橅
ドローンのソナーが高荷電粒子と干渉する時に似た異音が、遠く近く、空に放たれては際限なく落下してくる。
「夕方の通り雨で、蛙が元気になったんだよ」
智が教えてくれて、あんなふうに鳴く生き物がいるんだと驚いた。「ちっちゃいし害はないよ」と言われても、姿形が分からないから油断してるうちに家を取り囲まれないか、変な想像を掻き立てられる。適度に疲れていた昨日までと違い、今夜は眠れる気がしなかった。
廊下に出ると隣の部屋の引き戸が開いていて、布団はもぬけの殻だった。朝になったらいなくなってるんだよね。返事を聞いて戻りたいと思ったものの、階下に人の気配はない。
蛙に出くわすことを考えると、玄関を開けるのは勇気がいった。隣の部屋で寝ててって言ったのに。外に出ると思った通り、プレハブから光が漏れている。
何か聞こえる。
CDとは違う、空気を直に震わせる音。立ち止まり、耳を研ぎ澄ます。
これって。
ガラス窓を隔てくぐもったクラリネットにどうしようもなく吸い寄せられ、心の奥底にしまっていた旋律が、突如呼び起こされる。騒がしかった蛙の声は消え去り、身体の内側を激しく揺さぶり時間と空間を越えズームするように、音楽が目の前の背中で像を結ぶ。遠い昔、誰かの腕の中で歌ってもらった気がする、感傷と記憶が蜜色に溶け合った子守唄。私には分かる、二年前に聴いた曲、二年前と同じ人。
開かない。ノブを回すのも忘れ、ガチャガチャと鳴らすドアを
「橅? どうしたの」
反対側から開けた智が顔を出す。
「見つけた」




