
「その間に一枚、魔力絶縁板を入れて、術式を分けてみたら?」
「……確かに」
材料費を抑えるために、なるべく安い薄型鉄板を使っていた。 けど、ここは多少高くなっても、魔力絶縁板を使うべきだな。
……侯爵家に生まれても、前世の金銭感覚はなかなか抜けないな。
第16話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はフィリップとフィン、兄弟での魔導具作りのお話でした。
それぞれ得意分野が違う二人ですが、協力しながら一つの魔導具を作っていく姿を書けて楽しかったです。
次回も引き続き、楽しんでいただけたら嬉しいです。




