第17話 魔導師の興味。
結局、魔力絶縁板を使うことで、冷却の術式との干渉は解決した。
多少コストはかかるが、こればかりは他の素材で代用するのは難しいだろう。
残るは、操作盤から本体への魔力指示だな。
操作盤と本体を繋ぐ魔力通信の術式は、すでに完成している。
今回必要なのは、その通信を利用して、時間になった時に魔法陣を起動・停止させる制御部分だ。
停止させるだけなら、闇属性を組み込めば簡単に遮断出来る。
でも、それでは魔力の流れを断つだけになる。今回必要なのは、設定した時間に正確に切り替える制御だ。
そうなると……魔導時計の時間制御の術式を基礎に、魔力通信の術式との接続部分を調整する必要がある。
描き変えたところに闇属性の術式を組み込めば……。
……いや、これも違うか。
一旦、闇属性から離れるべきか――
「闇属性でいけると思うよ」
フィリップ兄さんの声に、勢いよく顔を上げた。
「でも、闇属性は魔力を遮断するだけだよ」
「それは一つの使い方だろう?」
「え?」
「闇属性は魔力を遮断するだけじゃない。流れを抑制することもできる」
「.....抑制?」
「常に魔力を流すのではなく、必要な時だけ通すように制御すればいい。魔導師団では基本的な考え方なんだけど……魔導具の分野では、あまり使われていないのか?」
「うん、俺は初めて聞いた。じぃちゃんなら知ってるかもしれないけど」
……なるほど。闇属性を使うのは、魔力を止めるためじゃなくて、制御するためなのか。
となると、さっき描き変えた部分に魔力制御の術式組み込めば――
「……なんだ。簡単じゃないか」
肩透かしを食らった気分だ。
「そこに気づくまでが難しいんだけどな」
また、くすくす笑われた。
……まぁいい。 とにかく、問題は解決できたわけで――
「俺もお茶にする」
お茶はすっかり冷めてしまっていたが、乾いた喉にはちょうどよかった。
一口飲んで、ようやく少し肩の力が抜ける。
「私はそろそろ続きに戻ろうかな」
そう言って、フィリップ兄さんは再び作業台へ向かった。
……フィリップ兄さん、俺が食べようと思っていた焼き菓子を、一つしか残してない。
まぁ、一つ残してくれてるだけマシか。
思った以上に、頭を使っていたらしい。
焼き菓子の甘さが染み渡る……。
サンドイッチも一つ手に取り、食べる。
そういえば、この世界でカツサンドを食べたことはないな。 材料自体は揃えられると思うけど……料理となると話は別だ。
……カツサンド、食べたくなってきたなぁ。
何となく作り方は分かるし、今度料理長に頼んでみるか。
料理長なら、きっと上手く再現してくれるだろう。
――もう一杯だけお茶を飲んだら、俺も作業に戻るか。
休憩を終え、再び作業台へ向かった。
まずは、闇属性を組み込んだ制御術式の調整からだ。
魔力を少しだけ流し、術式の反応を確かめる。強すぎれば魔力が遮断され、弱すぎれば制御が甘くなる。その中間を探るように、術式を一か所ずつ微調整していく。
――少し術式同士の距離が近いか。だが、離すと魔力の流れが変わってしまう……。
……いや。術式描写ペンのペン先を細いものに変えれば、術式同士の間隔をもう少し確保できる。
……ギリギリだな。ペン先が潰れかけてる。
また近いうちにリリエン商会に行かないと。
「よし、出来た!」
フィリップ兄さんの方を見ると、冷却の魔導具が完成していた。
試しに動かしてみると――
「「寒っ!!」」
「フィリップ兄さん!魔力量の調整、してないでしょう!」
「いや、調整はしたぞ?」
「した結果がこれなの?」
「……少し強くなっただけだ」
……魔力量が多いのも大変だな。
「とりあえず、それ止めて!寒い!」
「あぁ、分かってる」
そう言って、フィリップ兄さんはすぐに魔導具を停止させた。
「やはり、魔力量の微調整は苦手だな。フィン、代わりに頼む」
「分かった」
魔導具を確認する。
魔力の流れを追うと、二箇所だけ調整すべき部分が見つかった。この程度なら、調整に時間はかからない。
術式修正ペンで不要な部分を消し、術式描写ペンで一画を書き直す。
そして、魔力を流して反応を確認する。
残る一箇所も同じように修正すると、魔力の流れは安定した。
「はい、完成」
「ありがとう。もう一度試してみよう」
今度は快適な冷気が、ゆっくりと部屋を満たしていく。これなら問題ない。
「これで暑さとは無縁でいられるな」
「いや、それはないでしょ。いちいちこれを持ち運ぶつもり?それなら扇子型魔導具を――」
「扇子型魔導具?」
フィリップ兄さんは首を傾げた。
「これの事」
扇子型魔導具をフィリップ兄さんに手渡した。
ついでに仕様書も渡す。
「……なるほど。この扇子型魔導具は冷却魔導具の応用だな?」
「そう。冷却魔導具を持ち歩くのは現実的じゃないからね。これがあれば移動中でも涼しいでしょ?」
「確かに便利だな。父上や兄上は持っていなかったと思うが、新作なのか?」
「うん。母さんとティアナ、それからアレク叔父さんの分だけだね」
「なるほど。母上とティアナなら喜びそうだな」
フィリップ兄さんは、扇子型魔導具をじっと見つめていた。
……やっぱり、これも作りたいって言い出すんだろうな。
「よし、早速作ろう!」
第17話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はフィリップと冷却魔導具を完成させました。
そして、やっぱり興味を持ってしまったようです。
次回もよろしくお願いします。




