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現代も案外ファンタジーだったので、好き放題に生きようと思う。  作者: 遠野九重
Future fragments Ex "世界にただひとりの花嫁"
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133/145

世界にただひとりの花嫁 3

三人称 → 一人称

投稿後、一部パートを削ぎ落したので短め







 ハイリア皇国における、王と皇子の失踪。

 それに引き続く、人族領の群雄割拠。


 まさに激動の時代としかいいようのない状況であるが、ここでさらに大きな変化が起こる。

 争いあるところに現れ、両軍の兵士すべてを戦闘不能に追い込む謎の存在――『黒獣』の襲来である。


 狼じみた凶相に、戦鬼(オーガ)めいた巨躯。

 全身は黒一色に塗り込められ、紅の瞳だけが禍々しい光を放っている。


 剛腕が振るわれるたび、城がひとつ消滅した。

 咆哮が地を震わすたび、師団がひとつ壊滅した。

 

 うっかり兵を出せば全滅は免れず、こうなると各国は睨み合うほかない。

 すべての戦線は膠着し、表面的なものではあるが、一時の平和が訪れようとしていた。

 

 果たして黒獣は何者なのか。

 一説によると、


「勇者ヨシトではないか?」


 と言われているが、詳細はまったくの不明である。





 * *

 




 

 300年前。

 俺は勇者として魔王軍と戦っていた。

 けれどミーアに敗れた後は、戦争そのものを止めるため、両軍を区別なく殴り倒すようになった。

 改めて振り返るとあまりに安易な発想だし、やってることは無差別テロも同然だ。

 とはいえ、人族と魔族のあいだで和平が成立したことを考えれば、決して無駄ではなかったと思う。


 いま俺がやっていることは、その再現。

 かつての自分を追い駆け、ミーアが愛した八矢房芳人(俺)を取り戻す。

 神としての権能は使っていない。

 見た目は黒獣だが、力量(スペック)としては当時の俺と同程度。

 

 そうやって人族領を飛び回り、戦争という人の生き死にの現場を見るうち、だんだんと分かってきた。

 俺がいつのまにか見失っていたもの。

 たとえば、


「人生は一度きりである」


 ということ。

 あるいは、


「死んだらそれまで」


 ということ。

 永遠不滅の存在になったせいで、その実感を忘れていた。

 

 この気持ちは、俺の本体にも届いているだろうか。

 以前に比べると接続が弱くなっているが、伝わってほしい。




 

 

 * *






 結婚式の日が訪れた。

 

「ヨシト殿、似合ってますぞ」

「そ、そ、そそそ、そうですか?」


 鏡の前に立つ。

 黒いタキシード。

 一流の機織蜘蛛(アラクネ)らの手によるものだ。

 心なしか、自分の姿がいつもより大人びて見える。


「まるで息子の結婚式のような気分です」


 宰相のポーンさんが、嬉しそうに頷く。

 

「あ、あ、あ、あ、ありがとう、ございます」

「ははっ、ずいぶんと緊張なさっておりますな」

「ええ、まあ」


 昨日まではわりと落ち着いていたんだが、いざ当日となると、このとおり。

 全身がガチガチだ。

 これならまだ、《泡》と戦っていたときのほうがリラックスしていたと思う。


「では気分転換に、外でも見てはいかがでしょう」


 窓へと歩み寄る。

 魔王城の周囲には、たくさんの人が詰めかけていた。

 出店も多く並んでいて、花火がバン、バン、とあがる。

 まるでお祭り騒ぎだ。


「皆、ヨシト殿とミーア様のことを自分のことのように喜んでおります。……ヨシト殿? ヨシト殿?」


 くらくらしてきた。

 我ながら情けない話だ。

 でも、これもひとつの"人間”らしさ、なのだろう。






 式が始まる。

 場所は、魔王城の正面庭園。

 色とりどりの花が咲き誇っている。

 ウェディングドレス姿のミーアは、陳腐な表現になってしまうが、言葉が出ないほど美しかった。

 全世界の時を止めて、ずっとその瞬間に留まっていたいほど。

 彼女は、儚げに呟く。

 

「私は幸福だよ。今日の思い出さえあれば、もう何も望むものはない」

「今日だけじゃないさ」

「慰めはいい。私たちは元の世界に帰らねばならんだろう?」


 諦観を孕んだ問い。

 けれど、


「帰らなくていい。いや、帰さない」


 俺は、決意を込めて、告げる。




「――ずっとこの世界で暮らそう、2人で」

 

 


 


 

 やがてミーアが浮かべた表情を、俺は、生涯忘れないだろう。

 

 まずは、大きく目を見開いた。

 予想外の発言に驚いたのだろう。


 それから何度か瞬きして、青い瞳から、涙が零れた。

 

 最後に、微笑む。

 微笑みながら、泣いていた。


 まだ式は始まったばかりで、指輪の交換も何もしていない。

 けれどお互いに感極まって――くちづけを交わしていた。


 


 式場にはしばらく沈黙が流れ、


「おめでとうございます、お姉様。――楽隊、祝いの曲を!」


 プラナの号令とともに、大歓声に包まれた。



 


 次回でこのシリーズは終わります。

 省略部分が気になる方は活動報告へ…

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