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間章 兵器研究者のメモ2

この作戦に参加したのは、あるいは自責の念のためであるのかもしれない。

もうこれ以上、己の無能によって人が死ぬ姿を見たくはなかった。

研究者として調査隊に参加すれば、それから逃れることができると信じた。


幸い、独り身だ。

妻には先立たれ、親交のある親族もいない。この時代では珍しい話ではない。

誰も悲しむものはいないのだからと覚悟を決めた。

だが、それでも、ここは地獄だ。


 

心圧は、一定レベルを越えると物質的な性質を持つ。

沈むほどに固体へ近づく、我々の調査は、必然、地面を掘り進めるような作業となった。

あらゆる通信は有効距離をすでに越えている。さらにこの高硬度心圧だ。もっとも軽い情報ですら運ぶことが難しい。

 

いや、ひょっとしたら、『上』はもう閉じているのではないか。我々は泡のような有様で下を目指しているのではないか。

時折、そのような声も聞こえる。

閉鎖環境におけるストレスがもたらした強迫観念だろう。

まったく無益な想念だ。たとえそうであったとしても、我々は進み、調べる以外にないのだから。


この調査のためにわざわざ作られた大型特殊心動船は、これだけの心圧を前に小揺るぎもしない。

仮にわずかにでも浸食されれば、我々の大半は全員死亡したことだろう。

意海への耐性は、ただの人では無いに等しい。混者であればある程度生きながらえることができるが、結末は同じだ。

この船の頑丈だけが、我々の命を保証している。いまも外の固形化した暗黒を破砕し、内部へ酸素を供給していた。




船の内部では会話などありはしない。当然だ。ここに心明るいものなど一人もいないのだから。

没交渉であり、独り身であり、心が重く、重要ではない者、それがこの調査隊に参加する条件だった。

たまに聞こえる声は残らず他者の無能を冷静に指摘するものでしかなく、日々の食事も個室にて取ることを勧められている。

我々の感情が浮沈に影響することはないはずだが、少しでも重さが欲しいのだろう。

到達深度が、それで決まるのだから。

少なくとも自分に関して言えば、心が明るくなることなどは決してない。


そう、深く潜るための重さとは、人の限界を越える沈鬱が要求される。

しかし、それを継続することはとても難しい。人の心とは、放っておけば灰色の均衡へ至る。どのようなものであれ、いつしか『慣れて』しまう。


それを防ぐために、混者がいた。

四方それぞれに、四人の魔女と四人の混者が密室にて過ごし、この調査船を沈め続けた。

混者は、その全員が『再現』の概念を保持していた。

魔女がその生涯の内に持つ一番の最悪を、鮮やかさを一毫も失うことなく『再現』させる。

繰り返し、何度も、ただの一時も休まずに。

刻み込まれた感情は幾度も幾度もリフレインし、脳へと焼き付けられる。

もはや混者がその力を使わずとも、この船は沈み続けることだろう。

 

そう、だからこそ、我々が調査を終え、浮かび上がるためには、彼らを切り捨てなければならない。

人の形をしたバラストだ、この調査船を沈めるための『重し』だった。

切り離しは、設計段階から準備されている。

魔女たちはこの調査が終われば使い捨てられる。

全員が志願してのことだと聞いているが、信じる者は誰もいない。

混者を回収し、その後に切り離す予定だそうだ。

もっとも、現実的には、沈む人数は八人だろう。

混者の誰もが、魔女に最後まで寄り添うことを望んだ。


 


――好奇心か、あるいは罪悪感からか、彼らの様子を外から見たことがある。

一人の男がへらへらと笑いながら喋り続け、女が唇を噛みしめている姿があった。

彼らが閉じ込められている部屋は三角錐であり、マジックミラーは頂点に設置されていた。


私は、人物プレートを確かめた。

記憶違いかと思ったのだ。

だが、たしかに男が『魔女』であり、女が混者だった。

歩き、喋り続ける男の目は、現実を何一つ映し出していなかった。


 

このような有様に、一応の成果らしきものはあった。

掘り進める内に、物陰を発見したのだ。

意海の中心核ではないだろうが、これほどまでの深さに存在する物質だ。

 

我々は期待した。

慎重に時間をかけて、周囲を掘り進め、露わにさせる。

期待は、失望へ急落した。

多数の命を使い捨て、このようなものしか持ち帰ることができないのか?


限界深度が近づきつつある、成果がこれのみで終わる公算は高かった。

船内では荒げた声が粘性のある泡のように諸処より噴出し、会議という名の罵り合いが頻発した。

そうした気持ちには、強く共感できた。

気づけば外へと出る扉の前に、半日以上立っていた。

無意識のうちに、責任を負いたがっているようだ。

潔い行動などではなく、ただの逃避であると理解している。

だが、どうにかしてこの場から逃げ出したくて仕方ない。

あれを持ち帰り、皆に見せるのか? まったく、悪い冗談だ。


ああ、しかし、なぜこのような場所に、桐のタンスがあるのだろうか――

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