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新たな場所

そうして質素な家から出ると、周りは木々で覆われていた。

「……静かだな」

 嫌いじゃない。

 むしろ、こういう場所の方が落ち着く。

 だが。

「……何もねぇな」

 問題はそこだった。

 食料もなければ、金もない。

 このままではスローライフどころか普通に詰む。

「とりあえず、畑か」

 前世でやったことはない。

 だが、何となくの知識はある。

「土を耕して、種を植えて、水やって……だっけか?」

 ざっくりしすぎているが、ゼロよりはマシだ。

 俺は周囲を見渡し、適当な場所を選んだ。

 家のすぐ横。日当たりも悪くない。

「ここでいいか」

 しゃがみ込み、土に手を触れる。

「……硬いな」

 長い間、人の手が入っていないのだろう。

 雑草が生い茂り、土は踏み固められている。

「普通は、道具いるよな……」

 鍬とか、スコップとか。

 当然、そんなものはない。

「……まあ、いいか」

 軽く指を鳴らす。

「俺、別に普通じゃないしな」

 次の瞬間。

 地面に手を突き刺した。

 ――ザクッ

「……おお」

 想像以上に、あっさりと入った。

 そのまま、力を込める。

 ――ゴゴゴッ

 土が持ち上がる。

 まるで粘土のように、塊ごと剥がれる。

「……これ、楽だな」

 思わず笑う。

 普通なら何時間もかかる作業が、数分で終わる。

 雑草もまとめて引き抜き、そのまま横に放り投げる。

 ――ドサッ

「うん、いけるな」

 リズムを掴む。

 手を突き刺す。

 持ち上げる。

 ひっくり返す。

 それを繰り返す。

 単純作業だが、身体はまったく疲れない。

「……これが、ステータス99か」

 軽く汗を拭う仕草をするが、実際にはほとんどかいていない。

 気づけば、かなりの範囲が耕されていた。

「……広げすぎたか?」

 家の横だけのつもりが、気づけばちょっとした畑レベルになっている。

「まあ、余ったらその時考えるか」

 適当だが、それでいい。

 次に問題になるのは――

「種、ないんだよな」

 当然ながら、何も持っていない。

「……探すか」

 立ち上がり、森の方へと向かう。

 しばらく歩くと、低木に実がなっているのが目に入った。

「これ、食えんのか?」

 見たことのない実だが、色は悪くない。

「……まあ、最悪死なないだろ」

 軽く一つもぎ取る。

 少し考えてから、口に入れた。

「……あ、普通にうまい」

 甘みがあり、水分も多い。

「これならいけるな」

 いくつか回収し、ついでに種になりそうな部分も確保する。

「これ植えればいいんだろ、多分」

 雑だが、理屈は合っている。

 家へ戻り、耕した土の前に立つ。

「さて」

 指で土を軽く掘る。

 そこに種を置き、土をかぶせる。

 それをいくつも繰り返す。

「……こんなもんか?」

 かなり適当だが、形にはなっている。

 最後に必要なのは――

「水、か」

 周囲を見渡す。

 耳を澄ますと、遠くから水の流れる音が聞こえた。

「……あっちか」

 走る。

 ――一瞬で。

 気づけば、小さな川の前に立っていた。

「はや……」

 自分でも引く速さだ。

 だが今はそれよりも――

「どうやって運ぶかだな」

 容器がない。

 普通なら詰みだ。

「……まあ、いいか」

 川に手を突っ込む。

 そのまま――

 全力で走る。

 水をすくったまま。

「……こぼれてねぇな」

 異常なバランス感覚で、水はほとんど落ちていない。

 そのまま畑に戻り、ばら撒く。

「よし」

 これを何度か繰り返す。

 気づけば、畑全体がしっかりと湿っていた。

 男は一歩下がり、自分の作ったものを眺める。

「……できた、か?」

 何もなかった場所に、畑がある。

 雑だし、適当だ。

 だが確かに、“生活の形”になっている。

「……悪くないな」

 ぽつりと呟く。

 戦うための力はある。

 世界を救えとも言われている。

 だが今は――

「こういうのも、いいか」

 風が吹く。

 土の匂いが、少しだけ心地よく感じた。

 その時だった。

 ズキリ、と頭に痛みが走る。

「……っ」

 顔をしかめる。

 視界の奥に、何かが“引っかかる”。

「……歪み、か」

 遠く。

 森のさらに奥。

 何かが、いる。

「……はぁ」

 ため息をつく。

「せっかく作ったのに」

 少しだけ残念そうに、畑を見た。

 だが。

「まあ、すぐ終わらせるか」

 俺は踵を返す。

 静かなスローライフは――

 まだ、始まったばかりだった。


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