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第二十話 『変化と信頼』

 ジェメドリッサの手から、封筒は奪われた。

 審査員が無造作に封を開け、中身を取り出す。

 ジェメドリッサは唖然としてその様子を見つめていた。冷や汗が湧き出る。

 そしてあろうことか、審査員は中の手紙を読み上げ始めた。

 

「親愛なるジェメドリッサ様へ。いかがお過ごしでしょうか。この度は多大なる迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。あなたという婚約者のある身でありながら、あなたを軽視するような行動をしてしまったことをお詫び申し上げます。しかし、正直なところを申しますと、気持ちが離れたまま、このまま卒業を迎え結婚してしまってはいけないという考えがあってのことですので、そこを配慮して……。これはこれは。謝罪と言い訳だけではありませんか」


 途中まで読んだところで、審査員がジェメドリッサとジオルガを交互に見て嘲った。

 ジェメドリッサは真顔だった。審査員ではなく、じっとジオルガを見つめる。ジオルガもジェメドリッサの目をそらすことはなかった。


「……やめてください。私への手紙ですから」


 ジェメドリッサが淡々とそう言うと、審査員は肩を竦めてジェメドリッサに封筒を突き返した。興味はないと言いたげだった。


「ジェメドリッサ様も、こんなものジオルガ・セムトリーのように穢らわしい火で燃やした方がいいですよ」


 意味ありげな審査員の発言に、ジェメドリッサは顔を顰めた。火炙りの刑ということか。

 しかしジオルガはじっとジェメドリッサを見るばかりだった。


「行きますよ」

「はい」

 

 審査員とともに、ジオルガは背を向けた。その背中には、諦めや絶望はなかった。ジオルガらしい静かな空気をまとっていた。

 何を考えているのか、ジェメドリッサには検討もつかなかった。

 ジェメドリッサが何を言おうが、ジオルガは止まらない気がした。逃げているのではなかったのか。

 振り返ることもなく、審査員達はジオルガを連れて研究室を去った。




◆ ◆ ◆




「……何か知ってるの?」


 唐突な提案に、ミャオリンは修道女達をまじまじと見つめた。一斉に手を止めた様子からして明らかに先程と空気が異なった。


「ジェメドリッサって有名なの?」


 ミャオリンは、ジェメドリッサが貴族で何故か追われていたことを思い返した。

 そばかすの修道女は、首をうーんと傾げた。


「最近のことはわかんないけど、私達みたいな……そう、この年代の社会的弱者には有名だな」

「ジェメドリッサ様は昔、奴隷を助けたんだべ。貴族にしちゃほんに珍しい。人身売買されてた一人の少女を助け、そっから、なんちゃら家の屋敷に匿ったんだと。そんときに奴隷商は街の憲兵に突き出されて、多くの奴隷が解放されたんだべさ」


 ミャオリンはジェメドリッサの穏やかな表情を思い浮かべた。まるで聖女、いや、英雄のような扱いだ。


「それってどれくらい前の話?」

「んー、十年くらい?」

「えう?」


 ジェメドリッサはかなり若く見えたが、ミャオリンの勘違いだろうか。

 

「まあ何でもいいけど。それで、みんな知ってるってこと?」

「うん」


 そばかすの修道女が頷いた。しかしオウリャンは懐疑的だった。


「……でも、そのジェメドリッサ様とやらも、ミャオリンは助けてないのよね。じゃなきゃミャオリンはこんなところにいないわよ」

「それは違うよオウリャン」


 オウリャンの思考はわからないでもなかったが、大変なのはミャオリン達だけではない。


「ジェメドリッサの方が今どうなってるかはわからない。きらきらした服着た人がいっぱいいて、その人達に連れていかれてた」

「どういうこと?」


 そばかすの修道女が聞いた。周りの修道女は全て、手を止めてこちらの話に耳を傾けていた。


「ジェメドリッサ様が捕まった? そんな。確かにこの水神教会は貴族とも国家とも繋がってるみたいだけど、違法なのは奴隷制のほうなのに。あくまでも憲兵は法に従うはず」

「あ、いや、捕まったかはわからないけれど、また別のことに巻き込まれている感じで。ダイヤモンドがどうとか、ジオーガ・セントリーだかジョルガ・セミトリーだかなんだか言ってた」

「セムトリー家のこと?」

「そう、それ。セムトリーだったような気がする」


そばかすと訛りの修道女は顔を見合わせた。訛った修道女は眉間を指でぐっと押さえた。

 

「セムトリーといえば、レディア・セムトリーだんべ」

「誰?」

「人魚の奴隷貿易に最初に気付いたとされる人だべさ」

「まさに今の状況ってわけ」


 そばかすの修道女は倉庫内を見まわした。


「昔なのか最近なのかわからないけど、五十年以上前から人魚の奴隷貿易自体は存在してたみたい。でも、最初から水神教会の管轄ってわけでもなくて、国も黙認なんてしてなかったけど、政治の中枢付近にいる貴族が非合法のはずの人身売買に足を突っ込みはじめて、雰囲気が変わったんだって。水神教は金がほしくて、貴族だって多くは水神術者で、陰では隠れて奴隷を所有してんだから、ミュリムソンだってしょうがないから、王権を守るために見て見ぬふりをするんだ」


 修道女は口の端を上げて卑屈な笑みを貼り付けていた。その様子にミャオリンは頬をぴくりと痙攣させた。


「なんでそこまでわかってて何もしないのよ」


 そばかすの修道女は笑みを深めた。


「人魚のあんたらがいる前で言うことじゃないけど、そうしないと私達が捕まるだけだ。ジェメドリッサ様の救出事件があってから普通の奴隷商への警備の目は厳しくなったけど、国と教会が関与している人魚のほうは、それどころかますます盛んになってる。そっちを壊したら、矛先が向くのは私達のほうだ。有り体に言えば身代わりだ。当然だろ」


 ミャオリンは反発しようと口を開いたが、言葉は出てこなかった。

 それには構わず、話は続く。


「それから、レディア・セムトリーは、規制された『涙の海』の伝説を、歌にした人でもあるだべ」


 『涙の海』

 その題名は、ジェメドリッサが教えてくれた。そして、歌とは、まさか。


「記憶を歌い 語り継ごう」


 ミャオリンが最後の一節を口ずさむと、修道女は頷き、オウリャンは目を剥いた。

 再び歌詞を思い返すが、しかしミャオリンとしてはまだよくわからないままだった。


「あ、ただ、規制前の内容だから、話の内容はかなり違うはずだけど」

「元の内容ってどんな感じなの?」


 ミャオリンは、ジェメドリッサと見た図書館の黒塗りの本を思い出した。ジェメドリッサの知る絵本の話とは異なり、人魚が登場したようだったが、ほとんど何も読み取れなかった。


「私はあまり字を読むのは得意じゃないから、ここで語り継がれてるざっくりとしたことしか知らないんだけど」


 そばかすの修道女は、静かに話し始めた。


「大枠の話の流れは規制される前と変わらない。でも本当は、かなり実話をもとにした話なんだ。主人公はガウマンで、海賊船に捕まっていた。ここで隠されていたのが、人魚の存在。その海賊船は人魚の奴隷商と繋がっていて、積み荷には人魚の入っている箱があった」


 ミャオリンは倉庫の大量の箱を見まわした。


「規制版ではダイヤモンドの指輪が変なキーワードになってるみたいだけど、原本ではそれほどでもない。多分どっかの国に忖度したんだろ。それで、嵐が来たのは本当なんだけど、ダイヤモンドの指輪を瓶に入れて流したってのは作り話で、本当はガウマンは混乱に乗じて人魚を海に放ち、自分はばれて海賊に殺された。だから、故郷にいた妻子に真実を伝えたのは光魚や光蠅に導かれた人魚で、そこで婚約指輪を返した、みたいな話もあった気はする。そっからは一緒。水神が出てきて、涙を流して、なんか湖ができて、みたいな。流石にそのあたりは作り話だと思うけど」


 そこで修道女は一息ついた。


「とにかく、もともとこれは水神教が人魚を聖なる存在として崇めていた話で、正面から奴隷制を批判してるってわけ。もうわかるだろ。それが都合が悪くなったから、書き換えた、ってわけ。解放された人魚も捕まって、狭い洞窟に入れられてるんだってな。水神教だけじゃなくて、いろんなとこと癒着してる」


 ミャオリンはぞっとした。

 オウリャンも息をのんで話を聞いていた。


「ダイヤモンドはさぞ人気になったんだろうな。神話に登場する、愛の誓いの結婚指輪。私達にゃ関係ない話だけど、貴族の恋人同士の間で広まって、どっかが儲けたんだろうな」


 酷い話だ。ジェメドリッサがダイヤモンドの指輪を持っていたのも、そういうことなのだろうか。

 でもこれで、ミャオリンの決意は定まった。


「じゃあみんな、逃げよう!」


 『涙の海』の話の一部は真実というのなら、先例はあるということだ。


「私達もガウマンみたいに、なんか混乱を起こして、その隙に逃げればいいんだ」

「ミャオリン何言ってるの!?」


 オウリャンが叫んだ。


「上手くいくわけない! 失敗して捕まったらジエンみたいに死ぬの!」

「どっちにしろ不幸なのは変わらないんだよオウリャン! それにジエンは死んだからこそ、その遺志を継ぐんじゃないの!?」


 オウリャンは言葉に詰まった。


「あとさ、自由じゃなくて泳げなくて歌を歌えなかったら、私は一生何して生きればいいの?」

「あ、それはちょっと待って。泳げるか泳げないかだけど、ミャオリンさん、だっけ? 人魚だけどその姿ってことは、薬飲んだんだろ?」

「え、うん」


 そばかすの修道女の唐突な問いに、ジェメドリッサは振り返って頷いた。


「もしかして全部飲んだ?」

「え、うん」

「それまずいよ」


修道女は真面目だった。


「もとに戻れなくなる」

「え?」


 ミャオリンは目を見開いた。オウリャンも同様に驚いて身を乗り出した。


「なんの薬を飲んだのよ、ミャオリン」

「えっと、ここに来て最初に親切に助けてくれた男の人からもらったから、わかんない」

「何それ!? 人間を信用したの!?」

「ちょっとオウリャン! いくら何でもこの場で言うことじゃないでしょ!? 今いろいろ教えてくれたのもみんな人間だよ。失礼でしょ?」

「失礼って……どの口が。人間の世界に来て人格でも変わったの!?」

「違う私は広い世界を知ってちょっとは成長して」

「ちょっとあんたらうるっさい。一旦黙ろうか」


 そばかすの修道女にミャオリンは口を塞がれた。オウリャンは訛りの修道女のほうに宥められている。

 そばかすの修道女が、両手をぱんぱんと頭上で叩き合わせて、周りを見回した。


「内輪もめはやめて。この倉庫は監視されてるわけじゃないけど、騒がしかったら本業の人魚奴隷商が修道士の姿をしてやってくる。どちらにしろ、定期的に様子は見に来るんだ。ここの箱の人魚も三日後には完全に用意しないと私達が罰をくらう羽目になる。自分の首は自分で絞めるな。いい加減事情がわかったら受け入れろ」


 倉庫内に沈黙が降りた。周りの修道女達は、木箱を運び出し始める。

 ミャオリンは悔しさに唇を噛んだ。

 自分が人魚に戻れないというのは、受け入れ難かった。人魚というのは、ミャオリンのアイデンティティでもあった。それが今は人間の姿で、自分は今人間でも人魚でもないのだと思うと、無性に身をよじってしまう。

 でも、だからといって人間が嫌いではないのは本当なのだ。新しいことがたくさんあって、尾ひれの代わりに足があるから、陸上なら自由に歩くことができる。

 そこでミャオリンは、はっとした。

 先ほどそばかすの修道女がしたように、両手を叩き合わせて音を鳴らす。


「ねえやっぱり逃げようよ! 希望を持とうよ! いい考えを思いついたから!」






◆ ◆ ◆




「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか」

「婚約指輪を」

「それはそれは、おめでたいことでございます。こちらにお掛けになって、少々お待ちください。当店のおすすめの品を持って参りますので」


 ディゲルが店員と対応するのを、慣れているんだな、思いながらジェメドリッサは眺めていた。

 言われた通りの席に座り、ため息を漏らす。

 その日、ディゲルとともにジェメドリッサは、ミュリムソンの中心街にあるソリエダ商会のミュリムソン第一支店に来ていた。


 学院祭でジェメドリッサが途中で抜け出してジオルガに会った件についてペトリージャとディゲルとヘルドに話すと、怒られはしたが、その後ジオルガが捕まったという情報のほうが重大だった。それに関してジェメドリッサは責められるわけでもなく、ジオルガの思考が読めないという点で、四人の考えは一致していた。

 早速学院祭の翌日に、国からジオルガの処刑の詳細が決まったという知らせがあった。

 罪状はもちろん、ソリエダ商会のダイヤモンド窃盗によりナヤルとミュリムソンの国家間の外交に問題を生じさせたこと、である。

 そして問題なのが、日時と場所。驚くべきことに、処刑は涙の海の水神教会にて、三日後。そもそも、なぜ水神教会なのかという疑問がある。また、審査員の言った一週間後ですら衝撃的だというのに、三日後ではどうしようもない。

 そこで、とりあえず四人は、できるだけ情報を集めることを優先することにしたのだ。ジオルガの目的とは何なのか、それがわからないと彼のために何もできない。

 そこでヘルドが商会のコミュニティで噂になっているソリエダ商会の調査を提案したのだ。ジオルガが窃盗を起こしたということで、ミュリムソンから何らかの支援があったのだという。そこで、ディゲルとジェメドリッサの組み合わせは、正式な婚約者ということもあり、怪しまれないため、二人が行くことになった。


 ジェメドリッサは店内を見回した。

 高い天井、大理石の床、豪奢な光を放つシャンデリア。いかにも上流階級の店といった雰囲気で、勿論ジェメドリッサもそれに当たるのだが、これまでは行ったことはなかった。恐ろしいことにショーケースに並べられてある装飾品に値札はついておらず、基本的には店員が客ごとに対応するようだった。

 二人のほかにも客は何組かいて、大体は男女だった。


「お待たせいたしました」


 店員が戻ってきて、テーブルの上に指輪と宝石のサンプルを並べた。一つ一つ小箱の中の白い布の上に綺麗に置かれてある。

 ジェメドリッサとディゲルは、食い入るように全てを観察する。


「あ」


 ジェメドリッサはダイヤモンドを見つけ、ディゲルと顔を見合わせる。


「ダイヤモンドが気になられますか?」

「え、ええ」

「婚約指輪や結婚指輪には人気の宝石ですよね。透き通っていて、光を反射して、清純さを表すんだと、皆さんおっしゃられますからね」


 店員はダイヤモンドを乗せた箱を中央に移動させる。


「前まではかなり値段が高騰していたのですが、最近は徐々に落ち着いてきましたね。いくぶん買いやすくなったのではないでしょうか」


 ジェメドリッサは再びディゲルと顔を見合わせた。

 前までは特に意識していなかったことの意味が、わかってくる。

 ジオルガがソリエダ商会から盗んだのではない。その逆なのだ。ナヤルとミュリムソンの外交問題とて、悪化するどころか、いい方向に向かっている。ジオルガはいいように利用されているだけなのだ。本人も認知しているのだろうし、それももしかすると、最近だけの話でもないのかもしれない。


「価格が高騰していたのは、聞くところによると需要が大きすぎてダイヤモンドが枯渇したのだとか。新たな鉱山でも見つかったのですか?」

「はい、そのようです」


 ディゲルの際どい質問にジェメドリッサはひやりとしたが、店員はにこやかに答えた。


「私も詳しくは知らないのですが、それによって供給が追いついてきたそうです。私はこの支店の店長に過ぎず、基本的にナヤルのソリエダ商会では国をあげておこなっている事業ですので、鉱山も国が管理しており、よほどの位にいないと詳しくは教えていただけないようですね」


 この店長は本当に何も知らないのだとジェメドリッサは察した。おそらくこれが、表向きに広がっている説明で、実際の技術は国家機密にでもなっているのだろう。ジオルガは随分と遠いところに行ってしまった。


「それでは、婚約指輪はダイヤモンドにいたしますか?」


 店員は二人に営業スマイルを向けた。

 ジオルガのダイヤモンドだと思うと魅力的だったが、ジオルガに利益が入るわけではない。


「いえ、やっぱり、エメラルドにします」


 ジェメドリッサの返答に、店員は特に疑問を顔に浮かべることなく頷いた。


「承知いたしました。では次に、指輪のサイズを測りましょうか」


 とんとん拍子に、購入の手続きが進んでいく。どちらにしろ婚約指輪は作らなければいけなかったため、二人分を注文し、後日受け取りに来るということで、二人は店を後にした。

 本来ならこういう場面にはフリエを連れてきた方がいいのだろうとは思ったが、今回は心配をかけたくなかった。受け取りの際には一緒に行こうと思う。ジェメドリッサもディゲルとの婚約を少しずつ受け入れることができてきたため、そこもフリエに伝えないといけない。

 焦りと不安で、ため息をついてしまう。

 すると、ジェメドリッサの手が温かなものに包まれた。


「大丈夫ですか?」


 ディゲルの手だった。

 ジェメドリッサは戸惑ってしまう。政略的なものなのだと自分に言い聞かせるが、ジオルガとの時はあまりにも異なり落ち着かない。


「……ええ、はい」

「私じゃ嫌ですか?」

「え?」


 唐突な言葉にジェメドリッサはディゲルを見上げた。ディゲルは哀しげな笑みを浮かべていた。


「嫌ですよね。ジェメドリッサ様は、本当にジオルガ様が好きなのですね。ジオルガもあなたをとても」

「や、やめてください。もう戻れないのは私もわかってるんです。ゾニア王女殿下からの紹介だから断れないのはわかっていたんです。本来はあなたともっと仲を深めないといけないのに、うじうじしてるのは私のほうです。本当にすみません」


 ジェメドリッサはディゲルの手を握り返した。

 そしてふと、ジオルガがこれを見たらどう思うのだろうかと考える。これこそ浮気なのだろうか。それとも、まだジオルガを想っているという方が、ディゲルに対して浮気なのだろうか。どちらにしろ、ディゲルに対して恋愛感情は湧かなかった。

 そこではっとした。婚約の先には、結婚がある。せっかくディゲルのほうから親しくなろうと頑張ってくれているのに、それを、自分は。


「あまり悩まないでください。世の中の政略結婚は大抵そのようなものです。でも、仲良くしてくださるとありがたいです。この先はきっと長いでしょうから」

「……そうですね。ありがとうございます」


 ディゲルは十分な相手だった。信頼できるし、ジェメドリッサのことも理解しようとしてくれる。


「ただ、ジオルガはあなたの想い人であるだけじゃなくて、私の友人、というか、戦友でもあるんです。そのジオルガが蔑ろにされて、じっとしているわけにもいきません。三日後、必ず助けに行きましょう」

「はい」


 社会は何もかもが理不尽だった。それでも、その中で幸せを掴んで、時には破っていくことで、何か変えられるのではないか。そんな希望を持ちたかった。
























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